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介護保険物語 第5回

こんにちは!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

今回もやってまいりました、「介護保険物語」。
早くも(ということもありませんが)第5回です。
今回もその内容の濃さには折り紙をつけて差し上げます。

さあ、まいりましょう!

■平成17年度介護保険制度改正

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藤田 今日もよろしくお願いします。

森藤部長(以下敬称略) よろしくお願いします。

藤田 ええ、今回も前回に引き続きまして、H17年度改正のお話です。今回の改正内容は主に5項目あるのですが、その中から前回取り上げていただいたのが、「ユニットケアの推進」(項目「サービスの質の確保・向上」の中の1項目)と「主任ケアマネジャーの創設」(同じく)でした。

で、森藤部長が今回取り上げられたのが、「施設給付の見直し」(項目「施設給付の見直し」の中の1項目)と「介護サービス情報の公表制度」(項目「サービスの質の確保・向上」の中の1項目)という(笑)。実に渋いというか(笑)、通好みというか(笑)、なんというかわからないぐらい素晴らしいな、と思います(笑)。

この中だとわたしなんかだと、やっぱり「地域包括支援センターの創設(項目「新なサービス体系の確立」の中の1項目)とか、「新予防給付の創設」(項目「予防重視型システムへの転換」の中の1項目)とかに目が行きそうなんですが(笑)。

森藤 わたし、あれにはあんまり興味がないので(笑)。

藤田 そうですかあ(笑)。

森藤 いやね、介護予防に関して言えば、いろいろ施策があってそれをそれぞれが推進していけばいいのかな、とりあえず「生き死に」に係るほどの問題ではないように思います。しかし、重度の要介護状態の人のケアについて言えば地域(在宅)での支援ももちろん重要なことだとは思いますが、それでは重度要介護状態の高齢者の一部にしかケアが行き渡らないのではないですか。重度要介護者の大部分のケアを考えたら、やはり、施設介護に頼らざるをえないのではないかと思います。そういった意味で「あんまり興味がない」ということなのです。

それに、制度そのものに踏み込んで話をし始めると、膨大で、とりとめもなくなるというか(笑)。そうじゃなくて、「介護保険物語」ということですから、そうした中からピックアップしてつまみ食い的に、介護事業で働く人と世間一般の人が、介護に関してどんな風に見方が変わっていってきたのか、変わっていくのか、というところを見つめていきたいな、と。

藤田 いやあ。ホントに。森藤部長のお好み次第でよろしいかと思います(笑)。
ということで早速、今回のお話に入っていけたらと思います。

今回は先ほども申しました、「施設給付の見直し」と「介護サービス情報の公表制度」という2点についてお話を伺うということになりますが、これを森藤部長は、「選ぶ側と選ばれる側の意識の変化」ということで捉えられています。

この捉え方もまた、堂に入ったといいますか(笑)、素晴らしいなと思います。

■施設給付の見直し

森藤 まず概論から述べますと、今回の改正は、介護保険が始まって最初のメジャー改正という位置づけができると思います。

それまでの介護は「要介護状態の人を介護する」ということに主眼がおかれていたわけですが、ここに「介護状態にならないよう予防する」という予防重視の視点が導入されることになりました。

具体的には、「予防給付」が見直されたり、「地域包括支援センター」という新しい制度・組織が創設されたり、「地域密着型サービス」、「小規模多機能型居宅介護」、「夜間対応型訪問介護」、「認知症対応型通所介護」、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」などなど、これまで措置制度の福祉政策下では見られなかった斬新な制度・組織が次々に創設された改正年であったわけです。

藤田 ホントですね。こうして見てみると、予防という方向性や、今あるサービスのほとんどがこのときに創られたことがわかりますね。

森藤 そうなんですね。これだけでも介護保険が介護業界に大きな変革をもたらしているということが、形として見える気がします。

でも、そんな中であまり目立たないんですが、福祉を利用する側の人々の意識を大きく変えさせた、と私が考えている介護保険法改正の一つに触れておきたいんですね。

藤田 お、いよいよきました。

森藤 それはですね、「施設給付の見直し」として実施された「食費、居住費を介護保険の対象外とする」というものです。

藤田 対象外とするっていうことは、つまり、食費や居住費は自己負担になる、ということですね?

森藤 そういうことです。

何度も振り返りますが(笑)、措置制度の頃を考えてみると、たとえば特養に入居するのに介護の費用はもちろん食費、居住費などを「自己負担する」なんていう発想は全くなかったわけです。

だってそうでしょう?特養というところは自分から進んで入るようなところじゃなくて、家族や行政などから、半ば強制的に措置入所させられるところなわけでしょ?

