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【随筆】真夜中の股旅物

旅笠道中と次郎長三国志

寝不足なのか、胃が痛い。と、いうのも、昨夜、23時45分にかかってきた、林家たけ平からの電話は、じゃ兄さん寝るから、と、3時5分前にようやく切れた。

さしたる内容ではなく、来月の会の話が15分。あとは、いまの落語界のこと、むかしの落語界のこと、2001年、02年を中心とした楽屋でのあれこれといった、わたしたちの青春時代のことだ。

お互いに東京生まれで、子どものころから寄席演芸に触れていたので、はなしが早い。

それから、共通点といえば、歌謡曲好き。
わたしのは好きなだけだが、彼は好きに加えて知識がある。

藝人の有様みたいなはなしから、東海林太郎の『旅笠道中』のはなしになって。と、いうのも、この『旅笠道中』の三番は、ことあるごとに口遊むわたしの愛唱歌のひとつなのだ。この歌には、なにか、こう、わたしのおもう藝人の哀しさみたいなものがある。

亭主持つなら 堅気をお持ち
とかくやくざは 苦労の種よ
恋も人情も 旅の空

1番から3番まで聞くときも、だいたい3番が聞きたいがために聞いているのだが、昨日も聞きながら、これ3番、2番の順でもいいんだよな、と思い、そのままたけ平に言ってみると、そうそう、そうなんですよ。と、電話の向こうで歌い出した。時刻は、夜中の1時をとうに過ぎている。

風が変われば 俺等も変わる
仁義双六 丁半賭けて
渡るやくざの たよりなさ

そんな他愛もないはなしをー場合によってはくだらないはなしーして、寝て、起きて、きのうからしらべものをしていた、『次郎長三国志』をパラパラと斜め読みして、きのうの続きを。どうしても確かめたい箇所があったのだ。

なにか、こう、股旅物、長ドス物がついている。

で、きのうみつからなかった箇所が、すんなりみつかるから不思議だ。きのうは、久しぶりに手にとったので、探してある箇所があるはずもない、冒頭から「やっぱりおもしれぇな」と読み始めてしまったのも、みつからない原因だったが。

言わずと知れた、次郎長一家の活劇譚。
この「言わずと知れた」も、だいぶ通じない時代ですよ。とも、たけ平とはなした。

『次郎長三国志』のなにがいいかといえば、敵味方双方の登場人物の描き方、なにより、こんな言い方はバカっぽく聞こえるが、背景にあるだろう、駿河の海に、三保の松原、富士山といった、絵もいいのだ。

『旅笠道中』の三番じゃないが、作中、桶屋の鬼吉と関東綱五郎のふたりが惚れた、料理屋の娘が嫁入りする場面がある。嫁入りの際は、威勢よく、嫁入りの駕籠をかつぐとは言ったものの、酒が入ったところへ、駕籠は大層なもので、清水一家の名前の手前、アゴをあげるわけにもいかず…。

ようようついた嫁入り先で、振り返ることなく人混みに消え入りそうになる花嫁にむけ、関東綱五郎が、なかばやけになって歌うのだ。

めでためでたの若松さまよ
枝もさかえる、葉もしげる

藝人も渡世人も、不器用な人間が多い。
わたしもたけ平も、不器用な人間が好きなのだ。

書くことは、落語を演るのと同じように好きです。 高座ではおなししないようなおはなしを、したいとおもいます。もし、よろしければ、よろしくお願いします。 2000円以上サポートいただいた方には、ささやかながら、手ぬぐいをお礼にお送りいたします。ご住所を教えていただければと思います。