スピード違反。

 まだまだビデオテープが高かった頃のお話。
近所の電気屋で買うと確か二千円/120分くらいの価格だった。
所が都心まで行くと3本二千五百円とかの値段だった。

アニメとか録画してて最初は三倍で録画してたがオタクってのは画質が悪いのがだんだん許せなくなる。
 さりとてお小遣いやりくりしてる身、何とかならないかと都心に行ったらだいぶ値段が違う。
そうは言っても毎回電車賃出すのもなぁ、と思案して自転車で行こうとなった。
移動距離は往復90キロちょい、この当時は走れない距離でもなかった。
最初は厳しいかなと思ってたけど、月に何度か走ってるとそんなに苦にもならなくなった。
こうなると段々往復の時間をどのくらい縮められるかに興味が出て来てタイムを測るようになり、時間縮めるために自転車いじったりしてた。
後方確認用にミラー付けたりしたのもこの頃だったか。

 そうこうしてる内に当時のスクーターより早く走れるようになった。
それでもパックスだったかな?あれが出た辺りで追いつくのが精一杯になったけど。
閑話休題。
まぁまぁ早く、自転車としては格段に早くなってビデオテープ買いに行くのも苦にならなくなった頃、録画したい番組が19時からあり使える時間は一時間てな状況になってしまった。
 季節は冬、それまでの平均タイムから恐らく間に合うが、ギリギリなのは間違いなく寒かったがどうせ走れば暑くなるし、出来るだけ軽量化して都心に。
走る内に車は渋滞しだして、脇を抜けて走り続ける。
あと5キロくらいで電気屋に着く、タイムはなかなか良く帰りもこのペースなら楽勝で間に合う、と思ったら
「そこの自転車、脇に寄って止まりなさい」
ミラーで後ろを見ると白バイが。
流石に白バイから逃げられるとは思えず素直に脇に寄って止まる。
「君、何キロで走ってたか分かってる?」
バイクから降りた隊員さんが怒りながら近寄る。
「いえ、スピードメータ付いてないのでちょっと」
すっとぼけると
「いやいや、車抜かしてたよね」
「渋滞してましたし」
ここで隊員さん
「こっちはね、ちゃんとスピード測ってるの!ほら!」
レシートみたいな紙を見せられると確かに車の制限速度は超えてた。
「これだってね、君もっと出しそうだから途中で止めたの!」
「はぁ、ありがとうございます」
この後少し考えれば当然だけど、初めて聞いて驚く一言。
「自転車もね、速度違反あるからね。今回は測定途中でやめちゃったから切符は切らないけど」
驚いて隊員さんに聞いてみる
「あの、後学の為に聞きたいのですが、法定速度何キロですか?」
「あれだよ、えーと、ちょっと待って」
白バイの後ろに付いてるケースから何やら探し出し、小冊子取り出すと調べ出す。
「ほら、これ。20キロ」
アンチョコだったようで、それを私に見せてくる。
「あ、ホントだ。20キロかぁ」
ここで隊員さんが私の自転車しみじみ見て
「ライトもしっかり明るい物に交換してるし、これミラー?」
「はい」
輸入雑貨売ってる所で見つけたミラー。
小型でハンドルではなくフロントフォークに付けられる物だ。
「なんで右に付けてるの?」
「車に煽られると怖いから」
「そうだね、抜く時に確認するために付いてる訳じゃないよね」
ニヤッと隊員さんが笑う
「安全対策しっかりしてると思うよ、自転車でミラー付けてる人なんてそういないからね」
「ありがとうございます」
「それにしても、自転車でこんな速度出るのか。初めてだよ、こんな違反」
今だと自転車の軽量化、高性能化も進み出せるスピードもだいぶ上がったみたいだが、当時はこれ以上のスピード求めると競輪用の自転車か、かなり特殊な自転車くらいしか無かったと思う。
「速度は気をつけてね、行っていいよ」
白バイが出るのを待ってると
「ほら、先に出て」
言われるまま自転車に乗り漕ぎ出すために立ち漕ぎになると
「ほら、立たない。またスピード出す気でしょ」
後ろからスピーカーに乗せて隊員さんの声。
サドルに座り漕ぐがスタートが遅い。
「そうそう、今のスピードで20キロ、よく覚えて」
遅い、普段より1/2から1/3の速度。
「その景色が20キロだからね、ちゃんと頭に叩き込んで。これからもスピードは気をつけるんだよ」
そんなことを言いながら白バイは左に曲がってしまう。
この間、ドライバーが面白い物見たとばかりにニヤニヤして通り過ぎてた。

 その後暫く警戒してたが来ないと判断してニヤついてた車も抜き去り、買い物終わらせ帰ると番組始まる1分前、慌ててテープ出してなんとか録画は間に合った。

今だとGPS利用したサイクルコンピュータとかで速度も測れるんだろうけど、当時はワイヤーでタイヤの回転数取り出すか、高額な磁力を用いた非接触型の物くらいしかなかったから興味はあったが速度計は付けてなくて実際何キロ出てるかはよく分かってなかった。
皮肉な事にこの一件でどの程度スピードが出てたが判明して車の流れに乗るのも安心して出来るようになった。

自転車で行けばタダ、と広範囲に自転車で移動してたけど、多分これが原因でインドア派で文系の部活なのにやたら自分の燃費が悪くなった。
運動部の友人とほぼ同じくらいは食べてたな。



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