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エウレカ 私は見つけた 第18話

18 ロドリゴの似顔絵

 
 ロドリゴは、真珠のネックレスが引き立つドレスをミケーネに買うために、いっそう仕事に心を込め、お客さんに丁寧に接した。仕事はだんだん軌道に乗ってきて、彼はやりがいを覚えるようになった。

 大きく変わったのがミケーネとの関係だ。お礼にもらった真珠のネックレスを彼女に見せたとき、彼女は間髪を入れずに「私にはもったいない」と言った。
 だが、つけてみると、まるで彼女が以前から持っていたように、ぴったりしていて、ミケーネの内面からにじみ出るような美しさや気品をさらに引き出した。

 うれしくて顔が少し上気した彼女は、ポツリ、ポツリと次のような話を始めた。

「おばあさんから譲り受けた宝石のうち、最後に手放したのが真珠のネックレスでした。この色つやといい、また粒の大きさといい、そっくりです。
だから、まるでそれが私の手元に戻ってきたようで、とてもうれしい」

 「ミケーネは生活に困り、これまでに思い出の品をいくつも手放したのだなあ。知らなかったとはいえ、ほんとうに申し訳なかった。これからはミケーネが安心して暮らせるように、また今までの罪滅ぼしもしていきたい」
ロドリゴは、改めてそう思った。

 ロドリゴが折り際に渡しているお礼カードは好評だが、その場でさっと余白にお客さんの似顔絵を描くともっと喜んでもらえると思った。そこでツアーに参加せず、比較的時間に余裕ががある人には、サービスで描いた。

 似顔絵を描く時間は、ランドルと俺にとっては、ちょうど休憩タイムになり、好都合だった。
 
 似顔絵サービスを始めて、2ヶ月位経った頃、乗り場で「ロドリゴ、ロドリゴはどこにいる?」と何人もが呼んでいる。それがみんな似顔絵を描いてもらいたい人たち。おかしい。宣伝も何もしていないのにと思ったら、1人が携帯の画面で、ある人のインスタを見せてくれた。どうやらそこに似顔絵も載っているらしく、それが話題となっているようだ。

 アントニスは何か解決策を考えないとロドリコを選ぶお客さんが溜まって、
ロバタクシー全体の営業に支障が出ると言う。彼はしばらく考えていたが、目が輝いた。何かいいアイディアが浮かんだらしい。その概略はこうだ。

○  今まで無料だった似顔絵を、混雑を解消するため、オプションで3ユーロで販売する。

○  朝一番にロドリゴは、ランドルにお客さんを乗せて、丘の上でほぼ終日、絵を描く。お昼にロバを利用する人は、個人で観光地を回っている人が多いので、
10分で描く色紙を8ユーロでも販売する。

 ロドリゴは絵で稼いだ収入の1部をタクシー組合に納める。まず、今後1ヵ月の動向を見て割合は、両者で協議する。
 
 アントニスが言うことには、まずはロバタクシー運航の正常化が最優先。インスタの影響で、ロバタクシー全体の人気が高まるなど波及効果もあるかもしれないと彼は考えていた。
 
 ロドリゴは、こんな状況になるとは、予想だにしていなかった。彼は口コミの効果しか知らなかったのだ。
 また、彼は今の世の中の動きに驚いた。それと意外だったのが、アントニスの先を見通す眼力。彼の案だと、ロドリゴはほとんど丘の上にいて、絵を描き、最後にお客を乗せて降りてくるだけになる。ランドルも、それならご機嫌だろう。
 色紙にはランドルを入れてもいいし……。
 
 アントニスの予想はみごとに的中した。3日ほど待合所はごった返したが、翻訳機を使い、まずは英語で似顔絵オプションについての説明を貼り、混雑解消の対策として理解してもらうようにした。

 

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