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「2度泣かされたVAR」20-21 PL 第32節 アーセナル×フラム レビュー

前節シェフィールド・ユナイテッド戦で快勝を収め、ミッドウィークのEL準々決勝スラヴィア・プラハ戦にも快勝し上り調子のアーセナル。このまま好調を維持した状態でプレミアリーグでは順位を一つでも上げ、ELでの優勝を勝ち取りたいところ。今節の対戦相手は暫定18位と降格圏に沈みプレミア残留が厳しくなってきたフラム。現在4連敗中ということでチームは不調。上り調子のアーセナルとしては、しっかりと勝ち点3を持ち帰りたい相手である。

プレミアリーグでの前回対戦時レビューはこちら

■ チーム概要

【HOME】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1
【AWAY】
・フラム(監督:スコット・パーカー)
フォーメーション:4-4-2

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アーセナルはスラヴィア・プラハ戦から中一日と過密日程ということもあり、ややターンオーバー気味の人選に。ウーデゴール、ダビド・ルイス、オーバメヤンなど主力メンバーが怪我や病気で離脱しているため、これ以上怪我人を出したくないという意図もあるだろうか。一方でスミス=ロウが怪我から復帰。アーセナルとしては好材料である。
フラムはプレミア残留のために勝ち点3が必要ということもあるからか、守備的な3バックではなく4バックのシステムで挑んだ。

■ 前半①:可変に対する可変守備

アーセナルは前節と同様、ボール保持時にDFラインが右へスライドし右SBを上げる可変システム。ジャカ、マガリャンイス、ホールディングの3バック+エルネニーの3-1でビルドアップ。前節とやや異なっていたのは、セバージョスが前回ほど幅を取りに行かなかったことと、ラカゼットがより低い位置まで降りて来ていたこと。

セバージョスがあまり幅を取れなかったことで左SHのマルティネッリが孤立し、厚みのある攻撃になりにくかった。また、ラカゼットが深い位置まで降りていたことでミドルサードからファイナルサードに至るまでの加速が足りず、フラム陣内にスペースを作り出せない状況が多かった。

この要因はいくつかあるように思うが、そのきっかけとなっていたのはフラムの守備。4-4-2のフォーメーションだったが、前線プレスの際には左SHのルックマンが高い位置へ上がり、アーセナルのDF3枚のビルドアップに対して3トップ化して牽制。逆に右SHのリードはマルティネッリをマークする形で5バック可。アーセナルのビルドアップに対して5-2-3のフォーメーションに可変する事で対策してきた。

アーセナルの3-1ビルドアップをマンマーク気味に抑えに来たフラム。これによりエルネニーが低い位置へ下がらざるを得なくなり、セバージョスがビルドアップを補佐。その為に幅を取りに行けなくなる。更にラカゼットもビルドアップを補佐する為に下がってきた事で数的優位の状況やスペースの創出が出来ないままにフラム陣内へ進み、ゴールへ迫れない時間が長くなっていた。

■ 前半②:厳しいVAR判定

前半3分頃と10分頃のシーンでは、フラムが前がかりになった事でスペースが出来、カウンターからアーセナルがゴールに迫るものの決定的なチャンスにはならない。フラムの深い守備に対してペナルティエリア付近まではボールを運べるものの、その中までは侵入できない時間が続く。

しかし、39分にようやく試合が動く。アーセナルのボール保持からジャカが大外レーンのマルティネッリへ。マルティネッリは、ここまで何度も試みていた縦へのドリブル突破を匂わせつつ切り返して右足で中央へクロス。そのボールをラカゼットが頭でスラしてペナルティエリア内のサカへ。そこから右サイドのベジェリンへ展開してそのままワンタッチでファーサイドへ優しいクロス。これをセバージョスが頭で合わせてゴール。左から右サイド、そしてまた左サイドへ展開しフラムの守備を揺さぶって崩した綺麗なゴールだった。

が、このゴールに対してVAR判定。ラカゼットが頭でスラしたタイミングでサカの爪先がわずか数cm出ていたという事でオフサイドの判定に。写真判定で見る限りではたしかに爪先は出ている。苦しんだ末に勝ち取った先制点だったが、ゴールは取り消されスコアレスのまま前半終了となった。

■ 後半①:守ってくれないVAR

後半開始早々は、フラムが前がかりになった事でカウンターからラカゼットのシュートシーンまで至ったものの枠内に飛ばずゴールならず。何とか先制点を奪いたいアーセナルだったが、後半はやや不安定な立ち上がりに。特にビルドアップの軸となっていたジャカ付近でパスミスが頻発。周囲がパスコースを作れていない事も要因の一つだろう。

