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「東京国際映画祭で阪東妻三郎の映画。三男田村亮が語る父(デイリースポーツ記事から)」いまだにニュースとなる阪妻、「無法松の一生」は永遠の名画、至純の恋と男心

田村三兄弟はリアルタイムで

我々の世代、戦後昭和30年代生まれの世代にとっては、田村三兄弟(高廣、正和、亮)は、阪妻の息子たちでもありますが、リアルタイムでテレビ、映画を彩った名優です。
それぞれに持つ味があり、高廣、正和が逝った今、亮だけがかつての時代を語ってくれる残された一人になりましたが、ある意味で親父の何かを受け継いでそれに自分で持つものを加える中で何ものかを私たちのこころに届けてくれたのだと思います。
(今回、愛着を込めて、敬称ぬきにて記します)

三男亮が語る阪妻

長男(高廣)が17年前、次男(正和)が一昨年亡くなり、いまや亮のみが三兄弟あるいは阪妻について何事かを語れるということになってしまった。

亮は、今回の記事で、
父阪妻のことについて、
子供の頃の話として、
「末っ子として生まれ『父には一番かわいがってもらった。怒られたこともないし、よく遊んでもらった』と述懐」
しています。
また、「『ギャラについて聞いたことがある』とニヤり。『かばんに入りきらないからリヤカーに積んでいたそうです。本当かは知らないけど、そう聞いた』と驚きのエピソード」を明かしています。
そして、「『父親に言葉をかけるなら』という質問には『『きょう映画見てきたよ』ってだけですよ』と言葉少な。会場から笑いが起きると『こっちは批判することもできないですから。大先輩だしさ。“バンツマ”さんだから』」と述べています。
なんとも余韻の残る、良いコメントだと思います。

阪東妻三郎を語る資格はないのですが、、、、

私自身は、先述したように昭和三十年代生まれでもちろんリアルタイムで阪東妻三郎を知りません。でも熱心にその歴代の映画を観てきたかと言えばそうでもありません。ただ、『無法松の一生』だけは熱心に見てきました。
しかし、あの『無法松の一生』の阪妻には胸を打たれ、忘れることができない一生もののモニュメントを貰いました。
詳しくは下記の記事にも書きましたが、ここに引用しておきます。

『無法松の一生』

阪妻という大スターの代表作であり、伊丹十三の父である伊丹万作(脚本)の遺作である『無法松の一生』は知らず知らずのうちに子供心に留まっていました。記憶はありませんがおそらく小さな子供時代にテレビで見ていたかもしれません。

 昭和十八(1943)年につくられ、その当時というのは、もちろん戦争中ですから、軍の検閲がすごいもので、文字通り命がけで作った映画だったそうです。それほど大スターの阪妻、伊丹万作、稲垣浩(監督)は入れ込んで映画化したわけです。

 内容は、帝国陸軍将校の父を失った少年敏雄の成長を叱咤激励して支えとなる無法松の一生を描いていますが、粉骨砕身する阪妻の無法松の雄々しくも滑稽味のある庶民の男の心意気に、観客は手に汗握り応援歌をおくりたくなります。「よおー!日本一!!」といまにも大向こうから掛け声がかかりそうな映画でもあります。

 ただ、それは未亡人(園井恵子)への至純の恋心を秘めたがゆえにこそ、美しい所作、出来事やとびきりの笑顔として魅せられるのです。その隠さねばならない恋心の切なさに胸の奥がそれこそキュンと泣きそうになります。

 そして、終盤に訪れる居酒屋での哀しく切なくも心底仕合せそうな、表現のしようなく絶妙な阪妻の表情、至純の恋を貫き通した男の仕合せ、、、、。このカットは日本映画史上最高の名場面なのではないか、と私は思います。

 この作品は『寅さん』などの、その後の数多のラブストーリ、ラブコメディの紛れもない源流となっているのはあまりにも有名なことです。

『無法松の一生』を見ながら泪と共に祈った仕合せ

私は、昭和六十三(1988)年、二十代後半、銀座並木座でリバイバル上映を夜最終回で観ましたが、居酒屋での阪妻の演技を観ながら泪が知らず溢れてきて、そのとき5年もの間恋をし深く愛していたにもかかわらずデートで思いを告げることも出来ずに別れた女性の仕合せをただただ祈っていました。

その女性をネガティブに思えればまだ失恋などは救われるのですが、そうでない場合、どうしようもない自分自身への失望に突き落とされます。
私の場合、やはりその女性は至高の女性だったのでしょう、かなりの時間が必要でしたが、一旦その女性を「坂の上の雲」の間に思い描き、いずれその坂の上の雲に到達すべく一歩一歩人生を歩んでいく、そしてそれは彼女の仕合せをひたに祈ると共に歩んでいく、そういう姿勢を持つことでしか、解決することができませんでした。

その私に寄り添っていてくれたのが、『無法松の一生』であったわけです。
本当に有難いことでした。

居酒屋での阪東妻三郎は、永遠に私の心の中でとどまってくれています。



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