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「小説 雨と水玉(仮題)(71)」/美智子さんの近代 ”花嫁衣裳”

(71)花嫁衣裳

その夜は愉しい会話をし、啓一はその後お風呂を頂いて、早めだったが美智子の部屋で休んだ。しばらくして美智子もお風呂から出て部屋に来た。
「まだ起きてたの?」
「うん、美智子さんが起きてるのに寝るわけにいかんでしょ、
体調は大丈夫なの?あと一か月は突っ走らないといけないから、十分気を付けるんだよ」
「啓一さんこそ。
あの、さっきの映画の話し、していい?」
「うん」
「ほんまに観てよかった。啓一さんは初めて観たのはいつなの?」
「修士の二年生の五月だったと思う、五年前かな、ほら美智子さんが合宿に来てくれた年の五月だよ。そのとき、もう僕は美智子さんに恋してたけどね、
今日観てみて、キャシーと美智子さんのことを重ねて観てたことを想い出した。」
「えっ!えっ?
あのキャシーを観てわたしのこと?、ということはないでしょう?
あの子メチャ可愛いし細くてスタイルもいいし、、、」
「いや、思ってたに決まってるでしょ。
プロポーズもしてしまってさらに口説いてもしゃあないかもしれんけども、
もう真剣に恋してたから、ぼくはね。
あの、映画のセットでドンがキャシーを口説く場面あるでしょ、
あれいいなあと思ってたけど、今日改めて観てね、
ああいうふうに美智子さんと仲良くなれたらいいのになあって、
あのとき思ったというのを想い出した。
まあでも、勝手に思い込んで悶モンとしてたんやから、やっぱり変人やね(笑)。
こんなぼくですがよろしくお願いします、は、は、は(笑)」
美智子は啓一の目を見つめて黙っていた。少しづつその両の目が潤いをおびて光って見えてきた。
「美智子さん、ちょっとおセンチになってる?」
「うん、、、」
啓一はその空気を打ち消すように破顔して、
「は、は、は、は(笑)、美智子さん、お父さんとお母さんが寝てるすぐ上の部屋でそんなお色気だしたらあかんよ、ぼく、我慢できなくなっちゃうじゃない、困るのは美智子さんの方だからね、は、は、は(笑)」
「もうっ!、啓一さん!」
ぷっとふくれた頬が可愛かった。

次の週の週初めに出勤して、勤め先書店で芸能関係の書籍売り場担当の多恵子に訊くと、ちょうど季刊雑誌がでたところでそこにブロードウェイのミュージカルプログラムが掲載されていた。多恵子と一緒に見てみると五月の段階で「雨に唄えば」が十月まで公演が継続されたという情報が掲載されていた。
その夜、美智子は早速電話し、
「もしもし、啓一さん、
あのね、『雨に唄えば』がブロードウェイで十月までやってることがわかったよ」
「あっ、そうなの、そしたら、九月にアメリカに行けばいいっていうこと?」
「そうなるね」
「わかった、今週末よく相談しよ。
九月に結婚休みを取ってアメリカ旅行にいくっていうことでだいたい決まりかな、そのつもりで動いていかなくちゃあかんね」
「うん」

その週末は、式場で衣装合わせと司会進行との最終打ち合わせをすることになっていた。
土曜の昼過ぎⅩホテルで司会進行の打ち合わせを済ませて、引き続き衣装合わせをした。
披露宴の花嫁衣装は、花婿は事前には見ない場合もあるらしかったが、美智子が一緒に見てほしいということだったので二人で来ることにしてあった。
衣装室に案内されてはいると純白の胸元があいたウェディングドレス姿の美智子がそこにいた。色白で肌が豊潤で美しく健康的な美智子はこういう場合とりわけ綺麗だった。ドレスは多少やせ目がきれいに映えると聞いて一、二キロ体重を落とすと言っていたが、照明の具合もあったが確かにキラキラと映えていた。
「お父さんに見せてあげたいくらい綺麗だよ、ばっちり!
もう体重は落とさなくていいよ、これからの体調のためにそれは気を付けてね」
「うん、ありがとう。(着付けさんに向かって)これで大丈夫です。お色直しの方に行きましょう。
啓一さん、また向こうでまっててね、次のモノを着てみるから」
「わかった、待ってるよ」
しばらく待っているとまたお呼びがかかり衣装室に入った。
ペイルオレンジからピンク系のドレスにしたことは知っていた。それは両親が赤も良いけれど二十代前半なのだから若く可愛らしく見える淡色系が良いと言っていたからだった。
このドレスも肌の白さ際立って、滑らかで潤いを帯びた綺麗な美智子の肌との対照が一層美しく映えてい。そして、全体が可愛らしくまとまっているのがグッと好感度を呼び寄せそうだった。本当に美しかった。

啓一の方の衣装も一応美智子のチェックを受けて、式場での予定を終えた。
少し外を二人で歩き、アメリカ旅行のことを相談した。一週間の旅行にはなるが、ニューヨークのほかにもう一都市は行っておこうか、ということで一致した。美智子は初めてのアメリカ旅行だったのでサンフランシスコやロスアンゼルスの西海岸という手もあったが、ボストンなどの東海岸でという案、中部でという案もあり、啓一がT先生の友達という作家Kの作品で南北アメリカの釣り旅行記中に良い話しの出て来るニューオリンズもいいんじゃないかと提案すると、美智子も興味を持ったらしく、来週まで少し考えると言った。

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