試合の主導権を握りきれないアーセナル。56分にはフラムのDFラインからのボール保持に対して前線からプレッシング。これをフラムが上手くビルドアップでいなして運び擬似カウンターに。そのままペナルティエリア内まで侵入を許してしまい、レミナに対してマガリャンイスの足がかかったということでPK判定に。

微妙なシーンだったためVARにより確認が入るが、マガリャンイスの足はたしかにレミナの足をわずかに踏んでおりファールの判定に。しかし、その手前で際どいオフサイド疑惑のシーンがあり、こちらもVAR判定に。しかしこれもmm単位の差でオンサイド判定となり、PKのジャッジは覆らず。このPKをマジャが決めてフラムが先制に成功した。アーセナルは2度のVAR判定に泣かされることとなった。

■ 後半②:大きな代償を伴った同点ゴール

追いかける形となってしまったアーセナルは、ベジェリンとエルネニーを下げてぺぺとトーマスを投入。しかし、その直後にラカゼットがハムストリングを痛めてしまい負傷交代。マラリア感染でオーバメヤンを欠く中でラカゼットまでも欠いてしまうことに。代わりにエンケティアが入りアーセナルは交代枠を使い切る。これでサカを右WBへ移動させボール保持の際に3-4-1-2のようなシステムに変更する。

エルネニーとトーマスが変わった事で、ビルドアップで高い位置を確保できるようになり、徐々にアーセナルが良いリズムでボールを運べるように。

深く守りつつ先制することに成功したフラムは、4-5-1のシステムへ変更し、更に深く守りカウンター狙いに。

70分には、スミス=ロウからポケットへ侵入したマルティネッリへスルーパスが通り、そこから逆サイドへクロス。これをぺぺが頭で合わせるもGKアレオラがビッグセーブ。アーセナルに得点を許さない。

試合はそのままアディショナルタイムへ。終了間際のCK。アーセナルはGKのライアンも上がって最後のチャンスに賭ける。サカの蹴ったCKをライアンが頭でさわり、ボールは逆サイドへ。そこへ走り込んできたセバージョスがそのままダイレクトシュート。相手に当たってこぼれたボールはエンケティアの前に。これを押し込んで土壇場でアーセナルが同点に追いついた。

負傷交代となってしまったラカゼットの代わりに投入されたエンケティアが最後に大仕事をやってのけ、試合はそのまま1-1の同点で終了。互いに勝ち点1を持ち帰ることとなった。

■ 試合結果

Arsenal 1 × 1 Fulham

■ 得点
59分:マジャ(PK)
90+7分:エンケティア

■ 交代
68分:ベジェリン → ペペ
68分:エルネニー → トーマス
69分:ルックマン → リード
70分:ラカゼット → エンケティア(負傷交代)
77分:マジャ → ロフタス=チーク
84分:カヴァレイロ → ブライアン

■ 試合ハイライト

■ あとがき

先制点は取り消され、PK判定は覆らず。2度のVARに泣かされた試合だった。たしかに切り取られたシーンではオフサイドもオンサイドも判定は正しい。ただ、切り取ったシーンがパスを出した瞬間であるとは断言できないし、コンマ数秒でオンサイドオフサイドが変わるだろう。現行のルールではこれが正しいとは言え、なかなか消化しきれない試合となってしまった。個人的には今のVAR制度はあまり好きになれない。せめてテニスのようにVARをチャレンジ制にするなどして、改善してほしいと切に願うばかり。

ただ、VARに泣かされたとはいえもっと多くのチャンスを創出できなかったのは力不足だと認めざるを得ない。この試合では、結果的にエルネニーの起用がマイナスに働いてしまった事もあり、ビルドアップからの組み立てで数的優位とスペースの貯金を作れないまま終わってしまった。チャレンジするより安全なパスを選択するエルネニーの特徴がマイナスに出てしまった試合だった。

フラムもアーセナルも勝ち点1を取れたと言うよりは、勝ち点2を失ってしまった試合。フラムはプレミアリーグ残留が更に厳しくなり、アーセナルはこれでCLはおろかELすらプレミアリーグの順位から出場権を獲得するのが厳しくなってきた。

更にラカゼットも負傷により長期離脱することになればここまで培ってきた戦い方をまた変える必要性も出てくる。シーズンも終わりに近づき、チームとして正念場を迎えたアーセナル。CL出場へ残された道はEL優勝のみ。アルテタの挽回に期待したい。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista