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「小説 雨と水玉(仮題)(45)」/美智子さんの近代 ”啓一の実家へ”

(45)啓一の実家へ

水曜日に啓一から電話で、土曜日は結構時間がない、朝八時ごろ出てもらって昼に東京駅に着く、実家へは二時過ぎになる、さすがに一時間というわけにはいかないだろう二時間くらいは見とかないといけない、美智子には十時前には家に帰ってもらわないとと思うと五時前には確実に実家を出ないといけない、そんな感じだが良いか?との話が有った。美智子もなるほどよく考えるとそんな感じになると思い、承知したと応えた。
「ほんとはせっかくだからA書店の東京のお店の見学も、と思ったけど、その時間はないね」
「方向は逆やけど、いつも啓一さんに忙しい思いをさせていたんやなと思った。」
「いや、僕は慣れてるけど美智子さんは慣れていないから疲れたりしないようにしないといけない」
「ありがとう」

土曜日、東京駅のJR中央改札口で待合せた。美智子はその日、紺のコートにクリームホワイトのカーディガン、中には白に水色の水玉のシャツに薄い朱系のロングスカート姿で彼女の個性がくっきりと出た清楚な可愛さに溢れていた。
「今日もとてもきれいです、良く似合ってます、水玉」
「ありがとう」

構内の喫茶で軽食と啓一の両親へのあいさつのことなどを話した。
「僕から両親へは美智子さんのことはよく話してあるから、簡単な自己紹介だけで大丈夫と思う。話をしていい感じでした。だから緊張しないで普段のようにお願いします」
「はい、でも緊張する。」
「僕も先週のことがあるからよくわかるけど、ここまで来てあたふたすることはないから気楽にやりましょ」
「ええ」

一時間ほどで啓一の実家に着き、チャイムを鳴らして玄関を入っていった。
「いらっしゃい、お待ちしてました、啓一の母です」
「田中美智子です、よろしくお願いします」
「さあ、どうぞ中へ」
と言われて中へ進み、テーブル席に行くとお父さんが
「いらっしゃい、ようこそ」
「よろしくお願いします。」
「じゃあ、みな、座ろう、座ろう」と啓一が促した。そして、
「早速ですが、僕と結婚することになりました、田中美智子さんです。よろしく」
「あの、大阪から来ました、これは皆さんで召し上がっていただこうと思いまして」
「まあ、ありがとう」
「あの早速ですが、自己紹介させていただいてよろしいでしょうか?」
「なんかペースが早いけども、そうしてもらっていいかな」と啓一が言うと
「うん、そうね、すみませんねえ、美智子さん、お願いします」
「はい、あの出身は大阪で、大阪生まれの大阪育ちです。大学はKJ大で文学部で英文学を勉強しました。啓一さんとは五年前にH大のサークルで知り合いました。いまは、A書店というところで働いています。」
「書店の仕事って、どんな仕事しているんですか」とお父さんが訊くと、
「はい、仕入れ先の出版元や購買元の大学や図書館との取引や店頭での対応などをしています。」
「それは大変ですね、お仕事は面白いの?」
「はい、書物を媒介にしていろんな方とお仕事するのは忙しいですけど結構楽しいです。」
啓一が、
「結婚して東京へ来ても仕事を続けることになると思う、彼女は大学で勉強したことを大事にしていて仕事にも役立てていてね。」
「あの、啓一さんのいうほどのこともないんですけど、せっかく勉強したんで社会で少しは役立ちたいと」
「えらいねえ、母さん」
「うん、そうだわ」
「学生の時、啓一と同じサークルでいたということだけど」
「ええ、中学、高校とソフトボールをやっていまして、どちらかというと運動系です」
「そう、そういえば体格というかガタイもしっかりして」
「あの、お父さん、、
わたし、ガタイがしっかりしてと言われると恥ずかしいような、、、」
「お父さん、こんな可愛いお嬢さんにガタイがしっかりしてなんて。せめて健康的とかいえば。ごめんねえ、うちのお父さん、こういう人なの、気にしないでね」
「は、は、は(笑)、お父さん、僕と一緒でデリカシーないからって言ってあるから大丈夫、大丈夫(笑)」
啓一は下半身の豊かなところは確かに健康美なんだよなあ、と思った。
「すまんねえ、美智子さん、ウチはこんな男どもばっかりで」
「ふ、ふ、ふ(笑)、いえ、わたし、大丈夫です」

和やかに話が進み、早く帰らなければならない美智子のために夕食を出してくれ、お母さんの方は本当に素敵なお嬢さんでよかった、あまり気を使わないで気安くね、と言われた。美智子は最初緊張していたがもう和んできて楽な気持ちになっていた。そして大阪から出たことが無く東京で暮らすことになると慣れないこともありますのでいろいろと教えてください、本当にふつつかものなのですがよろしくお願いします、と言ったら、お母さんがわたしの方がふつつかものだわ、ふ、ふと笑ってくれた。お父さんはにこやかにそれを見ているというふうだった。美智子は安心して帰阪することができた。

実際、東京駅午後六時頃の新幹線に乗ることになるので午後五時前には家を出てすぐに帰路に就くというあわただしい東京行だった。
「お疲れ様でした。ありがとう。」
「いえ、もうお母さんもお父さんも優しくて安心しました。」
「うん、美智子さんだからだよ、大丈夫と思ってたけど僕も嬉しい、ありがとう。」

東京駅に着いてホームで、いつもと反対の関係になって不思議な感じがした。
「これで美智子さんの仕事のことを進められるね」
「ええ、来週先輩と話してみて、上司に相談することにしようかと思います」
「うん、それがいいと思う」
それだけを確認して啓一は東京駅で美智子を見送った。
美智子は啓一の両親にあいさつをして改めて仕事のことをしっかり進めようと思った。

その夜、美智子は二十二時前に曽根の自宅に戻った。すぐに啓一から電話があり、帰宅したことの確認と東京行のねぎらい、良く寝るようにということだった。美智子は今日一日の充実を感じた身体をお風呂でゆっくりと疲れを癒して、ぐっすりと眠った。

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