だから食費、居住費なんか自分から支払うわけない。

入居している高齢者の気持ちとしては、本当は特養になんか入りたくない。でも家で一人じゃ生活できないし、家族にも大きな迷惑をかけてしまう。だから特養に入れてもらってお世話を受けるしか生きていく術がない。本当に申し訳ないことだ、と思っている人がたくさんいたわけです。

藤田 なるほど。

森藤 だからでしょう、職員の顔をみるたびに「すみません、すみません」と手をすり合わせて詫びを入れているようなお年寄りが本当に何人もおられました。

藤田 はああ。

森藤 家族は家族で、とにかくうちの親を何とかしなくてはならない、と思ってて、それで、やっと特養に入れた、だから介護がどうの、サービスの質がどうの、そんな小うるさいことは言いませんので、とにかくよろしくお願いしますと言いながら、そそくさと帰っていく。

藤田 はあはあ。

森藤 帰ったら、その後ほとんど面会にも来ない。実を言うと二度と来ない、などというケースもよくありましたよ。

藤田 はああああ。そうですか。

森藤 そこで介護保険が始まると、以前と違って介護保険料は取られるようになったし、利用する側が施設を選べるということにはなりましたが、それでも施設のお世話になっているという心情的な感覚は、あまり変わってはいなかったように思いますね。

藤田 そうでしょうねえ。

■選ぶ側の意識が変化する

森藤 ところがこの度の改正で、食費、居住費を自己負担するということになったわけです。

そうなるとですよ、例えば補足給付(収入の少ない入居者については食費、居住費の自己負担部分の相当部分を国が援助する制度)の対象にならない収入の多い人にとっては、サンシャインでいえば、食費が月額48,000円、居住費が月額98,100円なわけで、この値段はもう、ワンルームマンション借りて自炊して暮らしてるぐらいの金額じゃないですか?

藤田 ホントだ、ホントだ。高いですねえ。

森藤 高いって言っても、こんなものですよ。

藤田 そりゃそうかもしれませんが。これがそれまでは、改正される前は、1割負担だったわけですね?

森藤 いやいや。介護サービスは1割負担ですが、食費・居住費は只でした。

藤田 え?そうだったんですか?只だった?それが、じゃあ、いきなり全額自己負担になったという?

森藤 そういうことです。

藤田 はああ。そりゃ、またすごい事になったんですねえ。なんでまたそういうことになったんでしょうか?

森藤 だからそれは、そこまで払ってたら介護保険がパンクする、っていうのが本音だったんでしょうけど、建前としては、在宅で生活してる人は、自分で食費を払ってるし、居住費も払ってるわけでしょ?なのに施設に入るとその部分も介護保険で払う、となったら不公平じゃないか?という理屈です。

藤田 はあはあ。そうかー。そうしますとあれですか、国としては随分財政的に助かった感じになったわけですか?

森藤 そうでしょうねえ。そう思いますよ。

藤田 はああ。そうするとこの部分って財政的には大きな改正だったんですねえ。

森藤 まあ、全員が48,000円、98,100円を払うわけじゃなくて、給付の部分もあるので、これが全額浮くというわけじゃないですけど、それでもうちではそういう方が20人ぐらいおられるから、計算すると、ほら、年間だと3000万円ぐらい浮く計算にはなりますね。まあユニットケアでの計算ですけどね。

藤田 ホントだ。それに施設の数を掛けると、かなりの額が浮くという計算にはなりますね。

そういう面ではこの改正には財政的な意味が大きいという感じもあるんですが、森藤部長としてはそうじゃないところに目を向けてみたわけですね?

森藤 そうです、そうです。そうでした。

で、つまりは自腹を切る、となりますとね、分かりやすく言うと、入る人に、当事者意識が芽生えるんですね。

藤田 はあー、なるほど。自分のお腹だけに(笑)。

森藤 そうです(笑)。そうなると、家族としては、しっかりお金を出してこちらから施設を選んで入居しているんだぞ、だからしっかりサービス(介護)してくださいよ、というお客様としての意識がしっかり芽生えてくるわけですよ。

例えば最近はこんなことを言う家族もときどきいるんですよ。うちの施設はユニットケアの施設なので、全て個室になっているわけですが、家族の中には、その個室を賃借していて自分の部屋であるかのような感覚をもっているんですね。だから、介護の事情で居室を変えようとするとちょっとクレームがきたりするんですよ。いえいえ部屋を借りているわけではなくて、施設に入所しているんですよ、と言っても、「はあー?」と首を傾げていたりしてね。

藤田 そうかそうかー。

森藤 つまりこの改正で、受け身的利用から能動的利用へと人々の意識が変わったのだ、と言えると思いますよ。もう今では特養を姥捨て山などと思う人はほとんどいなくなったんではないでしょうかね。

と同時に、もうひとつ変わったなあ、と思うことがあるんです。

藤田 ほう?なんでしょうか?

