徒然物語79 顔(ホラー回)
「続いては心霊写真のコーナーです。」
アナウンサーのお姉さんが、神妙な面持ちで語りかけてくる。
友人のアキと二人で、暇つぶしにテレビを垂れ流していた。
僕は読んでいたマンガから目を離し、お姉さんに視線を送る。
最近少なくなったミステリー番組。そのワンコーナーらしかった。
「今時、心霊写真なんて。これだけ加工技術も上がってるんだから、怖くもなんともねーよな。」
アキが僕に同意を求めたので、
「まったく。どうせフェイクだろって、先入観で見ちゃうよね。」
と、相槌で返す。
「それでは、ご覧ください。」
画面越しのお姉さんがそう言うと、一枚の写真が画面一面に映し出された。
これは…子供が浴衣で…修学旅行か?
その写真には、高校生くらいだろうか。
坊主頭の男が三人、肩を組んで写っている。
三人の笑顔がこちらに向けられているが、目は黒線で隠れている。
浴衣姿ということは、おそらく旅先。
背景は旅館の一室を思わせる、淡い色の土壁と襖がのぞく。
修学旅行か、合宿の夜といったところだろう。
もう何年も前に撮られたのか、写真全体に赤みが掛かっている。
「スマホの写真じゃ加工できちゃうから、古いヤツを持ち出してきたな。」
アキが顎を撫でながら、画面を眺めて言った。
「この写真は数年前、某所にて撮られた修学旅行の写真です…」
などと、お姉さんは断片的な情報を、神妙な面持ちで語り出した。
「みなさん。お分かりですか?この写真の違和感に…」
「ハッ、くっだらね~
やっぱり低級心霊番組だな。そんなもん一目瞭然だよ。な?タケ?」
アキが再び同意を求める。
「まったく。左上のとこでしょ。」
「だよな。」
違和感なんて、探すまでもなかった。
写真の左端。
襖の上部に明らかに顔の輪郭があった。
首もない。
中年男性を思わせる男の顔が、襖から滲むように浮かび上がっていた。
その形相は怒りに満ちていた。
まるでレンズ越しに、僕たちを睨みつけているかのような。
「さすがにはっきり写りすぎでしょ。」
「加工にしちゃ、よくできてるな…」
僕もアキもその顔にくぎ付けになっていた。
何秒間、そうしていただろう。
ワイプからお姉さんが覗いて、再び話し始めた。
「みなさん。お気づきになりましたか?そうです。画面右下のこの部分。この少年の指が一本多いように見えたのではありませんか?」
「ん?」
そこ?
僕とアキは一瞬何を言われたのか、理解が追い付かずポカンとなる。
そちらに視線を移すと、確かに画面右側の少年。
垂れた左腕の指が一本増えている。
…ような気がする。
該当の部分は不鮮明さも合わさって、言われたらなんとなくそうかも…
という気がしてくる。
その程度の違和感だ。
しかし、左上の顔は、そんな不確かではない。
はっきりと映りこんでいる。
そして、はっきりとこちらを睨みつけている。
なぜ、お姉さんはあの顔を指摘しないんだ…?
まさか、見えているのは僕たちだけ…?
アキもテレビに釘付けになっている。
言いようのない恐怖が二人を支配し始めていた。
「さあ、続いて2枚目です。」
お姉さんの言葉が響くと同時に、画面がスタジオに切り替わる。
その瞬間、重い空気が掻き消える。
「や、やめよやめよ。こんな番組。面白くねーよ。」
言うが早いか、アキがリモコンを操作して番組を変えた。
以来、アキとはその時の話を一度もしていない。
あの怒りに満ちた顔は何だったのか…
僕は今でも時々思い出す。
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