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「小説 雨と水玉(仮題)(28)」/美智子さんの近代 ”新大阪、そして日曜”

(28)新大阪、そして日曜

千里中央から北大阪急行に乗って、
「あの、美智子さん、あ、なんか照れるなあ。
でも、美智子さん、
美智子さんは梅田で阪急に乗り換えて帰るんですよねえ?
なので、僕は新大阪でこの電車を降りますのでそこで今日はサヨナラしましょう。」
「えっ、新幹線のホームまで行かせてください。」
「ほんとにありがとう。
でもそこまで美智子さんに来てもらうと別れたくなくなっちゃうので。
すみません、お願いします。
明日の日曜の夜、また電話させてもらうんで、必ず。」
「はい、わたしもちょっとそれ、気になってました。
わかりました。日曜、電話待ってます。」

新大阪の電車で別れ、梅田で阪急に乗ると美智子は心地よい疲れを感じた。曽根駅まで来て、うまくお話しできて良かった、楽しかった時間を思い返しながら自宅への道を歩いた。八時を少し回っていた。
「ただいま」
「お帰り、お姉ちゃん、帰ってきた。」
とたか子が早速近寄ってきた。
「お姉ちゃん、はよ部屋いこ、はよう、
さあ、さあ」
「ちょっと待ってよお」
ばたばたと部屋に戻ると、
「どやった?長かったらうまくいったんやろ?
彼氏と付き合うことになった?」
「もう、そんな次から次へと言わんといて。
良―くお話しできてほんま愉しかったあ。
お付き合いすることになったよ。」
「おおー、おめでとう!良かったね、お姉ちゃん!」
「ありがとう、あんたのおかげやわ、ほんまにありがとう。」
「良かったなあ、ほんまに。次の約束はしたの?」
「したよ、来週。天神橋筋にいくって約束した。
たか子ちゃん、天神橋筋って行ったことある?」
「そうなん、ええとこ突いて来るなあ、彼氏の提案?」
「うん、なんや賑やかそうでいいんやないかって。でも行ったことないって言うてた。」
「わたし、大学へ行く途中やからよく行くよ。天神さんまでずーっとアーケード商店街になってて、賑やかで安うておいしいもん何でもあるよ。
あそこやったら、お店いっぱいあるからぶらぶら楽しめる。ええなあ、お姉ちゃん。
でも、なんかお姉ちゃんの顔見てると仕合せそうやから、少し妬ましいので今晩は退散するわ。」
「そうお、そんな顔してるかなあ?」
「明日また聞かせてね。」
「うん、わかった。」

翌日曜、美智子は午前中いつものルーチンで読書をして、昼くらいからたか子にお昼ご飯をごちそうする約束で出かけた。
サラダにパスタ、デザートとドリンクの付いたランチを食べながら、
「せやけど、お姉ちゃん、これからデートどうするの?彼氏毎週東京から大阪に来るの?」
「うん、しばらくは、年内くらいは毎週来てくれはるって。
でもずーっとっていうわけにも。どう考えたらいいんやろ?
そんなこと考えてなかった。」
「お姉ちゃん、彼氏ちょっと相当やな、そんなこと言うてくれるってことは相当お姉ちゃんのこと好きなんやわ。大事にせなあかんよ、わかってる?」
「わかってるよお。」
「彼氏、どんな仕事してんの?」
「去年転職して今はCっていう会社に勤めてはる。研究所にいるって言うてた。毎日残業で忙しいらしいのに、毎週大阪まで大変やと思う、お金もかかるし」
「C社って有名やん、ふーん転職していきはったんや、なんで?」
「なんや、お客さんに直接手にとってもらえる製品の技術を開発したいんやて。いい会社やって言うてて、やりがいあるって。
そういうとこ、ものすごい真面目なんやと思う。なんか自分の世界があるっていうか、そんな感じする。」
「せやけど、お姉ちゃん、そんな忙しいのに毎週お姉ちゃんに逢いに大阪まで来てもらうって、お姉ちゃん、どうする?ちゃんと考えなあかんのちゃう?」
「ちゃんとって?」
「決まってるやん、まじめな付き合いねやろ?」
「それはもちろん。
そやねえ、ちゃんと考えなあかんねえ」
「そうや」

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