「小説 雨と水玉(仮題)(42)」/美智子さんの近代 ”美智子の家へ”
(42)美智子の家へ
日曜日の朝、例によってたか子が来て、
「お姉ちゃん、仕事の方はなにかめど立ちそうなん?」
「うん、少し可能性はあるみたい。
ただ、もうお父さん、お母さんに話してみようと思てんねん」
「あっ、そうなん、いついつ?」
「うん、今日しようかなって、今日は二人とも家にいるんかなあ」
「そうと決めたら、はよ話したほうがええんちゃう」
「うん、そうやねえ、そうする」
「そしたら彼氏、ウチに来るの?、いついつ?」
「うん、今度の土曜がええかなあって思てるんやけど、お父さんに話してみなわからへん」
「わたしも一緒していいでしょ?な、協力してきたし、彼氏一遍見てみたい、ええやろ、なっ、お姉ちゃん」
「それはこういうときは、お父さんがだめって言うんちゃうかな」
「わかった、お父さんに頼んでみる、お父さんがいいって言うたら一緒に出るから」
美智子から両親に啓一との結婚のことを話してみた。美智子の言うことをそれなりに理解してくれたようだったが、とにかく会ってみようということだった。今度の土曜の午後、自宅に呼びなさいというのが父の言だった。
その夜、啓一から電話があり、様子を聞くと、
「土曜日の二時にウチに、ということになりました、大丈夫?」
「大丈夫、問題ないよ、様子はどんな感じやった?」
「うん、普通と言えば普通。変な感じはないけど、嬉しい感じも無い」
「うん、それはいきなり嬉しいってことはないよ、どこの馬の骨かわからんやつなんやから、とにかく会ってみようっていうことでしょ、それは有難いこと」
「ええ、でも」
「まあ、心配要らんと思うよ、馬の骨も頑張れば木に登るかもしれんというところを見せますよ、は、は、は(笑)」
「フ、フ、フ(笑)」
土曜日、阪急曽根駅まで行くと啓一は言ったけれど彼女の方が梅田まで迎えに来るといったので、梅田から阪急電車に乗りながら事前の相談をしながら曽根の家に向かった。
「東京土産でひよこを買ってきたんやけど、ええかな?と言っても訂正は効かないんだけど。」
「ええ、大丈夫です。」
少し美智子の方が緊張気味だった。
「ネクタイはこれでどう?かっこ悪くない?」
「ええ、大丈夫」
といったあと、急に、
「話しが合ってないと困りますよねえ」
「えっ、それはそうやけど、なんか困るようなことあるかなあ?」
「お付き合い始めてから二ケ月くらいやから短いって思われるかも。この間、啓一さんも言うてましたけど」
「うん、でもそれは嘘ついてもしょうがないよねえ、正直に行くのが一番いいと思う。僕たちがしっかりしてればいい話で、そもそも僕たち知り合ってから五年以上経ってるからお互いのこと良く知ってるし、僕は美智子さんのこと知り合ったくらいからずっと思ってきたから」
「そうですね、そうやわ、そうそう、わかりました、しっかりします」
曽根駅から歩いて五分少々して家が見え、二人で歩を進め玄関の前に立った。
「あの、こちらです」
「うん、そしたら行きましょか」
美智子が玄関のチャイムを鳴らして入っていき、啓一がそれに付いて入り、
「こんにちは、佐藤と申します。今日はよろしくお願いします。」
お母さんが、
「はい、ようこそ、どうぞお入りください」
「はい、ありがとうございます。それでは」
「こちらへどうぞ」
と言われてはいるとお父さんと思しき男性が立って
「あ、どうもようこそ」
「佐藤と申します。今日はよろしくお願いします」
と啓一は繰り返し、多少深めのお辞儀をした。
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