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私の肝臓はフォアグラなのか?

どのような時に、脂肪肝が疑われるか?

実際の診療において、脂肪肝が見つかるのはどのような場面か。
まずやはり頻度が多いのは健康診断だ。血液検査で肝臓の数値が高い時、最初に疑われる病気の一つが脂肪肝だろう。

Q1. 具体的には血液検査の何を見ればいいのか?

A1. 具体的に言うと、AST、ALT、γGTPである。私は基準値を超えているかどうかで見ていたが、日本の基準値はかなり甘い設定になっているようだ。下記の参考文献①には、ALTでいうと、20U/Lを超える場合には何らかの肝障害がある可能性を考え、ALTが30U/Lを超える場合には専門医のいる病院へ紹介が望ましいと記載されていた。ALT30以上で肝癌の発症率が6.5倍ぐらい高くなるというデータもあるとのこと。また、脂肪肝ではASTよりALTの方が高くなる傾向にあるため、『基準値内であっても、ALTの方が高かったらおかしいと思ってほしい』と注意喚起されていた。

Q2. ALPやコリンエステラーゼは脂肪肝に関係する?

A2. 「肝臓の数値が高い」と言われた場合、上のAST・ALT・γGTPに加えてALPの異常を指示していることがある。ただし、ALPは脂肪肝で上がりやすい数値という訳ではないので、ALPだけ高い場合には他の疾患を考える必要がある。

また、健診で測定されることは少ないかもしれないが、コリンエステラーゼという項目は脂肪肝の診断に役立つ。コリンエステラーゼとは、コリンエステルを分解する酵素で、脂質分解にもかかわっている。コリンエステラーゼが高値を示すということは、過剰な脂質が蓄積されているという危ない信号である。

脂肪肝から肝硬変に近いくらいまで進行しているかを調べるのは、肝生検(肝臓に針を刺して細胞を取ってくる検査)だけ?採血で調べる方法はない?

肝臓の状態を調べるのに、最も確実なのはやはり細胞を取ってくることだ。しかし、細胞を取ってくるとなると数日入院が必要になり、また針を刺すので出血などの合併症を起こす危険性もある。腹部エコー(超音波検査)で肝臓がどのくらい硬くなってきているか(=線維化してきているか)を調べることができる病院もあるが、採血で肝線維化を評価する方法もある。その際の指標として用いられるのが「FIB-4 index」である。名称の由来は、年齢・AST・ALT・血小板の4項目からfibrosis(=線維化)を評価する、というところから来ていると思われる。

FIB-4 indexの使い方、問題点

値と線維化の関係は以下のとおりである。FIB-4 index≧1.3なら一度受診することが望ましい。

  FIB-4=~1.29・・・線維化が進んでいる可能性は低い。
  FIB-4=1.3~2.66・・・線維化が進行している可能性あり。
  FIB-4=2.67~・・・肝硬変まで進行している可能性あり。

この指標は年齢がかなり影響する因子、ということに注意が必要だ。日本には高齢者も多いため、FIB-4 indexが高めに出やすい傾向にあり、FIB-4 index≧1.3で区切ると偽陽性(実際は脂肪肝でないのに数値からは脂肪肝と判断されること)もありうる。逆に言えば、年齢が高くないのにFIB-4 index高値となっているのなら、早めの受診が望ましいということだ。

実際の診療の流れ

FIB-4 index≧1.3となって病院を受診した場合、どのような流れで診療が進んでいくか?上にも書いたが、年齢の影響で偽陽性がある程度含まれるため、M2BPGiやⅣ型コラーゲン7sなど、別の採血項目も測定して肝線維化の進行した症例を絞り込んでいくことになる。線維化が進行していないと思われる症例でも脂肪肝は脳梗塞を起こす危険性があるため、頸動脈エコーや負荷心電図といった検査で心血管系イベントリスクの評価が行われる。専門医への紹介が必要かについては、今まで脳梗塞・心筋梗塞を起こしたことがある人ならばすぐに紹介となるが、起こしたことがなければ減量で肝障害が改善するかが一つ目安になる。ちなみに、冠動脈疾患の発症を予測には「吹田スコア」や「フラミンガムリスクスコア」が用いられる。
※フラミンガムリスクスコアは、日本人には不正確と考えられている。

参考文献

『小池和彦ら、脂肪肝 NAFLD/NASHの理解と高リスク群の囲い込みへ、内科総合誌Medical Pracice2023年9月号、1315-1319』

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