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私のコロナ禍を支え続けた3曲

神様は私がその時必要としている人は巡り合わせてくれるが、それが誰なのかは自分で気づかないといけない

私が高校以来持ち続けている人生哲学の一つだ。

これは学生時代読んだ「アルケミスト」という本を読んだ感想から持ち合わせている信念であるが、ご存知だろうか。羊飼いの少年が宝探しに出るという世界中でベストセラーになった物語だ。

羊飼いの少年は、老人に大いなる声を聞け、と諭され、自分の夢である宝探しに出かける。そしてそこでたくさんの人に出会う。随分前に読んだ話で詳細の記憶はおぼろげなので、実際に本がそう言うことを伝える意図があったのかの議論が置いておくが、物語を読み終えると、少年が宝を見つけるまでに出会う人々には全て必然性があったように感じたのだ。

出会った時はわからない。けれども、時間が経って振り返ってみると、やはり全ての出逢いにはそれなりに意味があったように思えたのが当時高校生だった私の感想だ。以来、上述の人生哲学を持ち続けている。

2020年2月、私がyoutubeのオススメから出会ったのは、今世界を席巻しているボーイズグループ、BTSだった。

ニューヨークのグランドセントラルでパフォーマンスするなんてすごい、とサブスクリプションで彼らの音楽を聴くようになった矢先、世界各地で立てて続きにロックダウンやステイホームが始まり、移動に制限がかかり、人とも簡単に会えなくなってしまった。

軽い気持ちで聴き始めた音楽が、結果としてこのパンデミックにおける大きな支えになるとは、最初のyoutubeのビデオを見た時は思ってもいなかった。オススメに出てきたのは神様の意図したものだったのだろうか。

パンデミックにおいて特に効き目のあった私の処方薬は次の3曲だ。

1. Paradise   〜夢がなくても大丈夫と励ましてくれる歌〜

「夢はきっと叶う」「夢に向かって頑張ろう」

こんな風に夢を応援してくれる歌はたくさんある。

でも、学生の頃を振り返ってみて、そもそも夢とか自分のやりたいことがはっきりしている人間ってどれほどいたのだろう。

Paradiseという歌のサビで彼らはこう歌う。

止まっても大丈夫
理由も分からないまま走る必要はないんだ
夢がなくても大丈夫
少し幸せと感じる瞬間があるのなら

歌詞全体を見ると、元々は受験生や就活生など、進路の決断を迫られているけれど、自分が何をしたい人間なのか、わからないままにただガムシャラに進み続けている人たちに向けられた歌なのだと思う。

が、私は本来歌が書かれた経緯とは違う理由で聞いていた。

実は、移動制限によって希望していた転勤が無期限延期になってしまった。

コロナによって夢がなくなってしまったのである。

でも、私のようにコロナによって予定が狂ってしまった人はたくさんいたと思う。

季節はどこも新年度を迎えようとしていたタイミング。夢のキャンパスライフを始めるはずだったのにオンライン授業になってしまった人、留学をキャンセルせざるを得なかった人。逆に、留学先などから予定を早めて帰らざるを得なかったケースなどもあるかもしれない。

あるいは結婚式がいつできるか分からなくなってしまった人。卒業旅行や新婚旅行がなくなってしまった人。

止まっても大丈夫。夢がなくても大丈夫。

どこも行けなくて、近所をウォーキングしていたら見つけた精肉屋さんの揚げたての130円のハムカツが美味しかった。それで大丈夫。少しでも幸せを感じる瞬間があるならば。

自分でコントロールできない状況で、少しでも自分ができることを見つけないと行けないことは理解している。でも、あまりにも先の見えない中、何をしたらいいからわからない。

夢がなくなって、止まらざるを得ない状況で、それでも大丈夫、という言葉はどれだけ心を落ち着かせてくれたのだろう。そんな言葉かけてくれた人、今までいなかった。受験生の時や就活生の時だってそんな言葉かけてくれる大人は周りにいなかった。

2018年発表の曲なので、この曲を作った時はこんな状況は想像もしていなかったと思う。でも、薬が当初の開発目的とは違う病気に聞くことがあるように、この曲はパンデミックで止まらざるを得なかった私にとっては取っておきの鎮痛剤だった。

