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目にみえる関節角度から、目に見えない『力』を推察する

▼ 文献情報 と 抄録和訳

2Dビデオを用いた競技動作中の股関節・膝関節伸展筋の使用量の臨床的推定について

Straub, Rachel K., Alex Horgan, and Christopher M. Powers. "Clinical Estimation of the Use of the Hip and Knee Extensors During Athletic Movements Using 2D Video." Journal of Applied Biomechanics 1.aop (2021): 1-5.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 股関節伸展筋に比べて膝関節伸展筋の使用量が多いと、さまざまな膝関節傷害の原因になる可能性があることを考えると、個人が動的課題の際に股関節伸展筋と膝関節伸展筋をどのように利用するかを示す動作行動を特徴づける実用的な方法が必要とされている。本研究の目的は,2Dビデオから得られた矢状面の体幹と脛骨の向きの違い(2D trunk-tibia)が,運動動作中の平均的な股関節/膝関節伸展モーメント比の予測に使用できるかどうかを調べることであった。

[方法] 39名の健康なアスリート(男性15名,女性24名)が,6つの課題(踏み切り,ドロップジャンプ,ラテラルシャッフル,減速,トリプルホップ,サイドステップカット)を行った.下肢のキネティクス(3D)と矢状面ビデオ(2D)を同時に収集した。線形回帰分析を行い,各課題の減速期における平均的な股関節/膝関節伸展モーメント比を,膝関節屈曲ピーク時の2D体幹-脛骨角度が予測するかどうかを調べた.

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図. 2Dビデオから膝の最大屈曲時の体幹と脛骨の角度を計算するために描かれた矢状面の線。数値は体幹-脛骨の角度を表す。

[結果] 各課題において、2次元体幹角の増加は、体重で調整した場合、平均股関節/膝関節伸展モーメント比の増加を予測した(すべてP < 0.013、R2 = 0.17~0.77)。

[結論] 2D trunk-tibia angleは、個人が動的課題中に股関節と膝関節の伸展力をどのように利用するかを示す、動作行動を特徴づける実用的な方法である。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

次のうち、目にみえるものはどれでしょう?

(a)関節角度、(b)関節の発揮している力、(c)疼痛、(d)感覚

答えは、(a)だけ。
僕たちは、動作観察をして、カルテに「歩行中の中殿筋筋出力が弱く・・・」とか書きがちだ。
だが、よくよく考えてみて欲しい。中殿筋筋出力が弱いということを、どこから、どうやって知ったのだろう?
それを、具体的に説明することができるだろうか・・・。
直接アクセスできている情報は少なく、推察によるところは大きいのだ。

いま議論しているのが、直接的に目で観察していること(一次情報)なのか、目で観察したことやその他の一次情報から推察していること(二次情報)なのかを明瞭に把握していた方がいい。
なぜなら、仕組みのわかっていない二次情報を解釈することは危険であり、また不具合があったときにその推察方法という仕組みを修正することが困難だからだ(さ推察していることを自覚していなければ、修正しようとも思えない)。

今回の論文は、言い換えれば「目に見えない二次情報である『力』を、目にみえる一次情報である関節角度から、どのくらい推測できるのだろう?」という一次→二次推察の仕組みを作った研究である。
この論文のように、本来高額な機械を用いたり、非常に複雑・精緻な計算によってしか算出できないアウトカムを、臨床上簡便に推察できるようにする「仕組み」をつくることは、臨床研究家の大きな使命の1つである。

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