見出し画像

萩くんのお仕事 第十話

「今、何時かな?」
「なんとか、9時ってとこだけど・・・芽実ちゃん、今日の事、お母さんになんて言って、出てきたの?」
「ダンスのオーディション」
「え?まあ、オーディションとは言ったんだね」
「うん、まあ・・・」

 さてさて、家の区画に入って来たなあ。

「悠紀夫、悪かったなあ、また、呼び出しちまって」
「まあ、しょうがねえ、また今度、寿司でも奢ってもらうかなぁ・・・間もなく、着くぞー、あ、あれ?何か、あの辺、家の辺り、黒い影が飛び交ってない?蝙蝠?」
「え、何?・・・何?あれ?」
「えーっ、何?」

 悠紀夫の運転で自宅に戻ってきたんだけど、街灯が少なくて、よく見えないが・・・

ドンッッッ

「うわっ」

 車の上に、何か乗っかったような振動がした。

「何?上から来たけど、猫かなんかかな?」
「まさかあ、え?」

 まだまだ、バサバサと何か、落ちてくる。車のボンネットの上に布が、次々と落ちてきた。

「あ、ああ、あああ、ダメ―、ダメだよー、そんなあ・・・」

 芽実ちゃんが、何かに気付いたのか、悲鳴を上げながら、車を降りて、その布を拾い始めた。

「これ・・・お姉ちゃんの服・・・」
「え、えーっ?・・・」
「それもいいヤツばっかり、これ・・・ブランドの・・・」

 見上げると、窓から、何か、また落ちてくる。

「ちょっと、ヤバい、これ、悠紀夫、車、動かすなよ」
「あ、ああ、解った」

 何か、あったな。朱莉ちゃんだ、服を外に投げてるなんて・・・、よし、
急いで、行って、止めないと。

「お姉ちゃん、それ、ブランドのバック、止めて、あー」
「・・・え?」

 俺が、車を降りた瞬間、それは俺の視界を塞ぐように落ちてきた。

「萩さん、萩さーん・・・」

 芽実ちゃんの泣き叫ぶような声がして、その後は・・・

・・・・・・・・・・・・・

 俺は、気づくと、見覚えのある天井を見ていた。
 あー、あの、自転車で昏倒した時と同じ状況だ・・・。

「大丈夫ですか?」

 ああ、大家さん、また・・・デジャヴだぁ・・・

「萩さん、サングラス外してて、良かったよね・・・」
「これ、ちょっと、やっぱし、車で何枚か、敷いちゃったみたいで」
「いいえ、もう、とんでもないです。本当に、ご迷惑おかけしまして、すみません」

 あれ、悠紀夫も上がり込んでるわけ?

「大丈夫か?おい、・・・ぷぷぷぷ・・・」
「・・・なんだよ、悠紀夫」
「だって、お前、息巻いて、降りようとしたら、見事にぶっ倒れたから・・・ごめん、思い出すと・・・ぷぷぷ」

 笑うなぁ。悠紀夫。・・・確かに、気づいたら、こんな感じだったけど。

「俺が、背負って連れてきてやったんだぞ・・・ぷぷぷ」
「もう、お姉ちゃん・・・全部、一応、拾ってきたけど、・・・萩さん、気が付いて良かったあ、おでこに赤くなっちゃってるよぉ」
「意識が戻らなかったら、救急車、呼ぼうと思ってたんですよ。ああ、本当に良かった・・・」

 あああ、また、皆さんにお世話になってしまったってことだ。

「えっとぉ・・・」
「ああ、まだ、無理に起き上がらないでね、羽奈賀さん」
「あ、・・・はい」
「まあ、萩さんが倒れてくれたお蔭で、お姉ちゃん、正気に戻ったみたいね。あれで止めたから、三分の一ぐらいは、服、助かったかな・・・」
「ごめんなさいね、本当に、羽奈賀さん、後で、謝らせますから・・・」
「ああ、いえ、でも、なんで、こんな・・・」
「それが、今日、家に帰ってきてから、黙って、上に上がって、何も音がしないから、気づかなかったんです・・・。そしたら、芽実の声が、外でして・・・」
「ああ、それでね、UNAGAのスクエアバッグが、車を降りた萩さんの頭にぶつかって・・・」

 あ、これか、水色の・・・馬鹿みたいに、女の子が持ってるブランドバックだ。流行ってるやつだな。

「お蔭さまで、壊れなくて済んだよー、これー、もう、お姉ちゃん要らないなら、芽実が全部、貰うよー」
「全部、拾ったと思いますよ。一応、確認して、今、車、置いてきたんで」
「ああ、すみませんね。帳さんでしたよね。ありがとうございます。・・・あ、ひょっとして、帳農園の帳さん?」
「あー、はい、そうです」
「まあ、丸たまねぎ、お給料が出た日にね、買ってるんですよ」
「ああ、そうなんですか。ありがとうございます」

 んー、なんか、悠紀夫、上手いこと、奥さんと親しくなりやがって。
 ・・・で、芽実ちゃんは、今、洋服をなんか、仕分けしてるなあ。
 で、朱莉ちゃんは・・・?