森藤 今施設に入ってるお年寄りは70代以上だと思いますけど、こういう年代の人は、おそらく自分が特養とか老人ホームとかにいずれ入るだろうとは、思ってなかったと思うんですよ。

藤田 うん、うん。

森藤 40歳になってずっと介護保険料を払ってきましたという経験のない人がほとんどでしょ?そんなことはほとんど考えずに歳をとってきた。それなのにそこにある日突然、家族から、施設に入らないかと言われたとしたら、きっとショックを受けたんじゃないかな、と思うんですね。

それが今までだった。

でも介護保険が始まってもう20年、いろんな情報が耳に入ってくるようになって、今60歳ぐらいの人は、介護保険料もしっかり払ってきているわけで、老後の過ごし方として、特養とか老人ホームに入って暮らすという選択肢を現実のものとして考えている人もずいぶん増えたんじゃないでしょうか。

むしろ入れるだろうかと心配したりしている(笑)。

そういう心の準備があって施設に入るのと、現在の入居者様のように、そんな心の準備がなにもなくて入るのとでは、その後の施設での生活に大きな違いが出てくるんじゃないか、と思うんですね。

藤田 なるほど。自分の人生の中に、老後は施設で暮らすという選択肢が正式に入ってきたのが、介護保険が始まって自分の親を施設に入れてきた世代から、というわけですね。なんか皮肉ですね(笑)。

自分の親たちと違って、そういった人たちは、入る意識が前もってある分、入ってからの気持ちも違うだろう、と。

森藤 そうですね。

それだけ介護保険がオープンなものになってきてる、ということだと思います。

そういえば、つい20数年ほど前は、デイサービスの迎えの車が自分の家の前に止まるのが嫌だからデイサービスを利用しない、とか、訪問介護でヘルパーが自分の家に入っているのを隣近所に知られたくないから、などと言って利用を渋る人もときどきおられものです。

今でもそういうケースはあるかもしれませんが、最近は町中をデイサービスの看板をつけた送迎車があちこち走り回っていて、それが自然に思えるようになってきていますよね。保育園や幼稚園の送迎車両よりよほどたくさん走っています(笑)。

■介護サービス情報の公表

藤田 続いてもうひとつ、森藤部長が取り上げられたのが「介護サービス情報の公表」ということです。
そう言えば、ちょうど今日、デイサービスで情報公開の作業、やってましたね(笑)。

森藤 そうそう。でも今はね、昔と違ってシステムがきちんとなって、やりやすくなったね。

藤田 ほうほう。

森藤 始まった頃はね、もう、ドバーッと書類がきてね、やれあの書類はあるか、この書類はあるか、ガーッと総髪立ててやる感じで、もう大変でしたよ。

藤田 あれー?その頃はネットに書き込むんじゃなかったんですか?

森藤 いやー、ネットじゃなかったね。最初の頃は。

今は書き込む項目がちゃんと整理されてるんですよ。でもその頃はあっちにこれ、こっちにあれ、で、とにかく扱いにくいものでしたよ。

ネットに書き込むようになったのはね、3回目ぐらいからじゃなかったかなあ。

藤田 ということは2009年頃からでしょうか?

森藤 覚えてないけどね(笑)。今は前年のデータが残ってて、それを変えるだけでいいけど、最初の頃はネットでも全部最初から入れなきゃいけなかったんですよ。

最初の頃はねそんなに大変だったので、書類のセットCDが売られてましてね(笑)、情報の項目を証明するための書類の一式が入ってまして(笑)。それにちゃちゃっと書き込んでおけば、もう準備完了という、そんなものまで発売されていましたよ(笑)。

藤田 へえー。そんなものがあったんですね(笑)。

森藤 話は戻りますよ(笑)。

じゃあなぜ「介護サービス情報の公表」が制度化されたか、と言いますと、措置制度の時代は、介護サービスは行政から与えられるものということで、自分のいる自治体にある施設にしか入れなかったわけです。たとえその施設がどんなに評判の悪い施設で、その中で何が行われているかまったくわからないようなところでも断ることはできなかったんですよ。

