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フリーダム

小学校時代、一輪車が流行った。
当時わたしは小学3年生。
学校には確か、10台ほど貸出用の一輪車があって休み時間になると取り合いになる。
ほぼ、5、6年生に奪われていたのだけれど。

2人で手を繋いでくるくる回ってみたり、校庭のトラックをひたすら爆走していたり。
一輪車クラブというものまであって、所属すると運動会の時に一輪車に乗りながら途中経過の点数表のようなプレートを持ちながら颯爽とトラックを一周できる。
大勢の観客の中、注目の的である。

小学3年生のわたしは、それに激しく憧れていた。
しかし、一輪車も持っていないし、もちろん乗れない。学校の一輪車だって奪えるほどガッツはない。どうしようか。

そんな時、神様からの贈り物があった。
祖母(ハル)の家の隣の娘さんが、もう乗らないからと一輪車を譲ってくれたのだ。
まぁまぁ、年季の入った一輪車であったが乗れればなんでもいいと思ってひたすら練習をした。
あまりにも熱心に練習しているのを見ていたハルばあちゃんは
「乗れるようになったら、新しいの買ってあげようね」と言ってくれたのだ。
あんなに何かに没頭して一生懸命になったのは、後にも先にもこの時だけだ。

え、部活とかは?
え、受験とかは?
趣味とかないんだ、この人

って自分でも思う。

それでも、見事!乗りこなせるようになったのだ。
ハルばあちゃんは宣言通り、新しい赤い一輪車を買ってくれた。
「まぁ〜たまげた。本当にすごいねぇ!」とたくさん褒めてくれて。
あれから30年経ち、現在98歳のはるばあちゃんは会うたびにこの時のことばかり話す。

My一輪車を手に入れたおかげで、学校の一輪車争奪戦にも興味はなくなっていた。
なぜなら、家に帰れば思う存分乗れるから。
はやく一輪車に乗りたくて、一目散に帰宅。

わたしの移動手段は、一輪車だ。
友達のお家に遊びに行くのも、自転車ではなく一輪車。
友達と一緒に公園に行くにも、一輪車。
もちろん一輪車を持っている友達は一輪車で。
一輪車で並列走行。
誘う時は「今日、一輪車で遊ぼう」だから。
一輪車でおつかいにも行った。
手で持つのは危ないからリュックを背負って。

校区内はほぼ一輪車で制覇したと思う。
もちろん、一輪車クラブに入り運動会でのお披露目もできた。

想像してみてほしい。
一輪車で公道を走っている姿を。
シュールすぎる。

今、一輪車で、ノーヘルで小学生が街中を爆走したらどうなるだろうか。
写真を撮られて、Xに「危険すぎる!」と取り上げられて、炎上コースかもしれない。

もしかしたら当時も「危険すぎる」と大人たちは見ていたのかもしれない。
今みたいに情報が流れなかっただけで。
両親もどう思っていたのだろう。
あの頃のわたしは周りの目とか何も考えていなくて、むしろかっこいいと思っていたけれど。

30年でこんなに世の中が変わってしまうなんて。

よかったね、わたし。
炎上しなくて。

フリーダムなあのころが恋しい。

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