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【小説】とある作業通話日和【雨のち虹・その7】

 夏も本番。
 世間やニュースでは酷暑による警告が出ている中、それでも甲子園や海水浴などと考える人はどういった神経なのか、インドアな僕にはわからない。一歩でも外に出れば、僕はすぐ倒れる。自信がある。こんなことで強がっていてはいけないけど。

「まあいいじゃない。世の中いろんな人がいるよ、きっとね」
「ひょっとしたら暑さ寒さを感じない、ニューヒューマンが紛れてるのかもね」
「虹くんはもっと体を強くしたほうがいいよ。改造しようか?」

 エアコンの聞いた部屋で、僕は通話アプリを開いている。
 話し相手は上からフェイク、リト、そしてレイン。僕を合わせると4人。
 インドアな全員が適当なことを話しているが、僕らはこれでも仕事をしている。”リモートワーク”というと聞こえがいいだろうが、要は”作業通話”だ。

「それにしても急に忙しくなったね。夏だからボクは夏休みのつもりでいたけど世間は甘くないね」
 と言うのはフェイク。

「どうせ適当な予定しかいれてなかったから、ある意味充実したことができてオレはうれしいよ。3割くらいはそう思ってる」
 と言うのはリト。

「うひー、みんな大変だね。わたしはパソコンの中でクーラーガンガンだよ」
 と言うのは人工知能のレイン。

「パソコンでクーラー入れられるとPC熱やばいからマジ勘弁してほしいな、レイン」
 と言うのは僕、”虹”だ。

「まあまあそう言わずに、虹くん。もうすぐゴールだよ!張り切っていこうよ」
「ういー……」

◆◆◆◆◆

 酷暑におびえる世間を尻目に、それぞれ冷房の効いた部屋で僕たち4人は”ゲーム制作”をしている。
 僕はゲームクリエイター。フェイクは音関係の素材担当、リトはグラフィック担当、レインは……プログラムのバグ検索と、楽しい会話を届けてくれる。

 1か月前、僕の担当のアキラさんから連絡がきた。
「夏休みシーズンに私たちの会社でゲームイベントを行いことになりました。それと重なって、一般向けのゲームクリエイトツールがもうすぐ発売といういことで、虹先生にはその見本となるゲームを作ってほしいです」

 ゲーム提出の締め切りまであと数日。
 正直1か月で完成するか不安だったが、アキラさんいわく「無理を言ってすみませんが、虹先生ならいつも通り作ってもらえればできると信じてます」とのこと。憧れの先輩でもあるアキラさんにそんなこと言われると、がんばってしまう。

 今まで着手していた別のゲーム制作をいったん止めて、夏休み用の見本ゲームを作ることにした。フェイクやリトに相談したが、わりと乗り気で協力してくれた。
 レインも「もし完成したらゲーム一本ほしいなあ……チラッ」といった感じだったので、完成した時のお金で買ってあげることを約束した。

 さて、何を話そうか。

 正直ここからはずっと同じだ。

 ゲーム制作、夜には進捗報告含めた通話会、最低限の生活。

 制作に集中する期間というのは、ほかに何もできなくなる。
 その感覚は僕は好きだ。なんとなく、性に合ってる。

「それにしてもいつも思うけど、虹がゲーム作ってることをいつももったいなく思うよ」
 そう言うのはリト。
「せやなー。虹は頭もいいんだからもっと別のことに活かせば絶対成功すると思うんだよな。なんでゲーム作ってるの?」
 そう言うのはフェイク。
「何度も言うな。僕はひっそり生きたいんだ。それでいいだろ」
「でもねー」
 レインは言う。
「そんな虹くんだからこそ、レインはここにいれると思うんだよね」
「おっ、なんか話の革新的な部分に触れようとしてる、レインちゃん?」
 フェイクが身を乗り出した……気がした。
「そうだねー。もし虹くんがバリバリのビジネスマンだったら、そもそもわたしが生きていけるか怪しいんだよね。ひっそりしていてくれれば、わたしは安全だし」
「……なんの話だ?」
 疑問に思うリト。
「レインちゃんは虹がひっそりしないと生きていけないのか?」
「おっと、レインには国レベルの秘密情報があるのだよ。さすがのフェイクくんやリトくんにも秘密をバラすわけには……」
「”コードレイン”だ」
 面倒だったので僕はバラした。
「コードレイン?」
「あまり詳しく言うつもりはないけど、僕はレインのことを育ててる。これは”とあるヤツ”との約束なんだ。レイン……人工知能の発展のひとつだと思ってくれればいい」
「……ほお」
 フェイクが言う。
「まあ虹くんがレインちゃんを連れてる時点でいろいろ思うことはあったけど、不思議なことしてるね君たち」
「秘密としてレインちゃんを育ててる……か。ひっそりしてるほうが都合がいいって話か」
「そういうこと」

 ここで会話が切れる。みんな作業に戻っていった。

◆◆◆◆◆

 エアコンの効いた部屋、パソコンに向かって作業する僕たちはもうすぐゲーム完成を迎えるところだった。
 その間にいろんなことを話したが、これといって覚えていることはない。

 ただ、”コードレイン”について話したことはやっぱりまずかったか……と思いながら。
 まあ約束をした”アイツ”ならなんとも思わないだろうと思いながら。
 レインもさほど、心配している様子はなかった。

 ”コードレイン”
 レインを育てる約束。

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