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【落語歳時記 5】火事息子

   冬が好きだから、というわけではないだろうが、冬の噺には好きな噺が多い。夏の賑やかな噺や怪談噺、春のまさに春風駘蕩を感じる噺、しっとりとした秋の噺、それぞれに良さはあるのだが、冬の噺は名作揃いだ。
   落語の世界で冬の噺というと、まず火事。つづいて掛取ー借金取りーに追われる、暮れの噺。それから、雪かな。そんなところだろうか。
   そんな、冬の噺で必ず季節に一回は掛けてるのが『火事息子』という噺。自分の演る噺のなかでも、特に好きな噺だ。

三代目桂三木助の火事息子

   先の師匠の実父である、三代目師匠の得意ネタでもある。とある大きな質屋ー噺では、江戸で五指に入ると言っているー質屋の若旦那が、火事が好きで、火消しが好きで、とうとう勘当されてまでも臥煙がえんになるという噺。

がえ-ん【臥煙】江戸時代、役屋敷に寝とまりした火消し。からだにいれずみを施し、勇ましい気風をもっていたが、乱暴なふるまいも多かった。(日本国語大辞典)

   とくに三代目師匠の演出は、キザなのだ。導入部のキザさったらない。粋も過ぎれば……とは、言うが、そんなことは百も承知で、でも、演らざるを得ないというのが、藝人の性でもあり、また、それぞれの長所でも短所でもあるはずだ。

   わたしはこの噺は入船亭扇橋師匠からで、三木助噺は、三代目師匠の一門の師匠ならは、かなりの数を稽古をつけていただいた。楽屋から帰ると、田端の師匠宅によくいらしていた。おかみさんに電話もよくあったけな。とにかく、扇橋師匠の稽古は、あっちこっちに話が赴く分、いろんなことを教わった。なかでも、彦六の正蔵師匠の話はよくでてきた。

   さて、『火事息子』に話を戻すと、この噺には、藝人の世界に身を投じた人間なら、誰もが共感する場所が、かなり多いはずだ。その分、多くの台詞が自分自身に響いてくる。

   冬の噺は、そう、身に沁みるのだ。

書くことは、落語を演るのと同じように好きです。 高座ではおなししないようなおはなしを、したいとおもいます。もし、よろしければ、よろしくお願いします。 2000円以上サポートいただいた方には、ささやかながら、手ぬぐいをお礼にお送りいたします。ご住所を教えていただければと思います。