幻影・不在・俺は本を読むのが遅い 〜村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』42〜

佳境です。

キキは何者だったのか?

それが「僕」の夢の中で、キキの口から語られる章である。

もちろん、夢の中のキキは、「僕」が作り上げた幻影なのかもしれない。実際、キキはそのように言う。

そうじゃない。あなたを呼んでいたのはあなた自身なのよ。私はあなた自身の幻影に過ぎないのよ。

リアルなキキは居なかったのか?あの2ヶ月ほど暮らした女は一体誰だったのか?

五反田君が殺してしまったのはキキなのか?五反田君が、そう思っていただけなのか?

そうした様々な謎は解けないまま残る。

キキによれば、五反田君は、そうすることで自分自身のトリガーを引けたのだという。

彼は私を殺したかもしれない。彼にとっては、彼は私を殺したの。それは必要なことだったの。彼は私を殺すことで自分を解決することができたのよ。

謎めいた言葉。

キキは何者なのか。

五反田君にとってキキは自身の隠れた衝動を表に現すトリガーなのだとしたら、「僕」にとっての隠れた衝動とは何か。

キキは「僕」の前に常に現れては消える。道の向こうへ、扉の中へ、追いかけて、追いついたと思ったら、そこにいない対象である。欠如と不在。

何かがあると思い込んでいる不在。「不在」という幻影だけがある不在。何もない不在。

夢の中にキキが出てきて、「僕」にいろいろなことを語った。

オーケー、わかった。

俺は本を読むのが遅い。

早いつもりでいたけど、『ダンス・ダンス・ダンス』にこんなにかかってたんじゃ、ソローキンの『ロマン』はおぼつかない。

長いものを読む体力がない。

オーケー、その通り。


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