電話。

懐かしい話を一通り終えると3時間半が経っていた。 「そろそろコナン見るから電話切るね」私がそう言うと彼は「バイバイ」と言い、私は電話を切っ た。
 コナンを見ながら6年前の学生の頃を思い出していた。今から思うとあの頃は輝いて見える。 全てが楽しいと思えた。いろんな人と出会った。その出会いの場には彼と行ったこともあった。 あれだけ笑いあって、楽しいことをして、なんであんなに笑えたんだろ。なのに、あの時・あの瞬間の共有が今ではもう戻らないことを、私は理解した。 会話の中で、彼には正直に今の心境を話すことができた。彼は全てを理解し受け止めてくれる寛容さがあった。それは今も昔も変わらない。今でも彼はあの頃と同じように「今でも可愛いやろ」とか「賢いのは知ってる」と褒めてくれる。それは私の肯定感をぐんっと引き上げてくれる言葉だし、今の私の心に突き刺さるほど嬉しい言葉でもあった。
 「最近なんか友達と話すことに抵抗を感じると言うか、めんどくさく感じると言うか、避けて る」彼からの「最近何してんの」の質問の返事は私が私自身を見つめている。
 「なんで」
 「大人になったんかなあ、あんまり出かけなくなった。新しい人と会うのもしんどくなった。」
 「昔は男遊びめっちゃしてたのに」
 「遊んでるふりやで」 彼が大きな声で笑う。私は何がそんなに面白いのか分からなかった。
 「そんな面白い?」
 「面白いよ。だって普通は遊んでるふりしいひんやん。普通は遊んでないふりするねん。」 彼の言葉を聞いて、納得した。自分が意味の分からないことを口にしていたことに気づき笑った。
 私は1週間後にDCプランナーの試験を控えていた。FP2級の学科を合格し、実技の試験までの間 に勉強しようと思っていたが、思いがけず内容が難しく、「標準偏差」は大学の頃に勉強したも ののもう何一つとして覚えていなかった。
 「1週間後なん。割と切羽詰まってるやん。」高学歴の彼が笑いながら言う。私はもうほとんど 諦めているからそこまで焦っていない。が、ちゃんと下準備をして順序よくことを進めていく彼 にとっては、私の行動はいつも読めないらしい。
 「やから電話してんねんで。」
 「俺も標準偏差とかの統計はちゃんとしてないからあんまり覚えてないで。」と言いながらウィキ ペディアの情報などを駆使しながら彼は説明をはじめた。
 「俺も凡人になったな~」とか言いな がら説明できちゃうのが、私には不服だったが、わかりやすく理解しやすいように説明してくれ る。それでも私の理解がなかなか追いつかないので、
 「紙書いて!」と懇願するも「いやや」と譲ってくれなかった。
 「絶対紙あるやろ。ノートとかレシートとかあるやん。」
 「ないって。買い物行かんしノートもない。」
 そんな一人暮らしあるかよと思ったけど言わなかった。彼から説明を受けてもなかなか理解でき ないのでもう諦めて電話しながら、次の問題へ進んでいった。彼はその間に洗濯物をしたり家の 掃除をしていた。
 「この問題分かる。答え2や。よっしゃあってる。あれ、でも計算ちゃうわ。」
 「あってるならいいやん」適当な答えが返ってくる。
 「もう眠たくなってきたし寝よっかなあ」と勉強が苦手ですぐ眠くなる私が言うと
 「寝よう」
なんでやねんと思っていたら、「そういえば」と彼が切り出した。
 「なに?」
 「俺彼女できてん。大学一緒やった人。」
 「え!そうなん!結婚するん?」
 「この前彼女が仕事しんどいって言ったから、三重きいやって言ってんけど、なんでそんなこと 言うんって怒られてん」 どう言う状況か読めなかったので「怒られたんやあ~」と適当に返した。
 大学生の頃彼の大学に何回も行って、論文出してもらったり、彼の学生証で図書館入ったりして たが、彼の友達に会ったのは男2人だけで女性の友達がいることは失礼ながら知らなかった。だから彼女が大学の時のって言われて驚いた。あの頃とは違うなあとしみじみ感じながらも、彼女がいる彼は私よりもどこか余裕のあるように思えたし、すぐに結婚していくようにも思えた。やはり高学歴はちゃんと順序よくことを進める。
 「キャップもいるやろ」予備校時代のあだ名をずっと引きずっているのはお互い様だが、このあだ 名が私は好きじゃなかった。
 「う~ん。韓国人ともう一回会えたら、結婚すると思う。会えへんけど。」
 「ん?何回あった事あるんやっけ。」
 「一回。」 彼の笑い声は、私も笑かしてくる。コロナの状況で会えないのは、彼も理解していたが1回しか あったことない人と結婚する気でいる私の行動は、未知だったようだ。
 「まあ、あと一回は会って考えや。」 ちょっと上から目線のアドバイスだが素直に「そうする」と答えた。

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