膝が痛いだけで孤独死寸前→入院→今日生還したITコンサルの怖い話(第4章:見えて来た情報断絶)

5月8日、膝の痛みとの闘いにより、自室で玉野五十鈴に助けを求める小栗純香のような状態(注1)になっていた俺は、なんとか試行錯誤の結果立ち上がり、救急車を呼び、日大病院へ辿り着いたのであった。その初日の様子は第3章の通りである。

一夜明け、そういえば、なんだかんだで食事取ってないな、と気付いた頃に、ビニール防護で身を固めた看護師が朝食を運んで来てくれた。パンと何か炒め物の簡素なものだった。

検温(37.1くらいだったか)、血圧(105-70くらい)、お通じ回数確認が朝のルーティンのようで、ザ・美人秘書みたいな看護師がまだ担当だった。個室にはユニットトイレとシャワーがあり、俺は早朝に、それはもう死ぬ思いでベッドから降り、点滴ハンガーにつかまりながら移動し小を一回済ませていた。

膝は、動かす角度を慎重に選んでゆっくり体勢を変えないと、弾みで吊ったような激痛が襲う状態で、昨日から改善は特に見られていなかった。
(これで痛み始めてから丸5日経つのに痛みが全く引かない、、、外科的な怪我だとすると、結構重症だし、何か亜脱臼のようなことが起きていたりして、、、しかしそうだとしても思いっきり屈伸できるような状態ではないからパキッと入れるとかは無理だな。)

俺   「やっぱりこの辺一体触ると痛くて、こういう風な角度で重さがかかると激痛で、、、あとなんか足首も腫れてきてて」
看護師 「そうなんですねー」

その日は、暇を見つけては(と言っても常に暇なのだが)とにかく一生懸命左膝の周りや太もも、ふくらはぎの付け根、と痛みのつながっているところを自分で丹念に揉みほぐし、膝の可動域を広げるようゴソゴソしていた。

昼に、点滴に「セファゾリンNa 1g」というものが追加された。生理食塩水100gで希釈したものを点滴で入れる様子だ。

「炎症を抑える薬です」

との説明だったので、これも早速ググってみると、細菌性の炎症もろもろに効くらしい。細菌性か、、、因果関係はよくわからんが、効いたら儲けもん、効かなくても悪化しないならいいや。


昼飯を済ませ、看護師さんが点滴バッグを交換している時に、たまたまクイズ番組の「アタック25」が放送されていた。母の日大会とかで、クイズマニアではない出場者を集めた日なのか、いつもの問題に比べるとすごく簡単な出題ばかりだった。
続け様に5問くらいテレビより早く回答して東大クイズ研OBのプライドを見せたところ、「ふーん、タダのホームレスじゃないのね」みたいな顔で、点滴落ちきったら針が刺さってる腕を防水するので今日中にシャワーを浴びてくれ、と言われた。

そういや4日からずっと、、、笑

しばらくすると、点滴のポッタンポッタンが止まっていた、が、袋にはまだ水が溜まっている。どうやらセファゾリンが早く落ちて、ソリューゲンがあまり圧力かかっていない設定になっていたようだ。さっそくナースコール。

30分ほどして、看護師が現れ、「ナースコールはモニターの方のボタンだと部屋で画面見てないとわからないので、握りボタンの方で呼んでくれ」とのこと、なるほどわかりましたすいません。

看護師 「あら、止まっちゃってますねー おかしいなあ」
俺   「点滴の管が下にぶらーんってなってるじゃないですか、これだと圧力あまりかからないと思いますよ、バッグをもっと高いとこにあげたら早くなると思います」
看護師 「そうかなあ」
俺   「科学的にそうです」

サイフォンでは位置エネルギーの不均衡、つまり、より高いところにある液の重量に比例して、ポッタンポッタン下部の吸い込み圧力が高まるのだ。

午後、ベテランらしき看護師が現れ、入院が伸びると思うので明日以降の病室の手続きをしたい、月曜から四人部屋に移動するかどうか決めてくれ、とのことだった。

正直、自室のトイレに行くのも大変で、大部屋に不安を覚えていた俺は、とりあえず月曜夜は個室でもう一泊しますと答えた。その後伸びるようであればまた考えますと。

そんなこんなで、9日(日曜)は、昼から新たに処方されたロキソニン錠剤の効果もあってか、なんとかシャワーを浴びることに成功し、夕食後、うつらうつらしながら「カラオケバトル U18歌うま甲子園」と「陸上オリンピックテスト大会」をザッピングしながら、やっぱ堀優衣が一番うまかったよなあレベル下がってんじゃね、とか、新谷と廣中の頂上対決かと思ったらこういう感じかー、とか時間を潰してそのまま眠りに落ちたのであった。

9日は、特に膝の痛みの原因や検査結果の分析について報告を受けることもなければ、吉高23%先生が顔を出すこともなかった。8日に夜中まで付き合ってくれたし、日曜は非番だったのかもしれない。しかし、4万円のホテル代払って実質テレビ見ただけかあ、と少し思っちゃったのも事実だ。