「で、朱莉ちゃんは?・・・なんで、こんな・・・」
「会社、辞めるって言って・・・」

 ああああ、何かあったって、やっぱり、あったんだな。昨日の夜。うーん、見渡すといないから、こないだみたいに、また、部屋に閉じこもっているんだなぁ・・・。

 えーっと、なんだっけか、今、なんか、こんなことになって、色々、しなきゃならないことが、誤魔化されつつあるような、そんな感じがするんだけど、・・・えーっとぉ、思い出せー、萩。

 ああ、そうだった。

①芽実ちゃんが、オーディションに通って、自分の役をやることになったことを、お母さんに話さなければならないこと。そして、許可を取る。
②ミズキ飲料のCM撮影までに、優馬くんに会って、同案件について話し、芽実ちゃんが芝居に出ること、優馬くんの役が秦素臣になり、更に、この期間中のお付き合いはご法度ということ。
③朱莉ちゃんの不倫の件は、アクティブになってからでいい、

・・・だったよな・・・って、現状、③の案件が、今、目の前の最大の問題なんじゃないのか?あああ、よし、このバタバタの感じ、二郎が慌てるんだ。あの八尋靜一が、すっとぼけた感じで、ばんそこ頭に貼って、ソファに寝ていて、周りが、ばたばた・・・ああ、悠紀夫の役も作らないとなんないぞ、大変だあ。

 じゃなくて、じゃなーくて。
 朱莉ちゃんだあ。③だってば。どうするかなあ。お母さん、どこまで解ってるんでしょうか?

 うーん、流石に、寝ている場合じゃあないね。

「あのう・・・」
「羽奈賀さん、ちょっと、赤いたんこぶみたいに、おでこなってますけどね。痛みは・・・?」
「あ、少しだけですね」
「念のため、明日、俺が病院につれていきます」
「ああ、あああ」

 いやあ、明日に、話をしないとダメな件が・・・。

「芽実ちゃん・・・」
「はい、はーい。大丈夫?」
「元気だね」
「うん、だってね、萩さんが寝ている間にね、悠紀夫さんがお母さんに話してくれたの」

 え、じゃあ、解決したんだね。その件は、ああ、良かった。
 っうか、悠紀夫、俺の出番を全部取りやがったなあ。まあ、いっか。

「・・・すみませんねえ、羽奈賀さん。言い出したら、聞かない子なんですよ。学校の方の許可もとってきたということですしね。この子が、女優デビューだなんて、お父さんが聞いたら、それはびっくりすると思います。でもね、好きな事ですから、まあ、止める理由はありません。羽奈賀さん、宜しくお願いしますね」
「ああ、ああ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
「ああ、安心したわね。何か、作りましょうかね。皆さんに、ご迷惑おかけしたし、すぐできるものにしますからね、さてと・・・」

 わあ、10時過ぎてる。また、ご飯作って下さるのですか・・・、頭、下がります・・・それにしても、力んだ分、損した、というぐらいの快諾だったなあ・・・え?何?なんだよ、悠紀夫。親指立てて。

(俺の手柄だ、寿司奢れ)

・・・なにぃ?口パク、読めてるよ・・・まあ、それは良かったけど。

「明日は、病院にね、悠紀夫さんに連れて行ってもらってね」

 芽実ちゃん、なんか、スッキリしてるみたいだけど、お姉ちゃんの騒ぎのどさくさになんか、上手くやった感も否めないなあ。

「芽実ちゃん、ちょっと」
「はいはーい、萩さん、お水とか飲む?」

 なんか、芽実ちゃんと一緒に、悠紀夫もきたんだけど。

「お母さんに許してもらえて、良かったけど・・・」
「俺のお蔭ね」
「で、明日もう、優馬くんに許可とらないと、三日後にはミズキ飲料さんとCMだよ」
「うん、だから、明日は、萩さん、脳の写真撮った方がいいから、病院だよ」
「俺が、萩を連れて行くから、大丈夫、芽実ちゃん」

