2023_07_18,2028-SE112

 恐らく唯一の、Shure掛けをしなくても良いShureのイヤホン、SE112について書きたいと思います。とは言うものの、設計思想も含めて大抵のことは、下記のリンク先で全て読めてしまいます(2014年6月4日付けの記事)。左記の通り、発売されてから年月が経っています。ですが改めて調べた限りでも、コードを耳に掛けても掛なくても都合が良く、取り回しが楽そうなものは他に無かったように思います。

上記の記事で、特に強い熱を感じた質疑応答はこの部分です。

「『SE112は特定の用途、たとえばパーソナルリスニング用、あるいはそれよりもゲーム用、といった目的でデザインされていますか?』

『いいえ。当社のイヤホンはすべてライブパフォーマンスに耐えうる品質基準に合わせてデザインとテストが行われています。つまり、かなり苛酷な環境での使用を想定しているということです。ですから、テストでもそういった環境を再現していますし、インイヤーパーソナルモニターとあわせてステージ上で使用できるレベルでデザインされています。それこそが当社の強みですね。』」

Shureとしての矜持を提示する、非常に格好いい断言です。やりとりの内容から勝手に推察しますと、質問の本音としては「単なる廉価版ですか?」といった含みが感じられました。それに対して明確に「違う」と答えている、少々張り詰めた雰囲気の様に見えます。

 発売された当時、様々な記事でSE112は取り取り挙げられていました。勿論、私も知ってはいましたし、印象的な製品でした。しかしながら、25 Hzから17 kHzという再生周波数帯域だけを見て、私はそれ以降に関心を持とうとしませんでした。今振り返ると、Shureの名を冠する音をすぐに掴める機会を逃した、非常に愚かな態度だったと感じています。訴求の一環で、ある特定の数値が主張される事例はありますが、実際の聴感と、仕様上の数値は必ずしも相関しません。最近ようやく手に取ったこのイヤホンで、そのことを思い知らされました。このイヤホンは、ずっとお気に入りとして手放さない様な気がしますし、製造が終了しない限り、断線しても買い続けると思います。

 第一印象は、HD 25に似ていると私は感じました。特に、ハイハットの響きについて、目立つべき音がしっかりと耳に届いていると思いました。先の文で書きましたところの「上限が17 kHz」を感じさせません。ちなみに、私は15 kHzは聞こえますが、16 kHzは聞こえないので、極高域の突き抜け具合……といったことは評価できません。したがって、再生周波数帯を見て製品を選ぶことに、私の場合ほぼ意義がありません。これを思う度、少々の悲しみがぶり返しますが、普段は意識しない様にしています。

 超高域と言いますと、今では当たり前に耳にする様になった、ハイレゾを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。以前は、なんとか Hzまで対応!と言った売り文句が、しばしば聞かれました。しかしながらハイレゾの主たる利点は、非常に高い周波数を再生できると言うよりかは、情報量の豊かさにある点とされるのは周知のところかもしれません。安易な例えですが、私は次の様に考えています。「情報量が増え、可聴域外にも音がある」ことは「dpiが増え、視野外にも映像がある」と例えられるのではないか、ということです。昔は、可聴域外の音が出て何が良いのか?という風に、何も考えていませんでした。しかしながら、映像で言うところのdpiが増えるのであれば、視野内の映像が、より鮮明になるはずです。そのため、ハイレゾに対応した振動板を説明する為に「可聴域外の能力は、可聴域内の表現力を底上げしてくれる」といった紹介がなされるのは納得できると感じています。私が、その表現力を理解できるか否かは、また別問題であり、恐らくはちゃんと判別出来ない気がします……。他方、圧縮音源について、伝送可能な情報量を底上げできるLDACには、確固たる価値があると私は信じています。他にもLDACと同じ様な立ち位置にある伝送方式は多々ある様です。将来的に今の状態が続いていくのか、単一の勢力が拡大するのか、あるいは、全く新しい何者かが現れるのか……そんなことを考えていると、楽しみが増える気がしています。



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