しかし個人の資産状況的には好材料もあった笑
2017年の仮想通貨バブル以前に買って、塩漬け(注2)しといた仮想通貨ポートフォリオのうち、ETH(イーサリウム)、BNB(バイナンスコイン)、など軒並み好調で資産価値がかなり上昇していたのだ。増えた含み資産額に比べたら4万円はゴミ程度であったので、まいっか、という優しい気持ちになっていた(ただし退院してからしっかり下がった笑)。

開けて10日(月曜)、さあようやくPCR結果が出て、平日モードの本格的対応してくれるのかな?と期待していた。

朝、検温と血圧測定にやってきた看護師に、俺はまた膝の痛みの状態と、どこをどのようにするとどう痛いか、を丁寧に説明した。その時、「入院診療計画書」というものを何も言わず渡され、「ここにサインしてください」とのことだった。

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「下肢蜂巣炎の疑い」。早速ググってみる。
なになに、「蜂窩織炎の別称で、皮膚の深部に細菌が入り込んで炎症を起こす。皮膚が赤く腫れて熱をおび、触ると痛みを伴う。」とな。なるほどそれで昨日からセファゾリンを投与されてたのね。

触ると痛い、血液検査で炎症系の数値が上がっている、などから一旦その方向性としたと想像はしたが、特に細菌を確認するための生理的検査を受けた記憶もないし、やはり判断の選択肢と根拠、可能性などをざっくばらんにでもいいので聞きたいなあ。と思った。
何か、自分の感覚では痛みの種類として皮膚というより筋肉靭帯系な気もしていたので。
とはいえ看護師がサインしろ、というので俺にはサインするしか選択肢がないわけであった。こちらはまな板の上の鯉である。

朝食後、吉高要素が23%程度感じられる女医先生が久しぶりにお出ましになった。今日は、小栗旬要素が38%程度感じられるイケメン医師が一緒だった。

小栗38% 「おはよう。具合はどうですか。なんか転んだんだって?」
俺     「(爽やかだなあ。口調もイケメンじゃん)いえ、転んではいなくて、5月4日の朝起きたら痛くて(繰り返しのため中略)
で、あのロキソニンが効いてる時は痛みが薄れるんですけど、やっぱりこの辺押したり、こう荷重がかかったりするとズキィィンってなるんですよね。今日になって、ふくらはぎの筋肉の付け根のここも押すとすごく痛くて。あとものすごく膝周辺とか足首の筋肉が張ってます。」
小栗38% 「どれどれ、、、」
 膝のあたりさわさわ。イダダダ、ズキィィン ×2。
小栗38% 「なんだこれ、わからんなあ。」
吉高23% 「でしょでしょ」

小栗38% 「よし、リハビリ!」
小栗38% 「あのさ、脚意識して屈伸したり頑張らないと動かなくなるよ。」
俺     「はあ、まあ自分で揉んだり伸ばしたりは頑張ってますけど、、」

その時、吉高23%の携帯が鳴った!
あれ、このオーケストラサウンドは、、、ベートーベンの交響曲第7番第一楽章の第一主題!
ひょっとしてこの吉高23%、クラオタ? 会話のとっかかりできた?

何度かベートーベンの着信音が響いた後、じゃ、リハビリ入れとくから、と言ってセンセイ軍団は去っていった。

その後、PCR検査の結果が出て、「陰性」だった。

ということは、この個室が隔離汚染地帯からクリーン地帯に昇格となることを意味し、また、俺自身が個室もしくは病院の外に出られる可能性も示唆していた。

そこで、結果を伝えにきたベテランらしき看護師に尋ねてみた。

俺   「陰性になったってことは外出てもいいんですよね。ちょっと日用品とかiPadとか取って来たいです。タクシーで往復して。」
看護師 「先生に聞かないとわかりませんけど、ダメだと思います」
俺   「どの辺がダメなんでしょう?」
看護師 「外出するとコロナにかかるかもしれないでしょ。また検査になります」
俺   「えーと、俺陰性って出たばかりだし、ちょっと外出して戻ってくるなら少なくとも、完全に外来の人と同等以下の危険性ですよね。そもそも俺がPCR受ける時に、熱があったからって聞きましたけど。」
看護師 「入院する人は全員PCR受けてもらってますから。」
俺   「そしたら、入院する人は怪我の手術とかで全く熱なくても全員PCR受けて個室になってるってことですか?」
看護師 「そうです」

聞いてた話と違うな。どうやらものすごく医者先生に面倒事でお伺い立てるのを嫌がっているように見える。

さっきのビックリするくらいのインフォームドコンセント(注3)のすっ飛ばしっぷりも、前から何度も何度も話した入院の経緯が共有されてないのもだが、これ、多分俺が一生懸命膝の症状を看護師に伝えても、医師には全く伝わってないな。

