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白酒で乾杯

自分のキャリアを一度振り返ってみようと思って、いろいろ思いを巡らしていたら、これは言語化しておかなくてはいけないと思った。投稿は躊躇したし、読む人が読めば何の話だか分かると思う。しかし、この経験は私の人生を振りかって書かなくてはいけないと強く感じた。
気を悪くする人もいるかも知れない。申し訳ないが当時の気持ちを整理しながら書いてみた。

私の会社には中国にも工場があり、出張に良く行っていた。
中国への出張は大抵一週間で、初めての時こそ先輩と2人で行くが、その後は大抵1人旅。とは言うものの、当時は出張者が多く、現地で会ったり、移動が一緒だったりしたのはよくある事だった。

当時の私は中国出張にもだいぶ慣れて、1人で出張日程も組んでいたし、結構好き勝手やっていたと思う。
中国の食事は割と食べれる方でむしろバクバク食べるもんで、中国人に喜ばれてたらしい。
ちょっと脂っこいのと、辛くて食べれない事はあったけど、ヤンロウも臭くは無いし、胃袋から脳みそから日本では到底食べれないような部位まで食べれたので、物珍しいというか、楽しかった。
青島ビールは最高であのちょっと薄い感じが自分的には好きだった。
ただ、白酒はどうも馴染めなかった。アルコールの強さもそうだが、匂いが好きになれなかった。白酒での乾杯には良い思い出が無い。しかし、接待には白酒は出てくるし、乾杯はあるのが常である。

毎日の様にでは無かったが、この時の出張でもありがたく接待を受ける事が有った。
設備メーカーさん2社との接待だった。一方は日系で、仕事もバリバリだったので、特に問題視して無かったが、もう一方はローカルで仕事が適当。これで良いの?って何回言ったか。その場しのぎの連続で正直手に負えなかった。こういう人に限って、お酒は強いのである。(偏見かな?)

私はもうはなから気持ちが負けていた。やめてくれー。ビールにしてくれー。
テンで飲めずに場は進まなかった。そんな中に救世主の如く、大先輩が、途中参戦してくれた。
彼は中国に駐在経験もあるスペシャリストだった。参戦した瞬間から私の不甲斐なさに気付き。こうやって飲むんだ!と言って乾杯をしだした。
彼は後から来たのに1番飲んだ。箸は持たずにコップだけを傾けた。場は大盛り上がり。この流れに私もある程度乗っかり勢いに任せて飲む事が出来た。彼が強引に引っ張ってくれた。

しかし、そんな無茶苦茶な飲み方で大丈夫な訳が無い。ろれつが回らなくなったかと思ったら、目が座って、締めの乾杯は皆んなが止めたが、やり切った。以降彼は椅子から立ち上がる事は無かった。

そんなにお酒に強かった訳では無かったのだ。
私とは初対面だったのであまり知らなかったが地元も近く、私の父の事も知っているらしかった。後から知ったのだが、彼の娘さんは私の同級生。自分の子供世代がこの文化にやっと来た。と楽しかったのだと思う。凄くチャーミングな方だった。

それ以外にはどんな話しをしていたのかはあまり覚えていないが、ホテルまで担いで運んだ。登山をバリバリにやっていた時だったので、足腰には自信があった。しかし、人って気を失うととてつもなく重い。お店からタクシーまではそれ程距離も無かったが、ホテルの部屋までは長かった。一度下ろすと上げれないと思って踏ん張った。
やっとこさベットに寝転がせ。身体が浮きそうな思いをした。

この背中の温もりが彼を感じた最後だった。
翌朝彼は会社に来なかった。
流石に飲み過ぎたのだろうと、思っていたのだが、そうでは無かったのだ。
その後私は通訳付きで公安の事情聴取を受けた。テレビでは良く見るイメージだが、有った事をそのまま聞かれた。その時そうだった事をそのまま話しした。頭が混乱していた。どうすればいいかわからない。

職場に戻っても何をどうすれば良いのかわからなかった。当時の総経理に『私はどうすれば良いですか?』と聞いたのをよく覚えている。
彼は最初驚いた顔をしていたが、『自分の仕事をしなさい。』と言ってくれた。この一言に救われたと思う。彼がこの時に中途半端な扱いをせずにきちんと立場に見合った指示を出してくれたので、私は前を向けたのだと思う。
彼はもう会社には居ないが色々な伝説だけは残ったままだ。

その後しばらくは寝れない日々を送ったが、やるべき仕事をして、帰国した。
ほぼ、私のせいだと思うが、飲めない若者を引っ張ってくれた事。楽しそうに飲んでいた事。チャーミングな笑顔と重たかったおんぶは一生忘れないし、私の糧にしていきたいと思うし、この重みをしっかり背負って生きていかなきゃいけないと思っている。
ここまで詳細に話をした事は無かったが、親族の方には何と思われるか。想像もしてなかったと思うし、親孝行もまだまだこれからだったと思う。あの時こうしてたら良かったとか、いろんな思いが出るが、申し訳なかったとしか言えない。

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