2. Zero O'clock ~すぐに変わらなくても新しい日は来る~

在宅勤務が始まると、色んな勝手が変わってくる。仕事の仕方に慣れるのにも時間がかかるし、コミュニケーションも顔の見えない文字ベースのものの比率が以前より高くなり、言葉やレスポンスも気を遣う。新しく人が入ってくると今までとは違うやり方で関係を築いてかなければならない。

仕事が終わって、あの時あれでよかったんだっけ、もっとうまくできなかったんだっけと巡る思考。気分転換にテレビをつけると気持ちが暗くなるニュースばかり。

そんな時、BTSがくれる言葉はとても現実的だ。朝目覚めて、何かが劇的に変わることはそうそうない。でも、今日1日が終わって、午前0時なったら新しい日は必ずやってくる。新しい日はもう少し嬉しいことや幸せを感じる出来事があるかもしれない。

何か変わるかな
変わることなんてないよ
それでもこの1日が終わるじゃないか
秒針と分針が重なる時
世界がほんの少し息を止める
0時

そして君は幸せな気持ちになって
君はハッピーになるんだ
たった今舞い降りたあの雪みたいに
息をつこう 初めてのことみたいに

午前0時過ぎにこの歌を聞くと、朝起きたら新しい1日は少しいいことあるかもしれない、と明るい気持ちで眠ることができた。聴くだけでOKな睡眠薬だ。

3. 2!3! ~それでも良き日がたくさんありますように~

一瞬なんて読むのか戸惑うタイトルだが、「トゥル、セッ」と読む。韓国語でそのまま2、3の意味だ。

Zero o' clock が明日という1日への希望を歌っているとするなら、2!3!はこれから先の日々への希望を歌っている。そして、歌詞自体はファンに捧げたファンソングだ。

最初のAメロでは、辛いことがない人生はあり得ないと歌う。

「花道だけを歩こう」
そんな言葉は僕は言えない
「いいことだけを見よう」
そんな言葉も僕は言えないよ
「これからは良いことばかりだ」って言葉
「もう辛い思いをすることもない」なんていう言葉
そんな言葉、僕は言えない
そんな嘘はつけない

そしてBTS自身が辛かったと思われることも語られる。その上で、サビではこう歌う。

大丈夫
さあ、123で忘れて
悲しい記憶はぜーんぶ消して
お互いに手を繋いで笑うんだ
それでも良い日がこれからたくさんありますように
僕の言うことを信じるなら123
信じるなら123
それでも良い日が遥かにもっと多いことを
僕の言うことを信じるなら123
信じるなら123

晴れの日があれば、雨の日も、嵐の日も吹雪の日もあるように、人生で辛い日や悲しい日がないことはあり得ない。でも、良い日が少しでも多いことを祈ることはできる。

先の見えないパンデミックの中、少しでも良い日が多くありますように。このパンデミックが収束して、自由に会いたい人に会いに行き、行きたいところに行ける日が来ますように。良い日がたくさんありますように。

一番最初に韓国語で歌えるようになったのはこの歌だったかもしれない。祈りの言葉を口に出すと、なんだか叶うような気がして。

この歌が何よりも一番精神安定剤として機能していたと思う。

最後に

あまり知らない人からすると韓国のアイドルがなぜこんなに人気があるのか疑問に思うかもしれないが、少なくとも王子様のような衣装をまとって「君は僕の可愛いお姫様だよベイビー」とか甘い言葉を歌うようなイケメン集団だから人気があるわけではない。個人的には、恋に恋する時代を過ぎたらそういうのは必要ない。

BTSの色んな歌を聞いていくと自分の痛み、辛さ、怒り、葛藤。そういったものを正直に綴っている歌も多い。歌詞の多くはメンバー自身が書いている。

自分自身と向き合って捻り出した言葉は共感を呼ぶし、同じような人にどのような言葉をかけたら良いのか的確なものが出てくるのだろう。

私自身、過去聞いていた音楽を振り返ってみると、ジョン・レノンを始め、自分の気持ちを正直に紡ぐアーティストが多かった。

いつの時代も、自分と真剣に向き合った人の言葉は他の人の心を動かすのかもしれない。

詩の朗読だとちょっとこっぱずかしい。でも、それを音楽に乗せることで自然と自分の体に入っていく。それが自分が喋れない外国語の言葉でも。

この音楽が、言葉が、同じように必要としている人に届きますように。

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