仕方がないので、とりあえず1階にあったナチュラルローソンで身だしなみ用品と水くらいは買って来たいと思い、

俺   「1階にコンビニありましたよね、買い物行ってきたいんですけど、この点滴外してもらうことできますか?」
看護師 「できません。皆さん付けたまま行ってます」
俺   「なるほど。後で行って来ます。行く時にお知らせする必要ありますか?」
看護師 「いえ、大丈夫です」

文章にするとやや険悪な雰囲気が感じられる気がするが、実際は全く穏当なトーンの会話であった。

ロキソニンが効いていることもあり、ゆっくりではあるが、ただ歩くだけなら1階のコンビニにたどり着けそうである。

点滴のハンガーを片手で押しながら、エレベータに乗り、一階で降りると、コンビニに行くためには、一般の外来受付ロビー(つまり病院の正面玄関前)を通る必要があることがわかった。入院用寝巻きで点滴刺したままハンガー押して一般受付エリアを通るのは結構奇異な光景だったと思うが、コンビニにたどり着き、髭剃り、シャンプー類、爪切りと水を買った。コンビニの店員さんもビックリしたような顔だった。

(これ、普通点滴刺して来るとこじゃないのでは)

と思いつつ部屋に戻り、髭を剃り水を飲んでいると、会社から電話があり、PCR陰性だったこと、ロキソニンが効いてればなんとか歩ける状態だが痛み自体が減っていないので復帰目処はもう少し様子を見て(ロキソニンドライブ開発するかなど軽口を叩き)、などとやりとりをして、点滴を見ると、終りかかっていたので、ナースコール。新たなソリューゲンに交換だ。

10日(月曜)も夕刻、そうか、そういえば、今日からMリーグ(麻雀のプロリーグ、チーム対抗で年間通して優勝賞金5000万を争う)のファイナル始まるな。と思い出した。

Youtubeもログインできることだし、ドリブンズのクラブハウス配信と同時に鑑賞するとするか。
(続く)


注1
米澤穂信 連作短編集「儚き羊たちの祝宴」収録の「玉野五十鈴の誉れ」より。独特の雰囲気を持ったラストのキレもある傑作短編。

注2
日本の税制では、仮想通貨(正確には暗号通貨であろうが)の売り買いで出した差益(キャピタルゲイン)は、仮想通貨同士の取引であっても精算(計上)され、利益額は所得税の「雑所得」として、損益通算できない形で乗っかってくる。
例を挙げると、2020年に手持ちのビットコイン価格が上がって1000万から2000万になり、その瞬間にビットコイン を売ってリップルに乗り換えたとしよう。で、そのリップルが2021年に2000万円から1500万円になっちゃったとする。
普通に考えたら500万円の利益が出てるわけだが、所得税がかかると以下の様になる。
2020年の1000万円の儲けと、例えば元々の所得が800万円だとして、総所得が1800万になるので、所得税率40%の720万円が税金で持っていかれる。仮想通貨の儲けがなければ所得税は800万の23%で184万円だ。仮想通貨のせいで536万円余計に払うことになる。
で、翌年前年儲けた分の半分の500万円損したとして、結局税金を払うために下がったリップルを売って円貨換算したら、あら不思議、500万円勝ったはずが元々持ってた資産より余裕で減ってるのだ。

というわけで、俺は基本、仮想通貨は売らずに持っておいて超長期的な上昇に賭けるための資産でしかあり得ないと思っている。前回2017年のバブルでは日本の投機的な個人資金が流入し、ブームの様な形で高騰し当然の如く価値が収斂したが、今回はアメリカを始めとした流通手段としての浸透、取引所の上場、金融資産として運用機関がポートフォリオへの組み込みを検討するなど、認知と実需ベースでのパイの広がりが背景にあり、何より今回は権力を持つお金持ちが乗り遅れていないので、純粋にブロックチェーン技術の価値ベースで5年スパンで評価が高まると巨視的に考えている。

で、海外取引所に分散投資してる俺は、ポートフォリオ管理にcryptocompare のポートフォリオ機能を活用している。これを入院中暇があれば眺めていたが、どうやら膝の痛みと共に価格が上昇し、痛みが解消して退院するとともに下落するという相関関係にあった様だ笑。まさに禍福は糾える縄の如しだ。

注3
それなりに評判の良い歯医者に行くと、レントゲンを見せながら、この歯がこういう状態で、処置の選択肢がA,B,Cあってそれぞれのメリットデメリットがこうで、と懇切丁寧に説明してくれた上で、コスト含めた総合的判断を患者側に求めてくるのが一般的だ。
事実としての症状と、専門家としての知見と選択肢の説明があって初めて自分の体をどう処するのかを決定したいと思うのは、贅沢だろうか?

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有料にしてるのは、個人的に尊厳が問われたりしそうな恥ずかしいとこは誰が読んだか知っときたい、くらいの軽い気持ちですんで、そのうち全部無料公開にする気がします。

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