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3. 小説MCH - フレアと父「父の刀」(修正済みvol.5 2024/1/6)

 少年が、一足飛びで階段を駆け降りながら、階下の様子をとらえ始めた時、大男は、今回の日課を終え、少し古ぼけた赤レンガの家に、ちょうど帰宅したところだった。

 外では少し強めの風が舞っているのか、その大きな体には、村の大地を一面に覆う、赤茶色の土ボコリがびっしりとまとわりついていた。

 彼は一息つきつつ、それを払おうと、右手にたずさえた長刀を、そっと玄関の脇に立てかけようとしている。

 その彼の大きな手には、これまでの日課や戦いで受け入れてきた、大小にわたる古傷がしっかりと刻み込まれていた。それらの無数の傷たちは、彼がこれまで、どれほどの困難に立ち向かってきたのかを、よく物語っていた。

 そして、今立てかけられた長刀も、また同様に、これまでの長い歴史の中で、ずいぶんと使い古されてきた年月を感じさせている。

 それでいて、その刀の黒い鞘は、周りの景色をよどむことなく映し込み、魅力的な光を放っていた。それを見れば、その抜き身の刃にも、日々の繊細な手入れが存分に施されていることは、決して想像に難くない。

 たしかに、刀のことなど全く知らない幼い子供にも、そのことが一目でわかるほど、その漆黒の長刀は、存在感をしっかりそこに示している。

 実に大男は、普段からその愛刀を、いつも肌身離さず持ち歩いていたわけだから、それを毎日見ていた少年は、いつからか、それが「なにやら、よほど大切なものらしい」と、よくよく理解するようになっていた。

 親が持つものは、子供にとっては未知の魅力がある。特にそれが「とても大事なモノ」であれば、なおさらだ。

 しかもこの村で、他に刀を持ち歩いている大人が皆無なのだから、その魅力といえば計り知れない。少しくらいは触ってみたくなったとしても、当然それは、誰もがうなづけるところだろう。

 実際にこの少年も、その例外にもれず、幼い頃から幾度となくそっと手を伸ばしてみては、「今日こそ必ず!」とイタズラ心も覗かせて、常にチャンスを伺い続けてきた。

 しかしその度に、男はすぐに、ひょいっとそれを遠ざけてしまうので、少年はいまだに一度も、その刀に触らせてもらえたことがなかった。

 ——— チビ助のお前が触るには、まだちょっと早いよなぁ

 彼はその手のひらで、我が子のボサボサ頭を、もみくちゃにしながら、やさしく笑ってそう告げる。

 ——— チビ助じゃないし!
 と、少年はすかさず、ツッコミを入れることは忘れずに、

 ——— ちょっとぐらい触らせてくれたっていいのに...
 と、文句の一つを言ってみたところで、実は、そんな父とのやりとりや、頭に感じるその手のぬくもりを、とても居心地よく感じていたものだから、結局最後は、「まぁいいか」と笑ってあきらめる。

 これもまた、この父と子の日常風景になっていた。

 とはいえ、「いつか、絶対にあの刀に触ってやるんだ!」と、毎日飽きもせずに虎視眈々と、その挑戦を続けてこれた背景には、この少年の、生まれ持った負けん気が、強く影響していたことは、言うまでもないだろう。

 ちなみにこの少年の、長年かけた願いは、ある日突然、不意な形で叶うことになるのだが、それは、まだもう少しだけ先の話である。

 今日もまた、まさにその愛刀めがけて「今にも飛び掛からん!」とする勢いで、小回りよくせわしい足音が、目の前のすぐそこに迫ってきていた。

「父の刀」

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※この小説My Cool HEROESは、ジェネラティブNFTコレクション「My Cool HEROES」の背景に流れるストーリーをまとめた中編小説です。

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