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彼女の指先~その手を取って 第六話

「・・・色々、すみませんでした」
「ああ、いえ、もう、いいですから」
「穂村さん」
「はい?」
「今日は、その実、何か、穂村さんの方からも、お話とか、あったんじゃないですか?」

 あああ、敢えて、そんな風に・・・この距離だったら、もう、話すとかの段階ではない用件ですからね。

「いや、実は、僕もちょっと、噂を耳にしてたんで、何か、辛い感じに見えてたんで・・・」

 首を捻って、ニコリとしてる。これは、都合の良すぎる嘘だよな。俺も、部長と、後輩と同じなんだ。今、こうしてるのは、・・・どういう風に考えたら、いいんだろうか。というか、どういう風に、彼女には見えるんだろうか?

「そんなに、辛そうに見えましたか?」
「・・・」
「嘘、ですね?」
「あああ・・・」
「この距離ですから、嘘は無理ですよ」

 また、ニコリとした。・・・所在ない。

「そうです。嘘です。貴女がそんなに悩んでいるのは、聞くまで、知らなかったです」
「その筈です。話すの、穂村さんが初めてだもの」
「すみません・・・誘ったのは、多分、他の連中と同じかもしれません」
「・・・同じって?」
「あ、いや、その・・・」

 ここで、彼女は、仰向けになり、天井を見つめる様にして、話し始めた。

「主人とはね、お見合いだったの。でも、暮らし始めてから、お付き合いしてるみたいだったから。得した感じで。上の娘がすぐ生まれて、五年後にもう一人。だから、上の子は、今、勤めで、下の子が高校生ね。そうそう、穂村さんも、もう高校生ぐらいのお子さんがいると思ってたから、びっくりしたんだけど・・・」

 何を?ああ、独りってことか。えーと・・・、

「ひょっとして、失礼ついでに、聞いてもいいですか?」
「え?」

 彼女は、俺の方に向かって、両手の人差し指を重ねて、バツ印を作って見せた。

「ああ、いや、それもないです。子どももいませんよ」
「どうして?」

 どうしてって、言われてもなあ。タイミングを逃した、若い時にはいた、仕事に追われていた、ご縁がなかった・・・。俺も仰向けになる。

「モテませんから」
「そうなんですか?意外です」
「お世辞が上手いなあ、心にもない」
「・・・」
「え?」

 なんか、すごい見てるな。

「あったかいです。やっぱり、いいですね。忘れてた感じです。隣に人がいるというのは」
「・・・そうですね。同感です」

 え?・・・少し、あれかな?・・・身体、寄せてる?

「いいんですよね。こうしてたって、誰にも咎められるわけでもないのよね」
「・・・ですね」
「お世辞なんて、言ってませんよ。本当に、そう思ってたから」
「寒いですよ。肩まで、掛けた方が・・・」

 毛布を引く時に、手に触れた。

「随分、冷たいですね。大丈夫ですか?」
「いつも、こんな感じなんです。主人にもね、よく言われてて、そんな時はね・・・」

 え、今頃、効いたのか?・・・あの薬?

「こうするの」
「えー・・・こんなとこで、いいんですか?」
「そう」

 身体を横に向けて、寄り添ったかと思ったら、腋に手を滑り込ませてきた。

「ああ、こっちは・・・?」
「いいの、こうやって、交替で入れるの・・・クスクス、変でしょう?」
「・・・変ですね」
「わ、ハッキリ言う。でも、やっぱり、変よね。パジャマの上から、よくこうしてたの」
「・・・」
「ありがとう。少し、あったまりました。懐かしかったし」

 あ、手、引いちゃった・・・ああ、ひょっとして、そうなのかな?

「俺って、似てるんですか?」
「え?」
「ご主人に」

 びっくりした顔してるな。

「いいえ、全然、穂村さんの方が」
「え?」
「かっこいいですよ。背も高いし、いい男ですよ・・・あ、なんていうの?今なら、あれ?イケメンっていうの?うふふふ」

 それは、言い過ぎだな。パッとしない、安パイの穂村さんですからね。

「どちらかっていうと、昔、付き合っていた人の方に近いですね」

 似てるじゃなくて、近いんだ。

「あの、今日、なんで、来てくれたんですか?」
「部屋に?」
「まあ、その、飲みにです。まず」
「さっき言った通り、噂の件のこと、誰かに聞きたかったのは、本当です。タイミングも良かったんだと思います。だから、甘えました。すみません」
「・・・」
「優しい所は、似てます。だから、安心して、お話できました」
「手、あっためます。違う方法でいいですか?」

 また、びっくりした顔して。これは、安パイの穂村さんかな。どっちだろうか?
                   ~次回こそ、最終話、につづく~


みとぎやの小説・ラベイユプチ連載中 「彼女の指先」
                      ~その手を取って 第六話

 今日は、メンバーシップ特典と、こちらを出させて頂きました。
 2月も終わりで、日数のこともあり、メンバーさんとのお約束と、そして、この話、いい加減に終わらないし、来月に持ち越してしまいますが、すみません💦・・・ということで、本日は、二本立てにさせて頂きました。

 来月はまた、少し、趣向をというか、今後のみとぎやの創作活動が、新しいことが増えてきたので、試行錯誤しながら、色々と変えていこうと思います。それはまた、別でお知らせするかもしれませんが・・・。

 それにしても、ひっぱりますね。でも、心情的にはかなり、距離は近づいてきましたよね。

 この奥さん、どこか、他のお話に登場していませんか?
 同一人物と言い切れませんが、設定が一緒ではあります。
 答えは、次回の最終話の時にと思います。

 こんな感じのお話を集めた、「ラベイユ」のマガジンはこちらから。
 よろしかったら、御覧下さい。


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