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帰したくない             ~その手をとって 第一話

「違うんです。穂村さんのことではないので、関係ないから、大丈夫です・・・」

 つまりは、そうなんだ。貴女は、条件は度返しで、今、俺じゃなくて、他の男の為に泣いている。随分、振り回すんだな。よく解った。ショックじゃない、わけじゃないけど・・・、そこに太刀打ちできるほど、距離を詰めてきたわけじゃない。これからだって、思い込んでいたのは、俺だけだったってことか・・・?

 俺に触れられることを危惧して、そんな風にしてるんじゃないってことだよな。

 なんとなく、解ってた。立場からして、自由な感じ、臭わせていたのは、君に、既に、恋人がいる所為だと、予感していたことが、真実だったということ、その証が立ったということだ。嫌な予感だったが・・・、それは当りだったわけだな。

 じゃあ、・・・と、考えは、何通りか、過る。

 そんな風に、他の男とそうなれるなら、そいつが解除されれば、俺がそこに成り代わることだって可能なんじゃないか。狡いことができるんだ。だったら、俺は、「何番目かの男」として、今しばらく、静観したって。っていうか、結局は、数が増えるだけの同時進行ってことなんじゃないか?

 そう、静観してるなら、どんな立場も関係ない。君がそんなだから、こんな俺みたいなのは、もっと、存在してるんじゃないのか?疑ってかかられても、仕方ないんだ。そんな風だから・・・、狡いのは、君なのだから。そうやって、沢山、泣く嵌めになる。罰なんじゃないのか?既に、それが・・・。

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「歯磨きしてるの、見たことある?」
「ないよ」
「口を尖らせた感じ、妙にね・・・なんていうか、良くって・・・」
「・・・」

 どこで、歯磨きなんてするんだ?寝る前か、朝、起きた後ぐらいだろう?なんで、お前が、それ、知ってるんだよ。昼休みは、トイレの洗面ですることだろうが。

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「もう、大丈夫ですか?・・・なんか、泣いてたの」
「ああ、本当に、気にしないで、穂村さんの所為じゃないの」

 いいよ。それ。・・・かなり、やんわりだけど、傷ついているんだ。俺のことで泣いてくれてもいいのに、どうやら、違うんだろうから・・・。歯牙にもかけてない。安パイだから、今日も、誘いに乗って、飲みの席で、ちょっと、思いだして、メロウになって、泣きだした。寂しいから、他の男と気晴らしに、ってやつなんだろう?

「気を付けろ、ボサッと、歩いてるんじゃねえよ」
「・・・すみません」

 反射的に、彼女を抱き留める。すれ違い様に、酔っ払いとぶつかってしまった。俺も気が回せなかった。こんな時に、ドン臭い。不器用さが、悪目立ちする。

「・・・酷いなあ、・・・ごめん、俺がこっち、歩いてればよかった」
「大丈夫。下向いてるから、いけないのよね」
「・・・いや」

 いいのかな。肩、抱いたまま、歩いてるんだけど・・・。

「あ、こっちの方が近道、みたいだけど・・・」
「え?・・・あ、そうなんですか」

 知らないのかな。本当に。近道って、駅じゃないよ。

「詳しいんですね。あまり、こっちに来たことないから・・・」

 近道って、俺のマンションへの、だからね。悪い奴かもしれないね。信用してくれるのかな?安パイの穂村さん、って。肩、抱いたままなんだけど、いいのかな?

 意味として、何でもいい、なんて、思わないよ。俺は、少なくとも、今日は、期待してたから。約束取り付けて。でも、色々と解って・・・、奴の代打みたいに思われてる、そんなヤケみたいなの、・・・狡いこと考えれば、それも一つかな、と思うけど・・・。そこまで、下がってまで、そうなりたいのか、って、考える。

 考えながら、物事は、必ずしも、状況と真実が合致しないこともあるじゃないか、状況が先に、既成事実が成立してから、真実や、気持ちが付いてくることもある・・・悪魔が、そんな風に、俺に囁いてくる。

 いいじゃないか。このまま、肩、抱かせてくれて。そういうことだ。セカンドでも、サードでも、ありなんじゃないの?ほら、もう、着いちゃうよ。

 どうするつもりかな?・・・卯月さん。
                            ~つづく~


みとぎやの小説・連載開始 「帰したくない」その手をとって 第一話

年齢が行くと、あまり、面倒な手続きをしなくなると思います。
若い程、「告白する」とか、「付き合う」とかっていう、
きちんとした境目がありますよね。
以前ご紹介した「その変わり目」は、それがまだ、はっきりしてましたが、グレーな感じで関係性がスタートすることって、大人の場合はあるかなとも思い、そんな感じを描いてみようと思ったのが、このお話です。
どうも、冴えない感じの彼は、勇気を出して、気になっていた彼女を誘うことに成功しましたが、彼女には、色々と噂があって・・・。
今回は「ラベイユ」での、プチ連載でのご紹介になります。
他にも、「恋物」が満載の「ラベイユ」は、こちらから、御覧下さい。


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