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Gルート論争知ってる? 今さらだけど。

公認心理師Gルート受験に関する問題提起

みなさんは『Gルート』に関する論争をご存じだろうか。それが一番盛り上がった(?)のは、私の知る限りおそらく2021〜2022年ごろではないだろうか。主に当時Twitter(現在X)でその『Gルート』で公認心理師を受験する人たち、あるいはその制度について批判する声が上がり、反対にその制度いわゆる『Gルート』にて受験し資格を得ようとした人たちはその批判に反発し互いの言い分を述べたりした。

当時のTwitterの心理師(士)界隈ではTLはこの論争で溢れていた。立場の違う人たちが互いに自分の主張を述べたり、反対の立場の呟きを引用リツイートしてそこにかぶせて意見を述べたりしていた。その批判を発信し始めた人やその当初は制度に関する批判だったのに、気がついたらそれはGルートで資格取得したすべての人に対しての攻撃になってしまった。それはもうガチンコの喧嘩のようだった。

Gルートというのは、いわゆる公認心理師試験の受験区分の一つのことである。公認心理師資格は2015年に日本初の心理国家資格として誕生したのだが、この資格制度ができたばかりの頃最初の5年間は様々な配慮や措置が取られていた。

現在公認心理師資格は、基本は大学院で専門知識を学んでからの受験資格となるのだが、公認心理師資格誕生の際には”心理業務に携わってきた”という実績を現任者として認めて、ある一定の期間の現任者証明が認められたら受験資格とする、という経過措置が取られた。これがいわゆる『Gルート』である。

たとえば精神科のドクターや精神科で長らくお勤めになっているナース、精神保健福祉士さんや介護専門職の方、私のような療育専門家や教育関係者、作業療法士さんや言語療法士さん、児童精神科、児童福祉、老人福祉に携わる人などまさしく多種多様ではありながらも心理的業務に従事しているに違いない人たちが資格を取った。

もちろんその中には臨床心理士資格を持つ方もたくさん含まれている。臨床心理士は民間資格とはいうものの歴史があり、1988年にはスタートしており、この資格がそのまま心理の国家資格として扱われるようになるのではないかとさえ言われていた。なのでこれまでその資格で心理業務に携わってきた人たちのほとんどは当然Gルートで受験するわけだが、そういった人たちが「一緒にすんなや」という気持ちを持っておられることは十分理解できる。

さて、このGルート受験ができる経過措置は2020年で終了した。と同時に、これらの批判や論争はやや鎮火したようだが根っこでは継続し「Gルートで資格取得した公認心理師は心理士として専門性が低い、実力不足だ」という説がいまだに言われるようになっている。

Gルートを批判する人たち

Gルートを批判する人たちの言い分は以下の通りである。

  • 実際に長年心理的業務に携わってきた人と共に、そうではない人もこの制度を悪用して資格を取ってしまっている。

  • 大学や大学院で心理学を専門に学んでいない人が含まれている。

  • 検査などの訓練も受けておらず、実際に実施できない素人ばかりだ。

  • そういう人たちに心理の資格を与えてしまってはクライエントは被害を被る。

こんな感じだったか、と思う。今となっては詳しく思い出すこともできないが、当時はこの論争を客観的にじっと見ていた。

私がこのやりとりを見ていてふと気がついたのは

”Gルートを猛烈に批判している人は「臨床心理士」さんばかり?”

不思議なことにGルートを批判しているのは皆「臨床心理士」さんばかりだった。厚生労働省は2021年3月の”公認心理師の活動状況等に関する調査”という報告書の中で心理専門4資格として臨床心理士、臨床発達心理士、学校心理士、特別支援教育士をあげている。しかしこの資格の中でも特に臨床心理士さんがGルートを批判し、いまだに「臨床心理士資格を持たない公認心理師ってどうなの??」と言い続けていることが、なんだか面白いなと思ったことを覚えている。臨床心理士さんは自分の保持する資格こそ心理専門資格だというプライドがあるのだろうか。

臨床心理士資格保持者全体の名誉のために付け加えておくが、私の周りで一緒に仕事をする臨床心理士さんたちは誰一人としてGルートを批判する人はいない。それどころか、資格を取ったなら色んなところでもっと一緒に協働していこう、一緒に学んでいこう、という声をかけてくださり感謝している。この制度の課題は認識しつつも、あの論争の中心軸にいた臨床心理士さんとは全く違うと思う。

田舎者に言わせるとこの論争は

しょうもない。

なぜならど田舎に住む我々には、周辺に心のケアをしてくれる専門の心理士さんがいない。どこにもいないのだ。私の住居を起点に半径50km圏内にはいない。いないからクリニックや学校、自治体に雇われた心理士さんはやたら遠くからやってきてくれている。

こんな現状では地域全体の包括的な精神ケアが全く進まない。資格保持者が増えれば、たとえ直接治療をできなくても、然るべきところへリファーできる。つなぐケアが迅速に行える。

都会にいれば、クライエントには選択肢があり、病院や心理士事務所を選ぶことだってできるだろう。そういう状況なら「臨床心理士資格のある公認心理師さんを」といって選ぶことができるんだろうと思う。結局Gルート論争は社会的弱者に関する視点が無視されているのだ。

心理士さんの保持する資格を比較検討して誰にお世話になるか選ぶ、だなんて、私たち地方在住者にはそんなことは夢物語である。田舎にだって引きこもりや家族問題、精神を病む人は割合として都会と同じくらいいるのだ。心理士がいないことは地域にとって死活問題なのだ。

地域格差は社会問題である

こういった地域格差はどんどん大きくなっている。消滅都市とか言われて人口が減り続け、地方は衰退していく一方なのだ。地域を元気にするためには住民の心や体の健康は必須だ。

Gルート論争を横目で見ながら、自分が資格を生かして地域のために何をすべきか考えていた私にはすべて絵空事だった。どうか心理士さんたちは田舎に出向いて現場をその目で見てほしい。田舎では心の病がないなんて思ってないだろうね、まさか。


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