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リンクスランドをめぐる冒険 Prologue

2023年6月22日から2023年7月23日まで。
約1ヶ月間、スコットランドのゴルフコースをめぐる1人旅を敢行。
これだけを考えるとゴルフ好きなら誰もが
「羨ましい!」と思いつくままを言葉にする。
実際、私だって行く前はほぼ、楽しいことしか頭の中になかった。
しかし、いざ行ってみると悪戦苦闘と至福の時の繰り返し。
振り返ればジェットコースターのような1ヶ月間。
これはそこで見たこと、感じたことの備忘録です。

究極の選択をするならパークランドかリンクスか?


夢が広がる世界のゴルフコース写真集
photo by Tadayoshi Kaneko


ゴルフ仲間が何人か集まり、話が盛り上がると(あるいは窮すると)たいてい、誰かがこんなお題を拝借する。
海外で究極のゴルフをするならオーガスタかオールドコースか?
言い換えるなら、徹底的にデザインされたパークランド形式か、それとも陸と海の間に広がる自然を活かしたリンクス形式か?
…いや、もちろん、タイランドとかハワイ、とかっていう意見もあるのだけれど。
それはどちらかというと究極ではなくレジャーゴルフの過ごし方でしょ?
ともかく、大方の反応はパークランド形式に傾く。
そりゃそうだ。
鮮やかな緑の芝目に咲き誇る花々、コース設計者の意図がはっきりと分かるレイアウトに、それを攻略した時の喜び。
クラブハウスは綺麗だし、食事も酒も一級品。
だから日本のゴルフは一生懸命、非日常的なパークランド形式を目指してこんにちのデザインに進化した。
日本で慣れているだけに、究極のパークランド形式は想像しやすい。
一方のリンクス形式。
海沿いの名コースは数多くあるが、厳密に言うなら日本に存在しない。
だから情報はゴルフの試合やコースを紹介する映像、それから経験者のブログやYouTubeだけだ。
だだっ広い薄茶けた大地にわずかばかりの芝、雨はしょっちゅう降るし、遮るものがないから吹きっさらし。
全英オープンなどで知られるリンクスのイメージはこんな感じだろう。
唯一の拠り所はゴルフ発祥の地であること。
でも、そんな拠り所だけで、誰がわざわざ過酷な状況下のゴルフに挑みたい、などと思うのだろう?
もし、私がセント・アンドリュースに行かなければ、今でもパークランド形式を推していたに違いない。

セント・アンドリュースの忘れ難き記憶


犬を連れてラウンド photo by Tadayoshi Kaneko


20年前、ある雑誌の取材でセント・アンドリュースに行った。
取材なので予備知識は万全。
世界最古のコースだとか、ゴルフの聖地とか、R&Aの総本山があるところとか、パブリックコース(意外と知られていない)だとか、1番と18番に流れる小川は昔、近所のお母さんたちが洗濯していたところ、だとか。
正直、優越意識みたいなものが感じられたら嫌だな、という思いもあった。
しかし、その思いは呆気ないほどの杞憂に終わった。
例えて言うなら、近所の気の良いオバちゃん感覚。
…さすがにそこまでの親近感はないか。
とにかく町もコースも、なんだかゆったりした時間が流れている。
ここが、本当に全英オープンの開催地?というくらいに。
「全英オープンはオールドコースで5年に1回、開催される(注:5年に1回はオールドコースだけ)のですけれど、開催する時はセッティングとか観客席の設置とか、とにかく大変。ホント、5年に1回って慣例、止めて欲しいくらい」
セント・アンドリュース(当時は6つ)のコースを管理しているリンクス・トラストの広報担当でさえ、こんなことを言って笑っていた。
もちろん、ゴルフもした。
時期は6月。
ハリエニシダが満開で、コースのあちこちに鮮やかな黄色の花が咲き誇っていた。
なにしろ白夜なので日照時間が長い。
取材が終わった午後5時過ぎ、スターターに行って、
「空いてる?」
「すぐ回れるよ。20ポンド。トロリーは2ポンド」
なんて具合で、オールドコース以外では予約なしで回ることができた。
芝の種類は特定できないが、よく刈り込まれたフェアウェイやグリーンは目がしっかり詰まって鮮やかな緑を放っている。
映像で見るよりずっと打ちやすかったし、海が近くなればリンクスの雰囲気も十分、味わえた。
Home of Golf。
まさに、ゴルファーの故郷。
聖地には違いないのだろうけれど、神聖化とか巡礼地とか、その手のストイックで
高尚で、冗談も憚れるような雰囲気は微塵も感じられなかった。
もちろん、ここがR&Aの総本山であり、私ごときが絶対に見聞きもできないエリアがあることは承知の上で。
意外、と感じたその居心地の良さが忘れられなくて、私はすっかりセント・アンドリュースのファン、つまりリンクス派に転じた。

暴走する我儘な妄想


北極海上空 photo by Tadayoshi Kaneko


もっとも帰国後、再びセント・アンドリュースへ行こう、などという思いはまったくなかった。
その理由は日々の忙しさや金銭的な理由。
誰もが抱える、まったく平凡な言い訳だ。
しかし、齢を重ね、人生のカウントダウンが始まるといろいろ、考えることが出てくる。
で、残りの人生、1回ぐらい我儘してもいいんじゃないか?
なんて、今までの我儘には目を瞑って勝手なことを考え始めた。
その時、真っ先に浮かんだのがセント・アンドリュース。
当時(今もだが)ゴルフにどっぷりハマっており、セント・アンドリュースで
ゴルフ三昧ってのも悪くないな、なんて思っていた。
どうせ我儘するならセント・アンドリュースだけなんてケチなこと言わず、スコットランドでゴルフ漬け、しかも1ヶ月ぐらい。
そんな甘い妄想は時間の経過と共に暴走を始め、いつしか自己暗示で目標へと
変わった。
日常生活で辛いことがあっても、我儘な目標に逃げ込めば耐えることができた。
とはいえ、目標を実現させるためにはゴルフを楽しめる体力のあるうちでなければ
意味がない。
多額の財産を持っていても使い方を知らずに死んでいくのと同じだ。
…持ってないけれど。
とにかく目標の実行は65歳が限度。
クリアすべきハードルはこの3つ。
金と時間、それから家人の説得。
およそ3年間かけて、これらのハードルを超えた。
情熱があればなんとかなる、なんとかしちゃうものだな、と我ながら感心した。

渡航期間は2023年6月22日から2023年7月23日まで。
目的地はスコットランド。
行きたいゴルフコースをいくつかピックアップした他は計画なし。
あとは現地で感じるままにゴルフコースを探し、プレーする。
66歳の誕生日まで2ヶ月を残し、期待を胸に、不安をポケットにしまい込んで日本を旅立った。
さて、この1人旅の結末、どうなることやら。

続く。


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