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IBN寮物語—鹿本、登場—

 一階談話室(IBN寮の半地下の部屋)は畳で20畳ほどある和室の大部屋だった。サッカーのミニゲーム程度なら出来そうな大きさである。実際、ここには私を除いた11名の新入寮生がイレブンとして1か月間生活を共にすることになる。
 とそのとき、一階談話室の扉が開き、新入寮生が入ってきた。名前は鹿本と言い、鹿のように丸い目をしており、細身であるが、キューピーマヨネーズのような体形をしていた。鹿本は岡山から来ており、理学部の地学(地球科学)系とのことだった。本当は理学部の物理系で素粒子の勉強をしたかったが、英語の成績が悪かったから第二志望に入ってしまったと言っていた。2年生の終わりに系の変更が認められているため、それまで勉強して物理系に転向したい、と岡山弁で言っていた。
 と、このように話している最中に、彼は時折髪の毛をかきむしる癖があり、その度ごとに、ふけのようなものが舞っている。鹿本はここで私の視線に気づいたようで、「わしゃ、金属アレルギーで、皮膚がかゆくなるんよ。それで、その古くなった皮膚が剝がれてしまうじゃ」と説明してくれた。決して、ふけでは無いとのことであった。が、まさにその古くなった皮膚こそが、ふけなのではないか、と思ったが、ここでもスルーすることにした。
 なお、鹿本はこの後、八木山神社前のコンビニでアルバイトを4月初めに始めるがアルバイト初日でクビになる、というIBN寮内最速の解雇記録を作っていく。頻繁にふけのようなものまき散らす癖のある彼が、コンビニのおでんや肉まんを作る作業をするのであるから、お客が衛生面を気にするのは当然であろうし、それを見た店長が激高して、彼をクビにするのはむしろ当然と言える。
 鹿本のこの我の強さはサッカーでいうと、センターフォワードに最適化された人間ということになる。


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