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「選手の個性を生かした左右の違い」20-21 PL 第17節 ウェスト・ブロムウィッチ×アーセナル レビュー

年が明け、2021年最初の試合となる今節。アーセナルはここ2試合を連勝で飾り暫定14位。不調の波を乗り越えつつある。今節の対戦相手であるウェストブロムは今シーズンの昇格組。ここまで17試合を戦ってわずか1勝のみで勝ち点が8と苦戦中。暫定順位も19位の降格圏。監督がチームを降格から救うことで定評のあるサム・アラダイスに変わりこれが3試合目。巻き返しを図る。

■ チーム概要

【HOME】
・ウェスト・ブロムウィッチ(監督:サム・アラダイス)
フォーメーション:4-4-2
【AWAY】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1

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アーセナルは前節からスターティングメンバーを2人変更。中盤センターには前節のエルネニーからセバージョスに。ワントップにはラカゼットが入り、左サイドハーフにオーバメヤン。前節スターティングメンバーだったマルティネッリは今節サブメンバーに。ウィリアン、ぺぺ、ダヒド・ルイスなどがサブメンバーに名を連ねており層が厚くなってきたことを感じさせる。

■ 前半:右のコンビネーション、左のドリブル突破

雪がしんしんと降る中でキックオフ。
アーセナルはここ2試合と同様のゲームモデル。2CB+2CHの4枚を軸にビルドアップ。両SBを高く押し上げ、5レーンを使い分けながら前進を図る。トランジションの動きもよく、徐々に試合の主導権を握っていく。

この試合で顕著に見られたのがファイナルサードでの左右の違い。右サイドは、サカ、スミス=ロウ、ベジェリンと基本的に3枚がユニットで崩す狙い。ベジェリンは比較的ハーフレーンにいる事が多く、サカ、スミス=ロウと三角形を形成し、ボールを保持しつつ仕掛けるタイミングを図る。更にラカゼットもそこへ加わり、オーバメヤンは中へ入ってくる。全体的に右に偏重しており左サイドはスペースを空けておく形。その空いた左サイドのスペースでは、ティア二ーのスピードを活かした突破をベースに崩す狙いが見えた。

ウエストブロムの守備は4-4-2でセット。アーセナルのビルドアップに対してフォワード2枚が中盤へのパスコースを切りながらCBへプレッシング。このフォワードのチェイシングをスイッチとして全体的に押し上げつつプレッシングを強めるような狙い。ただ、アーセナルはその前へ出てくるタイミングに合わせて裏のスペースを上手く使えており、何度かシュートまで持っていきゴールへ迫っていた。

23分、この試合で顕著に見られた右サイド偏重で左サイドにスペースを作る狙いが実を結ぶ。右サイドで相手を押し込み、一旦後ろのホールディングへ下げて大きくスペースの空いている左サイドへ一気に展開。ここでパスを受けたティア二ーが縦にドリブルを仕掛けて抜く、相手が追いついてきたら今度は中へ切り返す。キレのあるドリブルでカットインしたティア二ーは、そのまま右足を振り抜く。ボールはそのままゴールへ吸い込まれアーセナルが先制。雪の降る寒いピッチでも元気に半袖で縦横無尽に走り回るティア二ーが値千金の先制ゴールを決めた。

更にその後の28分、アーセナルが久々にパス&ムーヴで連動した美しいゴールを決める。今度は右サイド。ファイナルサードに入ったところでベジェリンから中央のスミス=ロウへ横パス。これをスミス=ロウがワンタッチで前にいるサカへ縦パスし、そのまま裏のスペースへランニング。パスを受けたサカはスミス=ロウが走った方とは逆の内側へトラップして中央のラカゼットへパスし、そのまま裏のスペースへ抜けるランニング。パスを受けたラカゼットは大外を駆け上がっていたスミス=ロウへスルーパス。これで完璧にディフェンスラインを崩しきり、最後はスミス=ロウから中央のサカへつないでアーセナルが2点目をゲット。パスとその後のスペースに入るランニング、3人目の動き、それを実現するミスのないボールコントロールと、ヴェルゲル時代を想起させるような美しいゴールだった。

立て続けに得点し波に乗るアーセナル。その後も何度かチャンスを創出。完全に試合を自分達のものにする。しかし、試合開始から降り始めていた雪が酷くなり始め、ピッチは徐々に白く変わっていく。それに伴いボールが転がなくなりはじめ、アーセナルは次第にショートパスが繋がらなくなってくる。降雪が増すと共に試合は膠着状態に。そのまま0-2で前半を終える。

■ 後半:天候が影響した試合の流れ

前半の半ばから降り続いた雪がハーフタイムの間に積もり、ピッチが白くなった状態でスタートした後半。巻き返したいウェストブロムは、前線にテコ入れ。左サイドハーフのディアンガナを下げて高さのあるオースティンをFWに投入。FWだったロビンソンが左サイドハーフに入った。

