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「相分離生物学」(東京化学同人、白木賢太郎)という名の学際領域が拓け、生命科学の技術革新が進む

 

 「相分離生物学」(白木賢太郎 東京化学同人 2019年)という科学書を読みましたが、近年になく好奇心を刺激される、とても良い書物でした。


 なぜ注目されているのか、というと、

 最近、相分離生物学の進展によって、生命現象の精緻なメカニズムが分子レベルから細胞レベルを通して明らかにされつつあるということで、

 従来、分子生物学(分子原子のサイズ)と細胞生物学(分子の千倍以上大きなサイズ)では相矛盾する部分も多々あり大きなギャップがあったものが、科学的に矛盾解消され解析的に理解されつつあるということです。

 いわば、生物と化学の境界領域の技術革新が今起きているということです。

 生物学的な、非常にミクロな相分離(相分離生物学)が、遺伝子の翻訳や細胞内のシグナル伝達、酵素反応の高選択性等代謝全般に関わり、生命現象を制御しているという実態が分かってきたのです。

 内容的には、

 2~7章で、生物学の初学者でもある物理や化学の専門家に対しても、セントラルドグマ、アンフィンセンドグマや代謝科学に、生物学的相分離によって革新的視野が得られつつあるということが非常にわかりやすく指し示してくれています。まさに生命科学の最前線で技術革新が起きていることがビビッドに伝わってきます。

 8,9章では、物理と化学の視点で生物学的相分離の本質を捉え直そうとする動きを解説してくれて、10章では今後の生命科学、それに関連する技術への影響と展望を語ってくれています。


 既に還暦を迎えた化学者である小子をしても、なお掻き立てられるようなものを強く感じます。であるならば、若き物理はたまた化学の研究者、技術者にはこの書をきっかけに飛躍を志してみてはいかがですか、と言っておきます。




 

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