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宗教の多様性と宗教文化士の役割-純米酒「六根」、コーシャ認定の記事から

 宗教文化士の更新時のレポートの記事より

宗教を理解する上で、あるいは教える立場において、「宗教一般知識教育」「宗教的情操教育」「宗派信仰教育」「対宗教安全教育」「宗教的寛容教育」の視点を有することは重要である(参照、小山2012:(76)=115)。文化として、そして宗教全般を知る上での一つの基盤として宗教文化士としての資格を保持することは、こうした立場のメルクマールとなると考える。そして、宗教文化士は、まずは特定の宗教の立場ではなく、宗教を中立の立場で理解し、文化の橋渡し役としての役目を担うことともなるであろう。

 本レポートは、CERCメルマガNo17(August2016)2-3頁の「純米酒『六根』、コーシャに認定」の記事に着目し、宗教の多様性を認めあう中で、文化や相互交流が促進され、その中核として期待される宗教文化士の役割について述べていく。
 2016年1月6日付、青森県の地方紙、東奥日報の記事(メルマガNo16,2-3頁)によれば、「青森県弘前市の齋藤酒造店の純米酒『六根』が、ユダヤ教徒の戒律に基づく食品認証『コーシャ』の認定を受けた」という。イスラム教で定められた食物規定「ハラール」は、イスラム法に則った食品基準を満たした食材を指し、「合法なもの」を意味している。近年、我が国でもその認知が広がり、ハラール認証を受けた食品を目にすることもある。「コーシャ」は「ユダヤ教の食事規定に基づき、原材料や製造工程に関する厳格なルールを満たした食品に与えられ」「専門の宗教指導者であるラビが実地検査を行い、認定」したものである。宗教的な側面もあるが、しっかりとした基準のもとに定められた、安全な食品という側面もあると言え、アメリカではユダヤ教以外からも安全な食品として認知を受けているという。
 純米酒「六根」においてコーシャ認証を取得した青森県弘前市の斎藤酒造の土井真理社長は「良い物を作るのは当たり前ですが自然に感謝し、家族愛、仲間を大事にするというユダヤ教の教えが酒造りの精神と重なった」(産気web2016.1.29)と述べているが、この中で、ユダヤ教の教えと酒造りの精神に共感した姿勢に私は注目している。ユダヤ教を信仰する方々の持つ精神風土に日本文化が共鳴した一例といえるのではないだろうか。私の住む岩手県においても、2013年に(株)南部美人がコーシャ認証を取得するなど、近年、日本酒の世界進出の流れが著しい。禁酒を戒律に定めている諸宗教は別にして、日本文化の代表の一つであるともいえるであろう、日本酒を海外に紹介しようとしたときに、輸出先である諸外国の宗教の理解は必須条件となるはずである。その際に、単に日本酒を海外で販売促進するために、宗教的な認証を取得するのではないかという、思い込みを、もしかしたならば、我々の多くは抱いてしまうかもしれない。
しかし、上述の土井氏のように、多くの酒造元では、宗教の精神を理解したうえで、誠実に真摯に向き合おうとしているのである。そうしたことを知るだけで、私たちは現代の日本においてどのような精神が必要で、そして、私たちが人間としてどのように成熟していくべきなのかを認識し始めることができるのではないだろうか。こうした時に、様々な宗教的な背景や相互理解を補完する役目を担う立場が必要となってくる。その役割を担う一つの選択肢として私は、宗教文化士の役割が重要なのではないかと考えている。
 国際化、そして多様化する我が国において、宗教の多様性について、一定の理解を示し、その多様性の中でのかかわりから新たな交流や文化を創出する動きが、メルマガNo17のこの記事からは感じられた。そうした動きは、異なる宗教や国が互いを理解するための寛容の場を育てることにもつながる。宗教間の多様性を認め、その大切さを文化や知識の伝達を担う宗教文化士はこうした諸宗教と出会おうとする人々の中にかかわろうとし、自ら成長していこうとする気概も求められてくるのではないだろうか。
 
参考文献:
小山一乗(2012)「宗教的情操教育の基盤考」『駒澤大学佛教学部研究紀要』70、73-98頁(118-93頁)
産経新聞web(2016.1.29)「【みちのく会社訪問】斎藤酒造店(青森県弘前市)」
(産経web//www.sankei.com/region/news/160129/rgn1601290001-n1.html、2016/11/22に記事を確認)
 

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