前半終盤と同様、雪の影響でなかなかショートパスを繋げないアーセナル。対するウェストブロムはボールを転がさずに中長距離のパスとフィジカルを活かしたランニングでアーセナル陣内へ攻め込む。特にアーセナルのSB裏のスペースを狙う事が多く、CBを引っ張り出して高さのあるオースティンで勝負する狙いに見えた。これによりアーセナルは後半開始から押し込まれる形に。ピッチは徐々にアーセナル陣地だけが緑色に変わり、ウェストブロム陣地は白いままになっていた。

なかなかショートパスでリズムが作れないアーセナル。それならとロングボールを前線へ送り、トランジション勝負を狙う。60分、パブロ・マリから前線のオーバメヤンへ。トランジションでラカゼットがボールを保持し、右サイドのサカへ展開。そこから中へ上げたクロスをウェストブロムのDFアジャイがクリアミスでポスト直撃のあわやオウンゴール。このこぼれ球をスミス=ロウがシュート。これを再度アジャイに防がれるも、最後はラカゼットがゴールへ押し込み3点目。アーセナルは、ややラッキーな形で試合を決定づける3点目を奪う事が出来た。

3点目から4分後、自陣でボールを奪取しカウンターへ。センターサークル付近まで下がったラカゼットがポストプレーに入り左サイドのオーバメヤンへ展開。オーバメヤンが中央へドリブルで運びつつ周りが駆け上がる時間を確保。左の大外レーンを駆け上がってきたティア二ーへ展開し、ティア二ーからの早いクロスを中央でフリーになっていたラカゼットがこの日2点目のゴール。これで4点のリードに。

4点のリードに加え、雪もすっかり止んでピッチも随分と緑色に戻ってきたこともあり、アーセナルがまたリズム良くパスを回せるようになり、ボール保持できる時間が長くなる。その後もアーセナルが終始ゲームをコントロールし、そのまま試合終了。アーセナルが今シーズン初となる4得点、クリーンシートで快勝を収めた。

■ 試合結果

West Bromwich Albion 0 × 4 Arsenal

■ 得点
23分:ティアニー(アシスト:ホールディング)
28分:サカ(アシスト:スミス=ロウ)
60分:ラカゼット
64分:ラカゼット(アシスト:ティアニー)

■ 交代
45分:ディアンガナ → オースティン
54分:ベジェリン → メイトランド=ナイルズ
66分:イヴァノビッチ → バートリー
71分:サカ → ウィリアン
77分:スミス=ロウ → ウィロック
81分:フィリップス → ハーパー

■ 試合ハイライト

■ あとがき

これで3連勝となったアーセナル。ラカゼットが潤滑油になりヤングガナーズのコンビネーションを加速させる。チームの調子は間違いなく上向きである。3バックと4バックを可変させたティアニーロールを活用し左サイド一辺倒だった頃は、そこを封じられると何もできなくなっていた。その頃と比べると、今節のように左右で狙いを変えてバランス良く攻撃できていたし、ゲームモデルが定まらないという長いトンネルは抜け出せたのかもしれない。

右サイドはショートパスを軸にサカ、スミス=ロウの連携で崩し、左サイドはティアニーがスペースを活かしたドリブル突破を狙う。選手の個性を生かした左右の違いは今後、チームとして一つの形になりそうだ。

ただ、サカ、スミス=ロウ、ティア二ー、ラカゼットなど、ここ数試合のキーマンとなっている選手が不在になると途端に今のゲームモデルが成立しなさそうなのは心配な点。彼らが担っているタスクを同じレベルで遂行できる選手はいないように見える。現段階ではまだまだこの辺りは個の力に頼っている部分があるので、その点は課題だと感じる。

ヤングガナーズの活躍はもちろん見逃せないポイントだが、それを活かせているラカゼットのワントップも今のチームに欠かせないポイントだと感じる。サイドバック(特にティア二ー)からワントップのラカゼットに斜めの早いグラウンダーで楔のパスが入る回数が多い。これで相手を真ん中に集めつつ逆サイドへ展開。早く展開できることで相手のスライドが間に合わず、相手陣地にスペースのある状態で攻撃することが出来るため、フィニッシュまでいける事が多くなる。この試合でも9分にそういったシーンがあった。現アーセナルのワントップにはラカゼットが適任だろう。

ティア二ーの躍動も見逃せないポイント。チェルシー戦でもドリブル突破からPKを獲得しており、この試合でもドリブル突破から素晴らしいゴールを決めるなど、ドリブルが彼にとって1つの武器になりつつあるように見える。また、スミス=ロウのボールを受ける位置、前を向くターン、ワンタッチで縦に出すパスと、攻撃を加速させるスイッチになるプレーも今のアーセナルに欠かせないピースの一つ。彼らの活躍は本当に大きい。

現チームの核となりつつあるヤングガナーズ。ここを軸にさらなる積み上げができれば上位返り咲きも見えてくるかもしれない。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista