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展覧会レポ【空海KŪKAI―密教のルーツとマンダラ世界】@奈良国立博物館

奈良国立博物館で開催されていた『空海KŪKAI―密教のルーツとマンダラ世界』に行ってきました。

久しぶりの奈良国立博物館 テンション上がる

奈良国立博物館HPにはこの展覧会について以下のように書かれています。


「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、わが願いも尽きなん。」
(『性霊集』巻第八) 
(この世の全ての物が消滅し、仏法の世界が尽きるまで、私は人々が救われることを願い続ける)

衆生救済を願った空海が人々を救うためにたどり着いたのは密教でした。空海は中国・唐にわたり、師匠の恵けい果かから密教のすべてを受け継いだと言われます。

奈良国立博物館HPより抜粋

空海という名前を聞いたことはあるものの、どういう人なのか、具体的に何をしたのか説明できる人はあまりいないと思います。(私もです…。)
書道の世界においては『弘法にも筆の誤り』『弘法筆を選ばず』という言葉が象徴するように、書の名手として知られ、三筆空海・嵯峨天皇・橘逸勢の3人)に数えられています。最澄に当てた手紙『風信帖』は特に有名なのではないでしょうか。(『風信帖』は前期に展示されていたようです…(泣)。)

今回の展覧会はタイトルが示すとおり、空海と密教、そして曼荼羅を軸に構成されています。

・密教という言葉は知っているけど、どういうものなの?
・曼荼羅ってなに?

という人のために構成された展覧会でした。それでは早速見ていきましょう。


▶密教って何?

そもそも密教とは何なのでしょうか。どこで発生し、空海がどのように関わり、日本でどのように発展していったのか…。

まず、密教は仏教の一種です。しかし、その教えがあまりにも難解であったため、「言葉では言い表すことができない」とされていました。まさに秘「密」の仏教だったわけです。
そこで、言葉では言い表し難いこの秘「密」の仏教の布教には「絵」が使われたとされています。その時に使われたのが『曼荼羅』なのです。空海は、中国で密教を勉強し、日本に帰る際にこの『曼荼羅』を持ってきたとされています。さらに日本で密教を布教し発展させたと言われています。

▶この展示がすごい!

今回の展示で圧倒的だったのは第一室です。いきなり目に入ってくる坐像の数々…。ドドーンって感じです。

・なんだこりゃ?
・なぜこんな並びになっているんだろう?

と思ってしまいますが、とりあえず順路に沿って展示品を見ていきます。

すると、突き当りの壁面には巨大な二幅の曼荼羅が!!『両界曼荼羅』と名付けられた曼荼羅は江戸時代に作られたもので、比較的新しいものでした。(私が見たのは後期の展示作品です。前期は違う曼荼羅だったようです。)
だからこそなのでしょうが、色が鮮やかです!華やかな色づかいと細部まで描かれた曼荼羅は圧巻でした。
そして、ここで謎が解けます。

あの坐像の配置は曼荼羅に描かれた如来の配置だったのです!!


また、多数の仏像や仏画により、空海が「目で見てわかる」ことを強調した密教の「マンダラ空間」を再現するとともに、

奈良国立博物館HP https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special_exhibition/202404_kukai/

『あの第一室の配置は、曼荼羅の世界を再現し、体感してもらうためだったのか!!』と、勝手に興奮しておりました。もちろんそれで曼荼羅の世界のすべてを体感できるわけもないのですが、このような展示の工夫はお見事!というしかありません。学芸員さんたちのアイディアにアッパレです!

余談ですが、調べてみると東寺(教王護国寺)の講堂には「立体曼荼羅」なるものがありました。(これを見た昔の人々は圧倒されて、わらにもすがる思いで祈ったんだろうなぁ…)東寺は真言宗の総本山。奈良国立博物館の学芸員さんたちは、空海の、言葉よりも→絵よりも→リアルのような、「誰でも見ればわかる」世界観を作りたかったのだろうなぁ、と勝手に1人で感慨に耽っておりました。
密教という難しい教えをさまざまな手法で広めようとした空海。その手法は現代にも息づいています。

▶空海は書の達人

今回の展示品の中には、空海自筆のものありました。第一印象は、「うますぎる…。」なぜこんなに流麗に書けるのか…。本物を見るとさらにその凄さが分かります。

展示品の中には、最澄が空海に宛てた尺牘『久隔帖』もありました。私個人の意見としては、正直、空海の書のうまさの方に見入ってしまいました。空海の書の凄さは、穏やかな運筆にあると思います。『風信帖』もそうですが、穏やかで決して急いでいない書風によって空海の気品の高さが感じられます。また行草で書かれているのもありますが、スッキリとした印象があります。最澄の書ももちろんうまいのですが、面白みがないというのが第一印象でした。ちなみに、最澄の書も余白はあるのですが、なぜか空海の書の方が明るく見えます。紙の印象の違いもあるのでしょうが、この雰囲気の違いはまさに「言葉では表せないもの」のように感じました。

▶キッズ用の鑑賞シート充実しすぎ問題

奈良国立博物館では、この展覧会の開催にあたりNHKとコラボ(?)し、こども用に「鑑賞ワークシート」を製作しています。

これが、めちゃくちゃ充実していました!

・空海と密教の関係をわかりやすく漫画化
・会場内のスタンプラリー的な文字当てクイズ
・空海の人物像の紹介

大人の私も楽しめる!ほしい!!
となってしまう完成度の高いワークシートでした。

『博学連携』というキーワードは以前からありますが、なかなか進んでいないのが現状だと思います。学校現場としても日常的にミュージアムに児童生徒を引率するのは大変ですし、校外に行くこと自体が何かと面倒な世の中になってしまいました。

しかし、このようなワークシートなどで、少しでも美術品に興味を持ってもらえるようにする取組は、ぜひ続けていってほしいと思います。(今回の来場者も圧倒的にお年を召した方ばかりでした…。)

▶まとめ

今回は、三筆の1人である空海と密教、そして曼荼羅について理解を深めることができました。密教の難解さ故に曼荼羅が誕生した経緯は、『書画一如』の思想がなせる技なのかもしれません。なぜなら、曼荼羅は教えを絵画化したものだからです。密教の世界にも書画一如の思想は浸透し、様々な方法で布教していった…。密教をはじめとする仏教ががさまざまな美術品、工芸品、芸術品の支えがあって存在しているということを再認識させてくれる展覧会でした。

奈良国立博物館中庭 茶室『八窓庵』 美しい…

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&書【andsyo】でした。

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