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「今村大将の回顧録の魅力」偽りない真情が吐露され、深い信仰に裏打ちされた哲学と豊かな情操が溢れている

今村大将の回顧録を読んでいていつも思うのは、今村さんは偽りのない真情を素直に吐露されていることと、深い信仰に裏打ちされた哲学と豊かな情操が溢れていることです。

軍司令官として、ジャワ攻略、ラバウル方面軍の指導の責任者として軍役につき、大東亜戦の最前線に立ちながら、祖国に敗戦という大悲惨を齎した責任を痛感しておられた今村さんだからこそ、偽りない真情が吐露されたのだと思います。

また今村さんの信仰は、

一つは、若い頃教会に通ったことから新約聖書に親しみ、陸軍士官学校からの友人であった山中峰太郎氏の著作や彼との交流から、新約聖書と法然親鸞の教えについて深く思考してきたことによるとされます。
また、さらに、今村さん自身吐露されているように、インド赴任時に熱帯マラリアにかかり、死線を彷徨い、小康を得た時最初の奥様の銀子さんの逝去の報を受け、絶望の淵を彷徨うような経験をされ、宗教の勉強を重ねられたことによると思われます。

ラバウル以降は、軍服のポケットに聖書と歎異抄を入れて指揮していたと言われています。

ラバウルに兵役して脱走の罪で囚われていた、「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な水木しげるは、今村さんが巡視に来られた時偶々接したことがあり、「私の会った中で、一番温かみのある人だった」と語っています。

今村さんは、大東亜戦と戦後裁判中も含めて、7度の死線を越えてきたと吐露されている

私が理解しているその7度とは、以下になります。
1)大東亜戦劈頭、ジャワ攻略戦準備にサイゴンへ向かい日本を出立した飛行機大井号がエンジントラブルで墜落しそうになる。
が、結局済州島へ不時着し難を逃れる。
2)ジャワ上陸作戦中、今村さんの乗船が魚雷を受け転覆する。
が、味方救助船に救助される。
3)ジャワからラバウル第八方面軍司令官着任命令を受けに帰国するとき、途中シンガポールから飛行機黒姫号での離陸時、飛行機が墜落した。
が、炎上の一歩手前で剣道五段柔道三段の田中大尉副官に力づくで引っ張り出されて難を逃れる。
4)ラバウル着任後、ブーゲンビル島へ単騎海軍機で視察に向かう途中、米軍戦闘機団に狙われたが、海軍パイロットの機転で上空雲の中へ隠れることができて命拾いをする。これは後に海軍暗号が事前に察知されていたらしいことがわかっている。
5)ラバウルで、米軍空襲に対して防空壕で退避中、予想を上回る爆弾で防空壕が破壊される。司令部のほかの部下が助からなかったに関わらず、今村さんだけが上方通気口から這い出ることができ助かる。
6)戦後、ラバウル時代、敗戦責任から、服毒による自決をはかるが、薬品劣化により、一命をとりとめる。
7)ラバウル裁判後、連行されたジャワでの戦犯裁判では、死刑を求刑されていた。しかし、戦闘の継続と覚悟し戦い抜き、タイミングよくオランダからのインドネシア独立が国際社会により決定されたことも影響があったが、今村さんのジャワ統治実績と裁判での合理的弁論が裁判長の良心に届き、ついに無罪を宣告される。

死と隣り合わせの中での回顧録の執筆だからこそ

戦争中はもちろんのこと、戦後も戦犯裁判での死刑求刑という死と隣り合わせの経験の中で、今村さんの回顧録が執筆されたことが、回顧録をして、読者を真摯な気持ちに誘うのであろうと思われますし、信仰の深さと相まって今村さんの豊かな情操が伝わってくるのだと思います。



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