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「10節にして振り出しへ」20-21 PL 第10節 アーセナル×ウルヴァーハンプトン レビュー

前節リーズ戦で苦しみながら勝ち点1を獲得したアーセナル。ミッドウィークでヨーロッパリーグのグループリーグを戦い、ここでは無事に勝利。今節の相手は、ポルトガル人選手をベースにチーム作りを進めているウルブス。アーセナル同様にウルブスも今シーズンは苦戦しており、現状は得点不足と悩みも同じ。今の苦境から抜け出すために両チーム共に今節は勝ち点3が欲しい試合である。

■ チーム概要

【HOME】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1
【AWAY】
・ウルヴァーハンプトン(監督:ヌーノ・エスピーリト・サント)
フォーメーション:4-2-3-1

アーセナルは、ダビド・ルイスがスターティングメンバーに復帰。前節のレッドカードで今節欠場となるぺぺに変わってサカが出場。ウィリアンと共に前節負傷交代した2人が怪我から復帰してスターティングメンバー入りした。フォーメーションは前節と同様の4-2-3-1を採用して今節に挑む。
対するウルブスは、今まで3バックをベースに戦ってきたものの、前節は4バックを採用。それを今節でも継続してきた。キャプテンのコーディがスターティングメンバーに復帰。こちらもフォーメーションは4-2-3-1で今節に挑む。

■ 前半①:ショッキングなスタート

開始早々、ウルブスはアーセナルのセンターバック脇からネトが仕掛けて早くもコーナーキックを得る。このコーナーキックは不発に終わったものの、試合開始からウルブスはインテンシティ高く試合に入った。

そして、アーセナルも負けてはいない。こちらも開始早々の2分、左サイドからサカ、セバージョス、オーバメヤンと繋いで突破。シュートには至らなかったもののペナルティエリア深くまで侵入する事に成功し、良い立ち上がりに見えた。

そんな中、前半4分にショッキングなシーン。アーセナルのコーナーキックからダビド・ルイスとヒメネス互いの頭部が衝突。ヒメネスは意識を失っており、そのままピッチを退く事に。後に病院で意識を取り戻したとの情報があったが、頭部ということもあり非常に心配だ。とにかくまた無事に元気な姿でピッチへ戻って来れるように願うばかり。ダビド・ルイスもこれにより頭部より出血していたものの、応急処置でその後もプレーを続行。ただ、頭部へのダメージはその後に大ごとになることもあり得るため、こういう場合は交代させてあげてほしい。ラグビーなんかは、一時的に代替選手の交代が認められているし、ここはプレミアリーグを含めサッカー界全体でルールの見直しを検討してほしいところだ。

このショッキングなシーンで試合は10分近く中断。選手は身体が冷える影響に加えて、メンタル的にも当然ながら影響はあったように思う。

■ 前半②:狙われたセンターバック脇

アーセナルのビルドアップは、2センターバックと2センターハーフの4枚で実行。セバージョスが右落ち、またはジャカが左落ちして3-1のひし形からサイドバックを高い位置へ押し上げる。今節でも中央への楔のパスはあまりなく、相手のブロックを避けてサイドからボールを前進させる事が多かった。これは、攻撃がうまくいってなかった前節とほぼ同じ。

これに対してウルブスは、トップ下のポデンスが前に上がって4-4-2の布陣で守備に入る。そこまで強度の高いフォアチェックは行わず、ハーフウェイラインを超えた辺りからプレッシングを開始。中央は固く閉めてサイドへ誘導する狙いに見えた。

ウルブスのビルドアップは、2センターバックと左サイドバックの3枚を後ろに残し、センターハーフ2枚と合わせた5人で時間を作る。右サイドバックのセメドを高い位置へ上げつつ、アダマ・トラオレをやや中に絞らせ、更にトップ下のポデンセがバイタルエリアで自由に動き回り、攻撃に厚みを作って相手を押し込む狙いだ。

