見出し画像

座長マニュアル

ときはきた。
SuperHumanに、座長依頼がきたのだ。
もちろん、快諾である!
そのうえで、その仕事をただこなすつもりなど毛頭ない。
露をも生かしきる、SuperHumanである。 #postニーチェ

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
ビスマルク

これまでの座長という仕事における巨人の肩を駆け上がって、マニュアルをつくってみる。

▶︎座長に求められる人間チャンネル

僕はきょうまで、だれもがいくつもの顔を持ち合わせていることに気がつかなかった。
何億という人間が生きているが、顔はそれよりもたくさんにある。
だれもがいくつもの顔を持っているからである。
リルケ

自宅での顔、職場での顔、・・・。
僕たちはいくつかの人間チャンネルをもち、無意識に切り替えている。
そして、座長という人間が持つべき顔が、『花道ではなく炭治郎チャンネル』である。#ふざけてません

座長に求められる主な機能
・【最重要】タイムキーピング(時間厳守)[1,2,3]
・演者の研究の発展につなげる [1,2]
・演者が安心感・話しやすい環境を整える [1,2]
・聴衆にとっても有意義なセッションにする [1,2,4]

わかっていただけただろうか。
(桜木)花道は、遅刻、オレオレ主義、相手に安心感を与える気がしない。 #山王戦以外
一方、猪之助は炭治郎を称して以下のように述べた。

こいつは自分が前に出ることではなく、戦いの、全体の流れを見ているんだ。

全体生長、全体成功、全体発展。
座長をする人間は、まずその人間チャンネルを炭治郎に合わせよう。
以下、経時的に座長マニュアルを作ってゆく。

✅ 座長マニュアル:人格
■ 座長は、桜木花道ではなく竈門炭治郎であれ

▶︎受諾:数ヶ月前

いつもたいへんお世話になっております。
〇〇病院の理学療法士〇〇と申します。
突然のご連絡失礼いたします。
現在、第○回〇〇学会の準備委員長として学会の開催に向けて準備を進めております。
SuperHuman先生に〇〇学会の一般演題における座長をご依頼したく、ご連絡させていただきました。

このようなメールが、いきなり来る。
そのときにどのような対応を取るか。
「忙しいしな・・・」「論文書きたいし」「鬼滅見たいし」
黙れ!、大橋先生はいっている [4]。できるだけ辞退すべきではない、辞退した場合、この人は多忙なので今後依頼するのは申し訳ないという感情が相手側に起こり、座長以外の仕事の依頼も減ることが往々にしてある。少しくらい無理してでも引き受けるのが、結果としてチャンスをつかむことにつながる。
まだ何者でもない、僕たちは、快諾セヨ。
また、ポイントとしては『早期』に快諾の返事をすることとされている。
主催者側の気持ちになってみよう。埋めるべき座長の数も多い上に、適任者はそう多くない。そんな中、依頼したメールの返事が2週間返ってこない。ジリジリとした夏のアスファルトのような気持ちになるだろう。

先んずれば則ち人を制し、後るれば則ち人に制せらる
司馬遼太郎

相手の期待する速度を上回り、『おっ!』と思わせる受諾を創出しよう。
集中の自由は攻撃側にあるのだから。

✅ 座長マニュアル:受諾期
■ よっぽどの理由がない限りは、辞退すべきではない
■ 日程を確認して、予定が入っていなければ早期に快諾の返信を出すべし [4]

▶︎準備:数ヶ月前〜本番数日前

事予めすれば則ち立ち、予めせざれば則ち廃す
中庸

受諾のあとに待ち受けているのは、『準備期』である。
座長という仕事にとって、この時期は最も大事である。
今回あたった先行文献においても、そのすべてに『準備セヨ』が記載されていた。
準備せざるもの、座長にあらず。

では、何を準備したらいいのだろうか。
この準備期においての準備は、≒『セッションについての勉強』である。
学会運営者から、事前にセッションの抄録が送られてくる。
そのセッションの中には、自分のホームグラウンド的なジャンルの研究もあれば、「お初にお目にかかります」研究もある。これらについて、徹底した勉強を行うのだ。

✅ コラム:座長はエコーチャンバーを打ち破りうる
ちょっと脇道に逸れるが、この時期に、座長を引き受けるべき大きな理由がある。
それは、「自分の枠をはみ出た生長が期待できる」ということだ。
エコーチャンバーという言葉がある。
閉鎖的空間内でのコミュニケーションが繰り返されることにより、特定の信念が増幅または強化されてしまう状況の比喩である。
たとえば、人は調べものをしたいとき、検索ワードを入れる。
だが、その検索ワードは、「あなたがすでに知っているワード」なのだ。
また、AmazonやYouTubeは “あなたへのおすすめ”を勝手に提案してくれ、それはあなたにとって心地いいものである場合が多い。なぜなら、それは「あなたがすでに好きな領域」だから。
僕たちは、自分の興味がどんどん強まっていく一方で、未知の世界に出会いにくいという環境の中で生きている。
座長という仕事は、この自分の興味の括りをぶっ壊してくれる。
「おいおい、全然自分の守備範囲ではないんですけども・・・」
それがいいのだ!それが、あなたの切り拓くべき新たな地平となる。

勉強を行う中で、以下の点を確認しながら進めると、質問に繋がりやすく良いだろう。

▶︎ 座長のための勉強インデックス
■ この研究全体を指し示す一文(紹介文)
■ ポジティブな意見
■ 研究目的に対する方法ー結果ー結論のリンク
■ 結果に対して、考察・結論が飛躍していないか?
■ 目的に対する研究デザインの選択は妥当なものか?
■ データの種類に対する統計方法は妥当なものか?
■ この研究の新規性は何か?
■ この研究に至るまでの巨人の肩(先行研究レビュー;systematic reviewなど当該ジャンルに関するレビュー論文にを抄読することが効率的)
■ この研究の臨床意義は何か?
✅ 座長マニュアル:準備期
■ 担当セッションのすべての演題について、勉強すべし
■ 勉強は、自分のエコーチェンバーを打ち破ると信じ、興味範囲外であっても、嬉々として打ち込むべし
■ 勉強の際には、質問につながりやすいよう「座長のための勉強インデックス」を用いるべし

