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市販薬を大量服用すると起こること

身体に、すぐに変化はありませんでした。
だんだん実感が湧いてきた私はまず、自殺したら最も悲しむであろう恋人にLINEしました。
「ごめん。薬を飲んでしまいました。やってもうた…」
お昼頃だったためか、仕事中のはずの恋人からすぐに返信が返ってきました。
「どういうこと? なんの薬?」
「致死量の市販薬…」
「倒れそうなら人のいるとこに行きな。」
恋人とやり取りをしている間、不思議なほど私は落ち着いていて、普段通りひょうきんな節すらありました。
飲んでしまったことを完全には信じられないような心地で、他人事のように事態を説明していました。

最初におかしいなと思ったのは嗅覚。いつも歩いてる普通の街なのに、えびの匂いがしました。嫌いな匂いでした。
義務はやり遂げたという実感があり死ぬことへの恐怖心が戻ってきたのか、倒れるなら人がいるところでと思って駅前のカフェを目指して歩きだしました。1人で死ぬのは嫌だ、と思ったのが1番大きな感情だった気がします。
つくづくわがままですね。
しばらく進むうちに、今度は加えてハッカの匂いがしました。この時はまだ少し眠いような感じで、自分ではまっすぐ歩けているつもりでした。
さらに2,3分歩くと視界がぐらぐらしてきて、足元がおぼつかなくなってきました。
少し休もうと思いガードレールのそばにしゃがみこんで、立って、歩いて、またしゃがんで…と繰り返していたら、
「大丈夫ですか?」
と声をかけられました。
年配の男性の声で、しゃがんだまま振り返るとそれ以外に4人くらい人がいました。
「大丈夫です。」
と答えて歩き出しましたが、数歩いかないうちに倒れ込みました。
手足が震え出し、声はほぼ出ない状態で、顔面蒼白になりながら声をかけてくれた男性に支えられていたと後から教えられました。
熱中症かな。お巡りさん呼んできて。お姉さんしっかり…
誰かに助けを求めようと歩き出したはずなのに、人に助けられている=迷惑をかけている状況が耐え難く、涙が止まりませんでした。
震える指で、恋人に「もう大丈夫そうです。心配しないで。なにもない。」とLINEを送りました。
この時、誰かに心配をかけるということがあまりにも苦しい罪として私の胸を締め付けていました。
恋人に連絡したのも街へ出たのも自分の判断だったのに、ころころと頭の中が入れ替わって、生きていたい本能と死ななければならないという運命の間で板挟みになっていました。

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