これに対してアーセナルは、積極的なフォアチェックは見せず。サカはセメドに押し下げられ、オーバメヤン、ウィリアンのプレッシングも中途半端に空転。ウルブスに簡単に前進を許していた。また、ウルブスのセンターバック、コーディからは大外奥まで精度の高いフィードキックもあり、アーセナルは徐々に押し込まれる展開に。

そして、27分に試合が動く。ウルブスのセンターバック、ボニーからファビオ・シルバへ楔のパスが入り、アーセナルのセンターバック、マガリャンイスが引っ張り出される。ファビオ・シルバはワンタッチでポデンセへレイオフ。これを右サイドのアダマ・トラオレへ展開。アダマ・トラオレは、ティアニーとの1対1から半身抜いたところで中へクロス。中でデンドンケルが頭で合わせたものの、これがクロスバー直撃。しかし、こぼれ球をネトが押し込んでウルブスが先制。左サイドへ一度展開した後、やり直しで後ろへ戻してからのきれいな崩しだった。アーセナルは、枚数が揃っていたにもかかわらず中央で相手選手を捕まえきれず。

反撃に転じたいアーセナルは、前半開始早々と同じように頼みの綱である左サイドから突破を図る。そこから相手を崩してコーナーキックを得る事に成功。これをショートコーナーでスタートし、時間を作った後、ウィリアンの上げたクロスをマガリャンイスが頭で決めて同点。失点から3分後、すぐ同点に追いつく事に成功した。

このまま逆転といきたいアーセナルだったが、そううまくはいかない。42分、アーセナルはカウンターから勝ち越しゴールを許してしまう。ウルブスの右サイド、アダマ・トラオレがクリアボールをキープ。ティアニー、ジャカの2枚をドリブルで剥がして前線バイタルエリアで待つネトへパス。ネトはドリブルで仕掛けながらアーセナルディフェンダーを押し下げてからシュート。これをレノが一旦セーブするもこぼれ球をポデンセに拾われる。マガリャンイスの決死のスライディングもポデンセがボールを上手く浮かせてかわし、アーセナルゴールへシュートを突き刺してウルブスが見事に勝ち越し。

その後もウルブスは、ビルドアップでベジェリンを引っ張り出しておいて、深い位置からセンターバック脇へ縦に早くパスを供給し、センターバックを引っ張り出す狙いからアーセナルゴールへ何度も迫る。しかしスコアは動かず、1-2で前半終了。

ウルブスはセンターバックの釣り出しに成功し、アーセナルは釣り出せない。その差が如実に出た前半だった。

■ 後半:使えない中央エリア

アーセナルは、後半頭から選手交代。頭部を負傷したダビド・ルイスを下げてホールディングを投入。

後半の立ち上がり、アーセナルは前半と比較すると、ややボールを大事に保持していた印象を受けた。ただ、やはり中央へはなかなか侵入出来ず、ブロックを迂回してのボール保持になっていた。そんな中、大きなチャンスが訪れる。右サイド、セバージョスがハーフスペースをドリブルで持ち上がり、タイミング良く裏へ抜けたベジェリンへスルーパス。簡単にペナルティエリアへ侵入出来たベジェリンから中へのクロスはサカが左足で当てきれず。ビッグチャンスだったがボールは大きく横へ逸れていった。

ビハインドのアーセナルは必然的に前がかりに。対してウルブスはしっかりブロックを作って迎え撃つ。次第にアーセナルのパス回しもウルブスディフェンスに引っ掛かりだし、カウンターからあわや失点というシーンも増え始める。

なんとか現状を打開したいアーセナルは、ウィリアンに変えてネルソンを投入。ポジションはそのまま右サイドハーフへ。しかし状況は大きく変わらない。個人的には、ここでサカと左右を入れ替えるなどして工夫してほしかった。

ウルブスは、ポデンセを下げてネヴェスを投入、システムを4-3-3へ変更し、明確なカウンター狙いに。特に左サイドのネトはベジェリンに対して脅威となっていた。しかし、ウルブスの監督ヌーノは、これが上手くはまらないと見たのか、その後ファビオ・シルバを下げてキルマンを投入。システムを3-5-2に変えてセンターバックを増やしてクロスを跳ね返し、2トップのネト、アダマ・トラオレでのカウンター狙いを選択したように見えた。