▶︎直前:本番数日前〜当日セッション直前

ここは、事務的な作業だ。
だが、ここを疎かにすると、本番の一番重要な『内容』に集中できなくなる。
心に波が立つ。
梵字徹底、誰にでもやれることを、きっちりとやっておこう。

✅ 座長マニュアル:直前期
[当日まで]
■ 時間・発表についての案内の確認 演題発表時間・質疑応答の時間や会場への集合時間、注意事項を確認しておくこと
■ 演者の所属・氏名・演題名を確認、大事なことは謝りなく読み上げられること
■ 名刺を準備しておくこと
[当日]
■ 参加登録を済ませ、セッションの場所と時間を確認する
■ セッションが行われる会場の下見をしておく

▶︎本番:当日のセッション

実際のセッションにおいて、司会者には3つの機能が求められる

①タイムキーピング機能

すべてのよきものは、時間内に行われる
copellist

司会者の最も重要な仕事は、(聴衆の視点から)時間通りにセッションを終えることと、(登壇者の視点から)各登壇者に均等な時間を確保することである [2]。
そのためのポイントをいかに列挙する。

■ セッションが始まる前に、聴衆と演者に向かって、このセッションでは講演時間○分、質疑応答〇分と伝える。
【コメント例】「それでは、セッション○○を開始します.座長を務めます(所属)の(名前)と申します.どうぞよろしくお願いいたします.本セッションでは○題の発表がございます.発表○分,質疑△分をなっております。発表時間残り1分になるとランプがつきますので,参考になさってください、円滑な進行のためにも,時間厳守でお願いいたします」[4]
■ 時間を確認できるツール(時計やストップウォッチ)を用意しておく
■ 開始時間、演者1人の持ち時間に合わせて、演者を切り替える時間が記されたメモを用意しておく。
■ スピーカーが時間延長した場合:「時間を超過していますので、発表を終了してください」など厳しくしてOK[4]。
■ 質問者との議論が長くなった場合:「続きは懇親会でお願いします」、「手短かにお願いします」など厳しくしてOK[4]。

②良き質問者機能

たずねよ、さらば与えられん
アンソニーロビンズ

セッション中の質問時間に座長がしなければならないことは、発表の要旨を述べ質問を促すこと、質問がなければ座長が質問すること、の2つである。

(1) お礼 & 簡単な発表の要旨
【コメント例】「△△関して口口という重要な視点を示していただいた発表でした」[4]

(2) 座長として良い質問をする
良い質問とは、以下の学会発表の目的を達成させる質問である。
・演者の研究の発展につなげる [1,2]
・演者が安心感・話しやすい環境を整える [1,2]
・聴衆にとっても有意義なセッションにする [1,2,4]

▶︎いくつかの座長として適切な質問の視点
不明点:「ここが興味深い(難解)のですが・・・」
着想:「着想されたきっかけは・・・」
臨床応用:「この研究がどのように臨床応用・・・」
今後の展望:「この研究の今後の展望は・・・」
Furthermore:「その他に伝えたいことは・・・」

なお、質問は、参加者のレベルを考慮し、その人の言葉を使う必要がある。

大工と話すときは、大工の言葉を使え
ソクラテス

③終わりよければ全てよし機能

残り時間にもよるが、演者や参加者へのお礼とともに、セッション全体の総括となるような一言コメントがあると、満足度の高いセッションとなる[4]

【コメント例】「これで、予定されていた○題の発表がすべて終了しました.△△分野における、最新の知見と独創的なアイデアが数多く発表され、私自身大変勉強になりました。発表された方々、そして質疑にご参加された皆さまに改めて御礼申し上げます.ありがとうございました」
✅ 座長マニュアル:当日のセッション
座長として、以下3つの機能がこなせるよう尽力せよ
①タイムキーピング機能
②良き質問者機能
③終わりよければ全てよし機能

▶︎終了後:セッション終了後

フィードバックは、王者の朝食である
1分間マネジャー

セッション終了後には、座長として以下の行動をとれることが望ましい。

✅ 座長マニュアル:セッション終了後
①厳しいコメントをけた演者にフォローコメントをする [4]
②経験から学ぶ:共同座長や、演者・聴衆からフィードバックをもらい更に良い座長を目指す [1]

▶︎2021年9月27日時点の意気込み

よし!このマニュアルに乗っ取り、すべてを実践してみる。
実践するために、つくったのだから。
周到な準備をしよう、演者の所属や名前を確実に覚えよう。
・・・そのうえでなお、当日、予想外のことが起きるだろう。
その最悪こそが、最良の善になるだろう!
王者の朝食だってたくさんもらおう!
露をも生かし切る、SuperHumanである。

▶︎参考文献・サイト

1. 【日本循環器学会】 初めての学会座長の手引き. 2021.
2. 【Hypotheses】学術会議セッションの議長を務める方法(バカにされないために)
3. 【日本プライマリ・ケア連合学会】2017:これだけでうまくいく♡ はじめての学会座長
4. 【Quality progress】Buchel, 1998:より効果的なミーティングファシリテーターの育成
4. 【治療】大橋, 2016:座長としての議論の仕切り方

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
臨床研究のつくり方を考え・つくり手を育てる
『僕らの臨床研究の年輪』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○