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26. 小説MCH - アクア「ヒカリの隠れ家」(修正2024/3/17 rev.2)

 (本当にあったねっ...!)

 洞窟の入り口に向かいながら、リアナは隣りを泳ぐアクアを振り向くと、

 (うん!!)

 意図を察したアクアは大きくうなづいた。アクアは、リアナが喜ぶ姿を思い浮かべると、とても幸せな気持ちでいっぱいになる。

 ——— お姉ちゃんがやりたいことなら、いつでも叶えてあげたいな

 いつもお姉ちゃん想いの幼い妹は、この日も自分ができる精一杯を尽くして、なんとも健気なものである。

 2人はペースを落とさずに、そのまま洞窟に突入していくと、さらに暗がりが続く深部に向けて泳ぎ進んでいった。

 (...あ!あれはなんだろ〜??)

 しばらく進んだ行く手の先に、ボンヤリとかすかな光が見えてきた。

 (よし、行ってみよっ!)

 2人は顔を見合わせると、その明かりを目指して、更に加速していく。

 徐々に大きくなる明かりは、2人を導く光のトンネルのように、洞窟の暗闇をやさしく照らし出してくれていた。

 (...うわっ、すごい!)

 洞窟がさらに奥深くへと続いていく道半ば、2人の前にふいに開けた広場が現れた。

 そこでは、色とりどりに輝く魚たちが、光のヴェールに照らされて、まるでリアナとアクアを温かく迎えてくれているように、2人の周りを楽しそうに舞い踊ってくれていた。

 (...ここだわ)

 リアナは頭上に開いた大穴を指差した。

 どうやら光はここから漏れ出てきているものらしい。下から覗く水面(みなも)の向こうには、その光に照らされて、さらに未知の広がりが透けて見えていた。

「ぷはぁっ!」

「ぷはぁ〜!」

 大穴から勢いよく飛び出した2人は、目の前に並んでいた小岩に腰を降ろすと、久しぶりの空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 ここまでかなりのペースで泳いできた2人だが、乱れた呼吸をすぐに整えられたのは、やはりさすがはこの姉妹だからこそといえるだろう。

「お姉ちゃん。セノーテの中に、こんな場所があったなんて...」

 アクアは、外していた愛用メガネを掛け直し、天井までびっしり覆ったヒカリ苔をゆっくり見上げると、さらにそのまま言葉を続けた。

「こんなに手付かずのヒカリ苔は見たことがないよ。このコたちがいたから、洞窟の中でもこんなに明るかったんだね〜」

 ——— スーッ... ハーッ...

 リアナはもう一度、ゆっくり深呼吸をすると、

「しかも、このコたちがしっかり呼吸してくれているおかげで、私たちも息が吸えてる。水中洞窟の中に、こんな空間があるなんて聞いたことがないよ...」

 リアナも息をのんで、あたりを見渡した。

 この閉ざされた空間を埋め尽くすヒカリ苔は、まるで光のじゅうたんを敷き詰めたように、2人の足元もキラキラと輝かせている。

「...あ、お姉ちゃん大変」

「えっ?」

 ふと、リアナがアクアの指さす先を振り向くと、

「ほら、さっき入ってきた時に私が手をついちゃったところ...」

「あっ...」

 光のじゅうたんに、1つだけ幼い手形のような黒い影が、くっきりと浮かび上がって見えた。

「...ヒカリ苔はすごく繊細だから、ちょっとした刺激でこんなに簡単に壊れちゃうんだね...」

 アクアは、リアナをガッカリさせてしまったんじゃないかと下をうつむくと、

「...お姉ちゃん、ごめんなさい」

 アクアは、ふと辺りが少しだけ暗くなったような気がした。

「ううん、大丈夫だよ、アクア。これはあなたのせいじゃないんだから。たまたま上がってきた場所が違えば、やっちゃったのは私だったかもしれないんだしね」

 心配顔のアクアに笑いかけるその顔は、いつも通りのやさしいお姉ちゃんそのものだった。

 ——— よかった...

 アクアはほっと胸を撫で下ろした。リアナはそんなアクアをやさしい顔で見守ると、

「...それより、アクア。もしかしたら、ここのことをみんなに伝えるのはやめておいた方がいいかもしれないね」

「え...?でも...そうしたらせっかくのお姉ちゃんのチャンスが...」

「いいのよ、アクア。それはそれ。だって、せっかくのこのコたちの隠れ家を、できるだけ手付かずで守っていく方が、きっと次代のヒーローとしては当然の選択でしょ」

「お姉ちゃん...」

 アクアはそんなリアナに、今日もやさしい気持ちが溢れ出してくるのを感じた。ふと、このヒカリの空間がほんのり明るさを増したような気がした。

「よしっ!そしたら今日からここは、リアナとアクアの秘密の隠れ家、ってことで」

「うん!2人だけのヒカリの隠れ家、だね〜」

「あっ、それいいねっ」

 リアナは、アクアの手を取り笑顔で見つめ合うと、2人は一緒に大きくうなづいた。

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