逆に自分の家のすぐ近くにとても評判の良い施設があっても、それが隣の自治体の施設だったら、どんなに頼んでもそこに入ることはできなかった。

それが介護保険が始まると、日本全国どこの特養にでも入居の申し込みをすることができるようになったわけです。じゃあどこの施設に入ればいいのか?それをサービスを受ける側が選ばなきゃいけなくなった。

このことがそもそもの始まりですね。

前にも述べましたが、今でこそほとんどの施設がホームページを持っていますが、この「介護サービス情報の公表制度」が始まった平成18年頃は、こと特養に限って言えば、ホームページを持っていない施設の方が多かったのではないでしょうかね。なので、施設利用を考えている一般の人々が施設のことを知る手段というのがかなり限られていたんです。

そもそもその頃の特養などは、入居希望者が数百人いて、今申し込んでも後何年も待たなければならない状況だったわけで、そうなると、どんな施設でもいいからとにかくうちの親を預かってくれる施設を見つけなければ、というのが家族の本音だったわけです。

だから、施設の方から敢えてホームページなどで施設の紹介や宣伝を行う必要など全くなかったんですね。それに、ホームページを開設するのにも結構費用もかかるし、その後のメンテや更新も大変な手間ですからね。

そんなこんなで、国としては全国の施設のサービス状況を一般の人々に開示することで施設の選択に役立ててもらおうとしたわけです。

そこで、そのために始まったのが、「介護サービス情報の公表制度」ということになるわけです。

でもまあ、実は誰も見ていない(笑)。

藤田 そうですよね(笑)。大体どこにいけば見られるのか、まったくわからない(笑)。

森藤 ですから、こうして始まった「介護サービス情報の公表制度」でしたが、当初の目的(利用者が施設の選択に利用する)が達成できたのかというと実はほとんど役には立っていない(笑)、という関係諸機関の調査が発表されたりしています。

■選ばれる側の意識の変化

森藤 じつはこの「介護サービス情報の公表制度」の当初の目的にはもうひとつありまして、私なんかも最初の目的である、「利用者が施設の選択に利用する」、という部分は良く耳にしていたんですが、もう一つの目的「介護サービス事業所のサービス改善の取り組みの促進」という部分にはあまり意識を向けていませんでしたねえ。

分かりやすく言うと、サービス情報を公表するっていうことになって、いい加減なことはできなくなったっていうことです。

藤田 なるほど。そういう狙いも当初からあったんですねえ。そう聞くと、やっぱりお上の考えることはすごいなと(笑)。

森藤 ええ。例を出しますとね、「身体拘束の排除」のために、これこれこういう書類はありますか?という質問項目があるわけです。それに「ある」と書き込むためには、実際その書類を作らなきゃいけないわけでしょ?それまではそんな書類、作ろうと考えもしていなかったのに、「ない」とはなんとなく書きたくない。なら、作ろうか、とこうなるわけです。

こういう項目が百数十項目に渡って延々とあるわけで、それに対して「ある」という回答をしたければ、それなりにきちんとした実践と記録管理の必要性が実感されて、これらを組織全体でやるようになるわけです。

そうするとですよ、昔の特養によく見られた「どんぶり勘定的運営」から近代的な「組織的マネジメント手法」へと、事業者側の意識が少しずつ変わっていくわけですよ。

今ではインターネットで検索するとそれぞれの特養がホームページを持っていて、うちはこんなに素晴らしい施設ですよ、と宣伝に力を入れているわけでしょ。入居希望者はその中から、ここがよさそうだ、という施設を選んで申し込むことができるわけで。

そうなってくると、宣伝する施設の方もいい加減な施設の状態をさらすわけにはいかないので、表面を取り繕ってでも(笑)、見栄えのいい施設として紹介するわけでして。

そうしていると、実際入居希望者はそれを見て申し込みにくるわけなので、ついには本当に良い施設を造らざるを得ないということで、めでたし、めでたしということになるわけです。

藤田 ははあ。なるほど。市場原理がうまく働き始める、というわけですね。

森藤 いや、本当にインターネットの力はすごいですね。

藤田 根っこは「情報共有」の効果なんでしょうけど、それを可能にしている技術としてのネットのすごさは確かに日々感じるところですね(笑)。

ということで、第1回目の改正の展望というか振り返りをお題に、2回にわたってお話をお聞きすることができました。

やっぱり思いもよらず、面白いものになったと思っています。次回がまた楽しみです。よろしくお願いします。

今日はありがとうございました。

森藤 ありがとうございました。

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