 何、勝ち誇った顔してんだよ、悠紀夫。ったく、もう。

「病院って、この辺り、どこに行けばいいんだ?」
「緋山総合病院」
「脳外科の緋山先生は、すごいんですよね。あそこなら、大丈夫ね」

 ああ、奥さん、聞こえてましたか、今のは。

「そう、芽実も付き添うからね」
「でも、そんな暇は、明日、優馬くんとこいかないと・・・芽実ちゃん」
「うん、だから、優馬んとこにいくんだよ」
「え?」
「芽実の彼氏の優馬は、緋山優馬。緋山総合病院の息子だよ」
「えー、本当?」
「うん」
「いやあ、大作家先生、素晴らしいシナリオが展開してるじゃ、ありませんか?」

 悠紀夫、馬鹿みたいに囃し立てるんじゃない。

 って、まあ、好都合と言えば、そうなるかあ・・・

 明日、それをクリアしたら、そう、二階の引きこもり姫の件が残るけど・・・それは、申し訳ないけど、撮影の進捗には関わりが薄い・・・。

 そうだな。まずは、明日、俺は病院に行き、優馬くんに会って、今回の件を話をするぞ。あ、お盆にどんぶり乗せて、奥さんが・・・出汁の良い匂い・・・飯どころじゃなかったからなぁ、腹に沁みる・・・

「はあい、おうどん、できましたよ」
「お腹空いたあ、緊張しっぱしなだったからね、今日」
「悠紀夫さんも、どうぞ」
「あー、ありがとうございます」

 あ、悠紀夫、馬鹿、そこ、お父さんの席だぞ。なんだよ、こいつ、配慮がないなあ。聞けよ、座っていいか。

「羽奈賀さんは、こちらで召し上がりますか?」
「あ、いえ、あ、はい・・・」
「私、こちらに来ますから、お手伝いしますよ。起きれますか?」
「あ、ああ、どうも」

 良し、起き上がれたぞ。頭は、別に当たった所以外は、おかしくないが・・・悠紀夫、なんだよ。何、見てんだよ。
 (ふーん)とか、そういうリアクションするなよ。

「じゃあ、悠紀夫さんは、芽実とテーブルで食べよう」
「うん、そうだね、芽実ちゃん」

 なんか、あの二人、なんていうのか、ノリが似てるのか・・・。

「はい、どうぞ」
「あ」
「小鉢にね、しましたから。ゆっくり召し上がってくださいね。昔、頭を主人が打った時にも、気分が悪くなるかもしれないって、同じようにしたんですよ」

(ふーん)って、なんか、ニヤニヤ見るなよ、なんだ、それ。悠紀夫。

「ああっ、美味い、ひょっとして、このネギもうちのかもしれませんね」
「ああ、そうだったかもしれませんよ」
「松屋スーパーなら、うちのですよ」
「そうです」
「やっぱしねえ、いいですねえ。お料理の上手い奥さんに使って頂いて、ありがとうございますっ」

 悠紀夫、喋るなあ。ちょっと、面白くなってきた。悠紀夫の役も作ろうかなぁ。誰にやってもらおうか?ああ、そうそう、美味そうだ。まずは、うどんを頂こう。

「いただきます」
「ゆっくり召し上がってね」

 あ、美味い。やっぱり、大家さんの料理は最高だなあ。

 今日もバタバタしたけど、明日は、病院の診察ついでに、優馬君と話をして、許可を取る。

 うん、これでよし。

 はあ、なんか、考えて見りゃあ、こんな取り越し苦労したのは、悪い気起こして、オーシャンホテルなんかに行ったからだなあ・・・。きっかけは、それだったけど・・・、まあ、いっか。半ば、痛し痒しだが、心配した半分はなんとか、クリアしそうだからね。

 ・・・朱莉ちゃんの件は様子見だなあ。じゃあ、明日はもう、許可及び取材込みで、優馬くんの病院に行って、診てもらうことにする。

 艶肌つやき、ひょっとして、怒ってる?俺って、これ、撥当たりってこと?
 ・・・まあ、たまには、そんなことも有るよ~💦
 明日こそ、平穏に行きます様に。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 萩くんのお仕事 第十話

 バタバタがなくなることがないのでしょうね。
 最近の萩くんは、いつも、何かに追われ、ちょっと、カッコ悪いのです。
 多分、彼は、そうじゃないと、亡き彼女を思い出して、悲しくなってしまうから、かもしれませんね。まあ、悪巧みの跋が下ったかどうかは定かではありませんが・・・。
 気になるのは、大騒ぎした、長女朱莉ちゃんですが、多分、この姉妹も、要領の良い妹と、四角四面で真面目、要領の悪い姉だったのでしょうね。
 さて、次回第十一話では、いよいよ、イケメン優馬くんに会いに行きます。お楽しみに!!!
 
 このお話の纏め読みは、こちらのマガジンから↓


 

この記事が参加している募集

スキしてみて

更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