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「今村大将の大東亜戦敗戦の反省」についての補足/海軍の失敗と責任:『太平洋に消えた勝機』佐藤晃(光文社)


先日、「今村大将の大東亜戦敗戦の反省」についてを掲載しました。

ここで今村さんが敗戦の大原因として挙げた、1)大権の侵犯、2)陸海軍の対立、3)作戦可能の限度 の5つの内でも最も重いこれら3つに関わる点について、補足させていただきたく思っています。

1)については、2)との濃厚に関連があります。陸海軍が並立し統一した作戦のもとに戦争を遂行できなかったことが2)になるわけですが、それは日本に統一指揮できる頭脳が無かったということでもあります。陸海軍がそれぞれ日本のためでなく勝手に陸海軍それぞれのために戦うということであったとも言えるわけです。
これが大権の侵犯でなくてなんでしょうか?

ここにおいて、陸軍はそもそも首相が陸軍の東条さんで、すぐに陸軍大臣と参謀総長も兼務するわけですから、少なくとも日本のために戦う体制にはあったわけです。
しかし、海軍については、全く首相の東条さんのあずかり知らぬところで作戦が展開されていたわけです。真珠湾であっても東条さんは事後の結果を知らされただけです。そしてミッドウェイの敗戦すらしばらく知らなかったかもしれません。

戦後陸軍悪玉論、海軍善玉諭なるものがまかり通っていた時があります。それは海軍が戦争前、日独伊三国同盟に反対していたとか、の流れからくるものでもあったでしょう。
しかし、これには異を唱えざるを得ません。
今や真珠湾の戦略的失敗論は、定着したと言ってよいと思います。それのみならず海軍は、開戦直前に大本営が決めた戦略方針にも違反して戦いを続けたということがわかっています。

この戦略の不統一と海軍の責任についての研究成果を公けにしておられるのが、佐藤晃さんです。
それは、「太平洋に消えた勝機」(光文社)として出版されています。

まず、真珠湾とミッドウェイですが、そもそもこの二つは大原因3)の日本の作戦可能限度を超えた領域であり、百歩譲っても真珠湾のみで止めるべきでした。

また、海軍は暗号を米軍に見破られており、ミッドウェイの惨敗も兵装転換の5分がどうのこうのと言われますが、そもそも作戦がつうつうに見破られていたのが致命的敗因です。
下記でも述べましたが、今村さんがブーゲンビル視察のために乗った海軍機で危うく米軍戦闘機に狙われそうになったのも暗号が解読されていたからです。
実際その直後に、山本五十六は暗号解読されていたため、機中を狙われ、墜落死したのです。

そして、先にあげた「太平洋に消えた勝機」では、最も重要なこととして挙げられているのが、対米戦争前に陸海軍統合の大本営で立案され決定された戦争戦略の「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」です。これは、大東亜戦で実際にあったミッドウェイとかガダルカナルとか南洋方面を戦いの主戦とするのではなく、まずインド洋を優先し独伊連携へと進み、ひいてはソ連への補給路を断ち、対英屈服を導くことをうたっています。

詳細は「太平洋に消えた勝機」をご一読いただきたいと思いますが、この戦略を進めていたなら、ミッドウェイの大敗なく、南洋での航空隊の消耗も無く、インド洋方面を攻略でき、そのさきは当時勢いのあったアフリカのロンメルとも連携出来て、米国との講和のチャンスさえあったと思われるのです。

しかし、1)大権の侵犯、2)陸海軍の対立、3)作戦可能限度 の三点についての、特に海軍の拙劣さによって、この大戦略が実行されることなく日本はみじめな敗戦へと流されていくのです。

やはり、戦争指導すなわち統帥の一元化というのが、死活的に重要だということです。
それが、1)大権の侵犯、2)陸海軍の対立、3)作戦可能限度 の3つ全てに繋がるわけです。

自虐史観などのレベルの話は歴史を論ずる以前の問題ですが、
そうではない、こういう真摯な歴史の振り返りは、日本の将来にとって真に重要なことと思います。

そういう意味で、今村さんのことに関連して、今回の記事を掲載させていただきました。


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