見出し画像

やせ薬は実在するか?

これまで脂肪肝に関する記事をいくつか書いてきた。
今回は、実際の診療でいただいた質問にいくつか回答していく。
回答なので、です・ます調になっている。

Q1. 脂肪肝に効く薬はあるの?

A1. 今のところ、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)や脂肪肝の病名で使える薬はありません。ただし、脂肪肝患者において、肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの代謝異常が病気進展のリスクファクターになるため、そのような病気を持っている場合には下記の薬が使われます。
 <糖尿病を合併>
SGLT2阻害薬を、効きが悪くなったらGLP-1受容体作動薬(セマグルチド)を用いることが多い。SGLT2阻害薬は線維化、炎症ともに改善する。
 <高トリグリセリド血症を合併>
ペマフィブラートが用いられる。
 <高血圧を合併>
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)が用いられる。

Q2. 体重はどのくらい減らしたらいいの?

A2. できれば標準体重を目指したいですが、いきなり標準体重を目指すのはキツい場合が多いので、まずは体重を3kg減らすよう頑張ってみましょう。3kg程度減量できれば、血液検査で肝臓の数値が改善していることが多いです。
<体重減少の目標>
5%で脂肪肝が減る。7%で活動性が減る。10%で線維化が改善する。

Q3. 全然食べていないのに、なんで痩せないんですか?

A3. 意外と食べているからです。小腹がすいた時に、チョコや菓子パンを食べていませんか?喉が渇いた時にジュースを飲んでいませんか?食事の際、白米を茶碗山盛りにしていませんか?一度、毎日の摂取カロリーを計算してみましょう。計算出来たら、カロリーをそれまでの2~3割減らしてみてください。そして体重を毎日量ってみてください。すぐには効果が出なくても続ければ必ず減るはずです。また、糖尿病がある人は糖質制限を、コレステロールや中性脂肪が高いと言われた人は脂質制限もお忘れなく。

Q4. 運動もカロリー制限もしたくない。簡単に痩せる薬はありませんか?

A4. なくはないですが、適正な使用とは言えないので、処方したことはないです。どんな薬かというと、A1.の中で「糖尿病を合併している人に使う」と書いたSGLT2阻害薬がそれにあたります。このSGLT2阻害薬は、脂肪肝による線維化と炎症のいずれも改善するとの報告があり、糖尿病がある人には良い適応です。どのようにして体重が減るのかというと、SGLT2阻害薬の服用によって、尿に余分な糖が排出されるようになるため、過剰分の糖の吸収を防ぎ、結果的に体重減少につながることが期待されます。

肥満解消として、どうしても使用してみたい場合には、①糖尿病治療薬のため、肥満改善に用いる場合は保険が効かないため全額自己負担であること、②低血糖脱水症尿路・性器の感染症などの合併症を起こすリスクがあることを知ったうえで、普段かかっている医師と相談して処方してもらってください。

Q5. そんなこと言わずに・・・。何か薬、ありませんか?

A5. 現在日本で使用可能な肥満治療薬は限られており、『肥満症診療ガイドライン2022』に記載されているのは「マジンドール(サノレックス®)」という薬のみになっています。ただしこの薬は、依存や肺高血圧症発症のリスクがあるため、2週間に1回の病院受診が必要であり、投与期間も連続3か月となっています。また処方対象も食事・運動療法の効果が不十分な高度肥満症(肥満度が+70%以上、またはBMI≧35)とかなり限られているため、ちょっと痩せたい人に使うことはできません。

漢方で言うと、防風通聖散が効く人もいます。
ガイドラインに明確な記載はありませんが、防風通聖散は添付文書上の適応として「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの諸症状:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」と記載されており、肥満症で便秘の方に効果があるとされています。

海外では1997年から使用されている、腸管からの脂肪吸収抑制による減量作用を有するリパーゼ阻害薬である「オルリスタット(アライ®)」という薬が、日本でも今後OTC医薬品(病院からの処方ではなく、ドラッグストア等で購入する医薬品)として販売予定です。

語句解説

NASH(非アルコール性脂肪肝炎 )

NASH:Non-Alcoholic SteatoHepatitis
脂肪肝には、単純な脂肪肝(NAFL)とNASHとに分けられている。NAFLはほぼ進行しないと考えられているが、NASHは進行性で、肝硬変や肝癌に進行する。この2つを見極める確定診断には肝生検が必須で、肝細胞のバル―ニングがあるかないかで分けられる。ただし、単純な脂肪肝なら放っておいても問題ないか、というとそんなことはなく、線維化が進んでいないのなら心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを起こしやすい。
つまり
・線維化あり:肝臓疾患のリスクが高い。
・線維化なし:心血管系のリスクが高い。

標準体重

身長と体重から割り出される指標である「BMI」と呼ばれるものがある。
このBMI、22程度が最も長く生きられるとされており、このBMIが22となるように計算した体重が標準体重である。
具体的な計算方法は以下のとおりである。
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

SGLT2阻害薬

糖尿病治療薬の一つ。「SGLT2」と呼ばれるタンパク質の働きを阻害して、体内の余分なブドウ糖を尿として排出することで血糖値を下げる働きを持つ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?