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【食】今夜もママに会いに行く/都橋 華

3月某日

真新しく、シンプルになった看板を見ながら、これは【食】なのか【酒】なのか【時】なのか迷うが、多分【食】以外でくくるなら、それは【人】だと思う。だって、『華』に行くとき、それはママに会いに行くときだから。

ずらっと大岡川に面した扉を、眺めているだけでたのしくなる。この、入りにくい、開けにくいだろうドアをはじめて開けたのはいつのことだっただろうか。ずっと前のことのようにも思えるし、つい最近のことのようでもある。

ただ、つかれたなって時も、ここの扉を開けて、ママの前に座って他愛もない話をしているうちに、世の中のどうでもいいことなんて、すっかり忘れている。

さいしょから、紹興酒で。
いつも、瓶1/3ぐらいは残っている。

かいたばかりの氷に、レモンスライス。
なにを頼もうか、とそのまえに、今夜のお通しはなんであろうか、まず、そこからがたのしみ。

すっきりした紹興酒のロックに、甘さがやさしい香腸がいい。いつだったか、いつもだったらスライスで出てくる香腸を「司さん、腸詰大きく切って食べてみる?」って訊かれて、じゃ、そうしようかなーって食べた香腸も美味かった。へぇ、切り方違うだけで、こんなに違うなんてね、って。それから3度に1度ぐらいかな、きょう大きく切って。と。

だいたい、ママの言う「司さん〜食べない?」「〜あるけど」に逆らわないほうがいい。間違いなく美味しいから。

そのうちに、むこうの席から餃子のオーダーが。言わずもがな、手づくりの餃子で、まだお客さんがつっかけない早い時間に、餃子を仕込むママとおしゃべりしているのもたのしい時間。

ひと夜のカウンターの朋のオーダーを、みんなさぐっていたかのように、乗り遅れまいと、こっちも、こっちも、と。「なににするの?みんなで決めて」蒸しか、水か、焼きかってこと。日本人らしく譲り合って、水。

まず、たっぷりの葱と香菜。酢と醤油。

みんな大好き、ママの餃子。
饂飩もうまいし、麺もいいんだ、華は。

今ごろ、都橋商店街の前、大岡川は花筏が見頃だろうか。葉桜になったころ、また、行こう。ママに会いに。



神奈川県横浜市
中区宮川町1-1
都橋商店街 2階

書くことは、落語を演るのと同じように好きです。 高座ではおなししないようなおはなしを、したいとおもいます。もし、よろしければ、よろしくお願いします。 2000円以上サポートいただいた方には、ささやかながら、手ぬぐいをお礼にお送りいたします。ご住所を教えていただければと思います。