見出し画像

芥川龍之介「杜子春」

はい。上の子の読書感想文もやらねばなりません。

最初に書いてもらった600字のドラフトの、隙間がポロポロ空いていたので、簡単に指摘したら、不貞腐れてしまったので、ちょっと時間を置きました。

指摘内容は3つ。

①あらすじがまとまってない。

②印象に残った部分と、自分が言いたいことをつなげるためのパラグラフが必要だ。

③自分が言いたいことを、実体験を引き合いに出しつつ、もっと説明せよ

でした。

①については、普通の小学生高学年には難しいかもしれません。ただ、まとめたあらすじこそ、「視覚化された全体の理解」なのだという信念からすると、これができただけでもいい、と思うんです。できなくても、圧縮するとどういう話であるか、ということを言葉で示す経験が必要だと思ってます。

あらすじをすっ飛ばして、テーマだけを記し、印象に残ったエピソードを抜き出して、自分の経験に話を引き込むこともできると思うし、それの方が子どもらしい作文なのかもしれません。しかしながら、実は余分と思われるあらすじのまとめの方が、物語文のストラクチャーの理解を示すと思うんです。

論説文が、ロジックというストラクチャーでできているなら、物語文だって、ストーリーテリングというストラクチャーがあるわけじゃないですか。

というわけで、仙人になろうとして何をされても黙っていた杜子春が、親が責め苛まれているのをみて声を出しちゃう、ことを「家族愛の話です」とまとめたりするのはナシだ、とちょっと言ったら面倒臭さがわかったらしく、プンプン!となったのです。

まあでも、あらすじは最終的に近似的解答があるので、大人が手助けしてもいいと思いますので、②の方が重要ですね。

杜子春という作品、まあ説話から取っているので、オチは《誤った選択肢の方が実は正解だった》みたいな『アカギ』風のノリがあるわけじゃないですか。そして、《金や力よりもやっぱり人間らしく生きる方が大事と思いました》という現代風なライフスタイルのモードにあった優等生的メッセージも含まれていますよね。

この人間らしさに上の子は感銘を受けたようで、「やっぱり人間らしく生きることが大事」って、結論部で書いていたので、親が責め苛まれるシーンでつい声が出ちゃった(変な化け物に突かれて命を落としても声を出さなかった杜子春が、ですよ)ことが、どうして「人間らしさ」の肯定につながっているのか、芥川が杜子春に言わせる「人間らしさ」って何か、自分の体験から引っ張り出して、って言いました。

と、言われても、なんのこっちゃと言う感じですよね。

わかります。

バラバラでもいいんです。

きた球を打ち返しているうちに、徐々に、打てるようになるんです。

本の内容がどうであれ、杜子春が悟る「人間らしさ」が大事っていう発言に感銘を受けたら、それを結論に堂々と持って来ればいいんです。

芥川は頭がよかったせいで、そういう解釈の多元性を許すスペースを作ることがうまかった。まんまとそれに乗っちゃってることはあるかもしれないけれども、そんなことに悩むのは小賢しい大人がプライドを守ろうとする素振りなので、この「人間らしさ」を自分はどう考えるのか、という自己開示を堂々とすればいいんです。

まあやらしいっちゃやらしいんだよね。感想というていで、自分を語らせることを目的として、大人もまた、そのイレギュラーな自己開示を楽しんでいる。賢い子だと、こうしたゲームのルールをわかっちゃって、ワザと優等生的なエピソードを盛ったりする。本当の自分は隠しながら、大人が評価するだろう自分を演じて見せたりする。

わかんないけど、俺はソツのない感想文よりも、もがいた上でバラバラになっちゃった感想文の方が好きなんだよね。言葉が出てこなくて、シナプスがまだ繋がってないからなのか、パラグラフ間の内容に飛躍があっても良いと思うんだよ。

丸山健二っていう人が昔、自分の小説を7回書き直せば、いい小説ができるみたいな趣旨を語っていて、突飛なことを言う人だけど、それは真理だと思っててさ。7回書き直すって、要するに自分の小説をおんなじだけ他人の目で読み返すってことだからさ。

とにかく《人間らしさ》って何か考えよう、と言って一緒に散歩して、クソ暑い中、どうでもいい公園までいって。帰ってきて。

《自分に素直になること》って出たから、自分に素直になった経験、今までの人生の中に探してみようって言ってさ。

たかが10歳で、探せるわけないのにさ。48歳になったって、そんなもの簡単に見つからないんだよ。

素直になったのはさ、モラ女に痛めつけられて、苦しいよって、職場の人に言って泣いた時が、一番素直になったことかな。浮気されて、一方的に別れて、お前のせいだって罵られて。

今はさ、キレイゴトはキレイゴトとして、それが今後入るだろう入れ物を作っておけ。作っておけば嫌でも入ってくるからさ。仕分けできれば、感情の整理ができるはず。

とまあ、今日はそんな感じ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?