ウルブスが引いてきたことでビルドアップの必要がなくなったアーセナルは、ジャカを下げてラカゼットを投入。前線の枚数を増やして同点ゴールを狙う。しかし、中央を固めたウルブスの守備に対して、中にボールを運べず、外からクロスを上げるしか出来ないアーセナル。クロスの精度が高ければまだ可能性もあるが、クロスはことごとく守備ブロックに跳ね返されフィニッシャーへボールが渡らず。

結局そのままスコアは動かず試合終了。1-2でウルブスが勝ち点3を獲得した。

■ 試合結果

Arsenal 1 × 2 Wolverhampton

■ 得点
27分:ネト
30分:マガリャンイス(アシスト:ウィリアン)
42分:ポデンセ
■ 交代
15分:ヒメネス → ファビオ・シルバ(負傷交代)
45分:ダビド・ルイス → ホールディング(負傷による影響)
65分:ウィリアン → ネルソン
70分:ポデンセ → ネヴェス
78分:ファビオ・シルバ → キルマン
80分:ジャカ → ラカゼット

■ 試合ハイライト

■ 上手くいかないシステム変更

アストン・ヴィラに大敗し、アルテタはリーズ・ユナイテッド相手にシステムの変更を決断。今までのティアニーロールをベースとした3バックから4バックへの可変を捨て、オーバメヤンを1トップにした4-2-3-1へシステムを変更した。

だが、これが上手くいっていない。
主にゼロトップとしてラカゼットが担っていたピッチ中央でのビルドアップの出口。これが無くなった事で前後のリンク役が不在になり、中央が空洞化している。この試合も中央への選択肢がそもそも無いかのように、外へ外へ展開していた。

また、前節のリーズ相手に無失点だったとは言え、ポスト直撃などほぼ失点というシーンは多かったし、今節もウルブス相手にもっと多く失点していてもおかしくなかった。ディフェンスラインで5レーンを守る今までの守備と違い、ディフェンスラインを4人で守っている事で今節のようにCBとSBの間(チャンネル)を狙われてCBが釣り出される事が増えている。

この守備のリスクを冒してでも得点を奪うための4バックへのシステム変更だったと思うが、得点はもちろんのことチャンスすら増やす事が出来ず、堅固だった守備も崩壊するという負の連鎖に陥っている。

■ 10節にして振り出しへ

ミッドウィークのヨーロッパリーグで勝利を収め、これを機にプレミアリーグで巻き返しと思いきや、蓋を開けるとそこには前節と何ら変わりない不甲斐ない試合が。

今まで積み上げてきた、
・ビルドアップからの擬似カウンター
・前線からの連動したプレッシング
など、精度は高くなくともそこには一貫性のある狙いが感じられた。けれど、ここ数試合ではそれが見られない。

何から何までうまくいかない今のアーセナル。プレミアリーグもこれで10節。そろそろゲームモデルの土台を固めて肉付けしていきたいシーズンの中盤に土台が崩壊するという、なかなか最悪の状況に。

振り出しへ戻り、土台から作り直す必要のあるアーセナル。これから更に結果がついて来なければ、アルテタの解任も視野に入ってくるだろう。

■ あとがき

チーム作り序盤で結果が伴わないのは致し方ないとしても、チームとして前進している実感を感じられないのは大問題である。ヴェンゲル期、エメリ期の終盤にも似た空気が漂い始めたように感じる。

さらに、こういう時こそ頼りにしたい新戦力のトーマスは、怪我が思いの外重たいとのことで、年内は出場が厳しいという報道も出てきた。

そんな絶望的な状況の中、次節はアウェイのノースロンドンダービー。プライドをかけて絶対に負けられないこの一戦にアルテタがどう挑むのか。新たな取り組みでチームとしての前進を期待したい。

見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista