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聖地というテーマパーク(70/100回)

今日は聖地に行ってきた。

といってもアニメの舞台の方では無く、隣の市にある修験道の行場だ。
犬鳴山(いぬなきさん)という山全体が真言宗の修行場になっており、滝行や山修行が行われている。

滝に打たれて精神を鍛えたかったわけでは無く、以前ものづくりをしている先輩が、「仕事に疲れたら自然の中を歩いたら良いよ」とアドバイスしてくれていたのを思い出したので、急遽山歩きに行ってみた。


家から車で30分ほど走ると大阪と和歌山の県境にある峠道に入る。
峠を進み、集落を抜けると温泉旅館が立ち並ぶエリアがある。
温泉街の脇にある駐車場に車を停め、優しそうなおばあちゃんに駐車料金を支払う。

「いってらっしゃーい」と満面の笑みで送り出してくれる。


温泉街を抜けると川が見え、残り少なくなった夏を楽しむバーベキュー客がちらほら。
「冷たい!」と叫びながら川に潜る子供もいて賑やかだ。

ちなみに「犬鳴山」という名前は命を捨てて主人を守った、忠犬の伝説にちなんでいるらしい。

そのせいなのかは分からないけど、冗談のように犬連れ多い。
途中の岩場で飼い主同士が立ち話をしていて「先の道が険しいから、小型犬にはしんどいかも」といった情報交換をしている。

ほとんどドッグランで見る光景だ。

行者道に沢山の犬がうろうろしている光景は少し奇妙だけど、犬にとっては刺激的で楽しい散歩コースに違いない。
文字通り山でたくさんの犬が鳴いていたのが可笑しかった。

参道といっても岩がゴツゴツした急な斜面を登っていくので、運動不足の体にはちょうど良い。
みっちりと生い茂った原生林の傍を川が流れている。
進むごとに滝や橋が現れて全然飽きない。
山にまつわる伝説を記した看板なんかもあり、まるでテーマパークのようだ。

駐車場のおばあちゃんはキャストに思えてくる。

20分ほど歩き少し汗ばんできたところで、山門が見えてくる。
この先は修行場になるから、川遊びやバーベキューは禁止だそうだ。

山門を抜けるとさすがに静粛な雰囲気に変わる。
ここまでくるとさすがに犬連れの姿は見えない。
急な階段を登った先には「この先聖地につきペット禁止」の注意書きもある。


寺の敷地に入り大きな不動明王の下で休憩をしていると、沢山のアブと蚊にたかられる。
明王さんの目の前で殺生をするとバチが当たりそうなので、そばにあった大きな釣鐘をゴーンと付いて、そそくさと退散。

滞在時間はわずかだけど、修験道の資料館もあり思いのほか楽しめた。

登りと違って帰りは良いテンポよく下っていく。
夕方になり人の姿もあまり無い。
転ばないように注意して下っていくと滝壺で浮かぶ男性の姿が見えた。
河岸には脱いだジーンズやTシャツの上に財布とスマホが置かれている。
一瞬不穏な想像をしたけど、気落ち良さそうにニコニコしていたのでホッとする。
びっくりしたけど、蒸し暑かったので気持ちはわかる。

山の水は冷たい。
多分滝修行は過酷なものなのだろうと想像する。

以前、麓の温泉に浸かっていた時、僧侶らしい剃髪で2人連れの男性が入ってきて、湯船に浸かりながら「今日の滝は冷たかった。死ぬところだった」と話していた。
鍛えていてもやっぱり冷たいんだと妙に納得したのを思い出す。


麓に降りてくるとまた別のおばあちゃんが話しかけてくれる。

「初詣にくる方も多いんですよ」

と教えてくれる。
この行場の雰囲気の中、寒さに身を震わしながら詣でるのも良いものだなと思う。

気がつけば次にくる時のことを考えていた。
駐車場から車を出す際に、おばあちゃんが笑顔で手を振ってくれた。


麓の温泉に癒され、夏は川遊びとバーベキュー。
滝行もできるし真言密教にも触れられる。
おばあちゃんは優しいし、自然も綺麗。


短い時間だったけど、田舎のテーマパークに来たような気持ちになった。

ただの修験道の行場ではなく、地元の人が大切に守り、訪れる人をもてなす。
剛も柔もあり、人も犬も楽しめる。

車の中で汗でびっしょりになったTシャツを脱ぐ。
川に足をつけなかったことを後悔しながら帰路につく。

楽しい1日を過ごすことができた。
また仕事に疲れたら歩きに来ようと思う。

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