見出し画像

「ローマ人の物語Ⅵ パックスロマーナ」(塩野七生著)オクタビアヌス⇒アウグストウス/カエサルほどでないにせよ、天才オクタビアヌスの物語は秀逸、世界史のハイライト

カエサル暗殺後はその後継者オクタビアヌスが権力を掌握していきます。
そしてカエサルの描いたローマの帝国化を時間を掛けて成し遂げます。

塩野七生さんは、
「ローマ人の物語Ⅴ」のカエサル暗殺後の部分からオクタビアヌスを書いていき、反カエサル派の掃蕩、アントニウス討滅までを「ローマ人の物語Ⅴ」で描きますが、ここまではローマ内部の権力闘争に勝ち抜くオクタビアヌスと言うことになります。
「ローマ人の物語Ⅵ」では、オクタビアヌス改めアウグストウスがローマによる地中海世界の平和、いわゆるパックスロマーナを帝政を静かにしかも確固たるものにしながら成し遂げていくプロセスを描いています。

塩野さんは、ローマ史千年以上のうち、カエサルとオクタビアヌスの十分の一にも満たない110年余の時代に、全15巻のうち、大部3巻を費やしています。

十七歳で、遺言書でカエサルに後継を指名されたオクタビアヌスは、カエサルほどの天才ではなかったものの、さすがカエサルがその天分を見抜いていただけあって、帝政ローマ帝国の礎を築いていきます。

天才カエサルの構想した帝政ローマ帝国、これを明確に腹中に収め、一つ一つ時機を見ながら適切に手を打って大帝国を創り上げたのが、オクタビアヌス改めアウグストウスです。

十七歳で世に出てから、七十六歳と十一カ月で世を去るまでの六十年にならんとする長い時間の中で、アウグストウスはその後四百五十年余り、東ローマ帝国をも後継とするなら約千四百五十年続く、パックスロマーナ、ローマ帝国を創り上げていったということになります。

塩野さんは、文献を精緻に読み込み、その軍事、政治の本質に鋭く切り込んでいきます。人間観察眼に並々ならぬものがあります。
そして、そうやって解き明かされた歴史の躍動は、実に現代の軍事、政治と瓜二つなことなのか。特に米国の軍事、政治と似通っているのは、米国がローマに学んだからなのでしょうが、西洋の本質が普遍的だからなのだからなのではないかと思わせるものがあります。
ギリシャに発し、ローマで鍛え上げられた文明としての西洋、安易にそれを西洋と見做す底の浅い理解は避けねばなりませんが、その西洋を我々との比較において学ぶに持ってこいの読み物をよくぞ塩野さんは提供してくれました。

ここまでの6巻で「ローマン人の物語」の真髄が現れて来ています。
非常に興味深い物語です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?