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「智子、そして昭和 モノローグ」/第一のモデルは”おしず”、第二は”美智子さん”

 「智子、そして昭和 (1)~(5)」については、本来日本人が仕合せと感じるものへの回帰を書いてみたかったからです。

 その題材として、青春の頃こんな自分でも生きる価値があるんだと励まし続け、背中を押し続けてくれた山本周五郎の作品の中から、最もお気に入りの「おたふく」を何をおいても取り上げたかった。そして同じ20代の22から27までの5年ほどのあいだ、恋焦がれ続け、それゆえに実ることの無かった大阪の女性、美智子(仮名、以下同じ)さんへのオマージュを重ねて、「智子、そして昭和」という作品にしてみました。

 そういう意味で”智子”は最も濃厚に「おたふく」の”おしず”であり、次に私の心の中に今でもいる”美智子”さんです。また、結婚してからの”智子”には実はこっそり妻の心と姿を重ねました。

 「おたふく」の”おしず”は周五郎作品に登場する女性として、ピカ一に光り輝く女性だと私は思っています。それはこの作品を読んだ40年前から変わっていません。

 60歳の還暦はサラリーマンにとって定年となりますが昨年その還暦を迎え、その数年前から人生を振り返る心の作業が始まりました。20年以上手を付けていなかった周五郎作品を読み返し始めたのもその頃です。「おたふく」の”おしず”と”貞二郎”がかつてと同じ心の奥深くへ沁み込んできて周五郎と出逢えた仕合せを噛み締めると同時に、かつて夜も日もなく恋焦がれていた”美智子”さんへの思いが甦ってきたとき、やはり周五郎は”おしず”を愛していたに違いないとはっきりと悟らされました。
 そして「夫 山本周五郎」(福武文庫)にめぐり逢い、それが事実であったことがわかりました。”おしず”はまぎれもなく周五郎夫人のきんさん、その人だったのです。
 
 その後「おたふく」の読み返しを重ねるうちに思いが募り始めました。「おたふく」には前編は2つあるのですが続編はなく、周五郎には事情があったようではあるのですが、”おしず”さんにもっと仕合せになってもらっても良いのではないか、是非物語の中だけでも仕合せになってもらいたい、という思いが胸に募って離れないようになりました。それがこのノベルを書くきっかけです。

 もし、「智子、そして昭和」を読んでいただけたなら、そして「おたふく」をまだお読みでない読者の方がいらっしゃるなら、是非「おたふく」を手に取って読んでいただきたいと思います。
 つたない私の作品のお耳汚しをぬぐい去って必ず仕合せな気持ちになっていただけると思います。

 そして、もし、もしですが、「おたふく」を読んだあと、この「智子、そして昭和」を今一度手に取っていただけた方がいらっしゃるならば、是非私宛ご一報をいただければ,これにすぐる仕合せはありません。


下記に「おたふく」を収録した書籍を掲載します。個人的には最初の大炊介始末の収録が総合的におすすめです。

 


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