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リサーチクエッションのつくりかた:①勉強+FINERで『CQ→RQ』へ

前回、クリニカルクエッション(CQ)とリサーチクエッション(RQ)の違いを理解しました。
RQとは、厳選されたCQのことでしたね。
今回は、CQの中からどのようにRQを厳選するのか?、という部分を考えてみたいと思います。

Garbage in Garbage out

「Garbage in Garbage out」という言葉があります。
直訳は「ゴミを入力するとゴミが出力される」。すなわち、「『無意味なデータ』をコンピュータに入力すると『無意味な結果』が返される」です(wiki)。
厳選されていない状態のCQをいきなり臨床研究において実践すると、この「Garbage in Garbage out」の状態になってしまいます。
それを防ぐためには、勉強してKnowledge Gapを明らかにする、FINERのフルイにかける、という2つの営みによってCQをRQにする必要ああります。

1. 勉強をしてKnowledge Gapを明らかにする (CQ → Knowledge Gap)

車輪の再発明という言葉をご存知でしょうか。これは、プログラミング用語なのですが、「すでに先人が作っていたものを、改めてかなりの労力を費やして作っちゃう」ということを示す言葉です。
リハビリテーションの極端な例で考えたいと思います。


ある新人セラピストは、脳卒中患者を担当しました。その患者は不思議なことに、左を向くことはなく、いつも右を向いています。そして、食事は左側を残す、絵を描かせると、左が欠損している、車椅子を漕ぐと左のものと衝突する、などの特徴がみられました。
この時、新人セラピストはこう思いました。
「もしかしたら、何らかの理由によって、この人は左側の空間を、まるで “無視するかのように” 認識できていないのではないか?これは、医学史を揺るがす大発見 かも知れないぞ!研究してみよう!」
そこから、数百例の類似ケースを数年かけて調べ上げ、論文化しようとしたところで、とあることが発覚しました。
「あれっ、これって1941にすでに分かっていた事だ!!」

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ものすごく極端に示しましたが、CQに対して勉強せずに、いきなり臨床研究に入ると、車輪の再発明の危険性が高まります。一度しかない人生の貴重な時間を、車輪の再発明には使いたくないですね。
だからこそ、CQを感じたらまずすべきことは、「勉強」によって、そのテーマについてすでに先人が答えを出しているかどうかを明らかにする事です。
勉強とは、いいかえれば個人の未知(CQ)が学術体系の未知であるかを確認する作業であり、先人たちが築いてきた階段をいっきに駆け登り、自分が感じたCQが研究すべき事なのかを知るための作業です。

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この作業によって、1本の境界線が明らかになります。
それは、学術体系の既知と未知を分ける境界線です。これまでに分かっていることと、まだ分かっていないことの境界線です。
この境界線のことを、『Knowledge Gap』とよびます。

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勉強をして、そのCQがKnowledge Gapの既知側にあるのか、未知側にあるのかをはっきりさせることで、車輪の再発明を防ぐことができます。

2. FINERのフルイにかける

Knowledge Gapがあることが確認されたからといって、まだ実行段階に移ってはいけません。
例えば、「ダイヤモンドを杖先ゴムの代わりにつけることは、摩耗することを防げて有意義なのでは?」というCQについて、どう思いますか?
まず、勉強するまでもなく「未知」であることは分かりますね。車輪の再発明にはならなそうです。では研究すべきか?と考えると、「No!」です。理由はたくさん思い当たりますよ。
この、「学術体系において未知だからといって、即、研究すべきことなのか?」という問題について、CQを5つのフルイにかける必要があるのです。そのフルイの名前が、FINERと呼ばれるものです(表)。

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このフルイに耐えうるCQは、RQとして実際の臨床研究の実行に値する可能性が高いと考えられます。
先ほどの杖先ダイヤモンドのCQをFINERにかけてみましょう。

Feasible(実施可能性):杖先にダイヤモンドをつけることは、まず高価すぎます。研究費が足りなくなるので実施可能性の面でこのフルイを通過することができません。
Interesting(科学的興味深さ):直感的な興味深さからすると、「見てみたい」という面白さはあるかもしれません。ただし下記Ethical、Relevantの側面から即却下されるので結果的に面白くないと結論されます。
Novel(新規性):新規性はありそうです。
Ethical(倫理性):杖先にダイヤをつけることは、安全性が低そうです。地面との摩擦が十分えられず、滑ってしまいそうですね。安全面という倫理的側面から、はじかれます。
Relevant(必要性):そもそも杖先ゴムのすり減りで困っている人は少ない気がします。臨床上、需要の少ない研究かもしれず、必要性の側面からもはじかれます。


このように、FINERのフルイは、価値ある研究を選別するための強力なツールです。

まとめ

年輪アイデア_勉強と研究

■ CQを感じたら、いきなり臨床研究に入ってはいけない

■ 勉強をすることで「そのCQが学術体系の未知」かを明らかにする

■ FINERのフルイにかけることで「そのCQが実行に値する優れたCQ」かを明らかにする

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