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投球障害肘の早期発見を選手の意志力に委ねないためのモニタリング項目

▼ 文献情報 と 抄録和訳

トミー・ジョン手術の予防;メジャーリーグ投手の尺側副靭帯再建前の選球眼、球速、スピン量の傾向の把握

Mayo, Benjamin C., et al. "Preventing Tommy John Surgery: The Identification of Trends in Pitch Selection, Velocity, and Spin Rate Before Ulnar Collateral Ligament Reconstruction in Major League Baseball Pitchers." Orthopaedic Journal of Sports Medicine 9.6 (2021): 23259671211012364.

[ハイパーリンク] DOI, Google Scholar

[背景] 尺側副靭帯(UCL)再建術は、メジャーリーグベースボール(MLB)の投手の間では一般的な手術であり、その結果、かなりの数の試合を欠場することになる。怪我をしかけている選手を特定するためのゲームごとの傾向についてはほとんど報告されていない。

[目的] トミー・ジョン手術を受ける前の試合で、MLB投手の投球選択、球速、スピン量に、その後のUCL手術を予測するようなパターンの変化があるかどうかを調べる。

[方法] 2009年から2019年の間に一次UCL再建術を受けたMLB投手のレトロスペクティブレビューを行った。投球特性は、手術までの15試合を対象に、試合ごとに評価した。Mann-Kendallトレンドテストを用いて、複数のピッチタイプのピッチセレクション、速度、スピンレートの傾向を特定した。Kendall τb 相関係数は、1または-1に近い値がより強い単調な傾向を示すことを確認した。

[結果] 対象期間中にUCL再建術を受けたMLB投手は223名であった。手術までの15試合において、4シーム速球(τb = -0.657; P < 0.001)、2シーム速球(τb = -0.429; P = 0.029)、スライダー(τb = -0.524; P = 0.008)の球速低下は、手術に近い試合ほど有意に関連していた。また、この15試合の間に、カッターのスピン率(τb=0.410、P=0.038)には有意な正の相関があり、4シームの速球のスピン率(τb=-0.581、P=0.003)には有意な負の相関があった。また、カーブボールの投球率には、有意な正の相関が見られた(τb = 0.486; P = 0.013)。

[結論] 本研究の結果は、MLBの投手において、トミー・ジョン手術を受けるまでの試合で、特定の投球統計値にパターン化された変化があることを示唆している。試合ごとの絶対的な変化は小さいかもしれないが、選手が怪我をする前にこのような傾向を把握することで、Tommy John手術が選手に与える大きな負担を軽減することができるかもしれない。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

オーバーユースの特徴は、だんだん重症度が上がっていくことだ。そして、ある経時的なポイントにおいて保存療法では対応が不可能な領域に入る。その中で、症状の発見を選手の意志力に委ねることは、リスクがある。なぜなら、選手の中には症状を我慢する、自らケアを行う者がいるからである。
今回紹介したような研究が進めば、選手の意志力ではなく、「この障害があったらプレーがこうなっちゃうよね」の部分を客観的にモニタリングしておいて、『この3試合で急速が落ちている → 君、どこか痛いでしょう?』という関わりが可能となる。
そして、『選手の意志力に委ねた障害予防マネジメント vs. 客観的モニタリングによる障害予防マネジメント』のどちらが優れるのかを検証することも大切だろう。