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「小さなミスが大きな事故に」20-21 PL 第22節 ウルヴァーハンプトン×アーセナル レビュー

前節、上位チーム相手に互角の戦いを見せたアーセナル。引き分けたものの徐々にチームの雰囲気も上向きはじめ、まとまりを感じさせるようになってきた。とはいえ、上位への返り咲きにはそれだけでは足りない。必要なのはどんな対戦相手であっても1試合1試合勝ち点3を積み重ねていくこと。

今節の対戦相手は、直近8試合で勝利がなく不調続きのウルブス。アーセナルとの前回対戦時にヒメネスが大怪我をおってしまい長期離脱した事が今の順位に影響しているのかもしれない。アーセナルファンとしても彼がまた笑顔でプレー出来るようになることを願うばかり。

調子が上向きつつあり、上位進出へ勝ち点3が必要な暫定10位のアーセナル。対して未勝利の沼から抜け出し、復調のきっかけを掴みたい暫定14位のウルブス。互いに今後に向けて勝利を収めたい試合だ。

プレミアリーグでの前回対戦時レビューはこちら

■ チーム概要

【HOME】
・ウルヴァーハンプトン(監督:ヌーノ・エスピーリト・サント)
フォーメーション:4-2-3-1
【AWAY】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1

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アーセナルは前節からの変更は1人のみ。マルティネッリに変わって怪我から戻ってきたサカがスターティングメンバーに復帰。対するウルブスはこの冬にソシエダからレンタル加入したウィリアン・ジョゼをスタートから起用。互いにフォーメーションは4-2-3-1で挑む。

■ 前半①:開始早々からアーセナルペースに

試合開始早々30秒にアーセナルにいきなりビッグチャンスが訪れる。自陣からトーマスのロングフィードにサカが抜け出しGKと1対1に。しかし、シュートはバーを叩きゴールならず。ゴールにはならなかったものの、アーセナルが良い形で試合に入る。この試合でサカと対峙したウルブスの左SB、キルマンは高さがあるもののスピードに難がある印象。サカは何度もキルマンにスピード勝負を仕掛け優位に立てていたし、アーセナルはチームとしてもこのキルマンの裏のスペースは狙っていたように見えた。

開始早々の勢いそのままに試合をコントロールするアーセナル。8分にはフリーキックのこぼれ球を拾って2次攻撃。左サイド、スミス=ロウからのクロスをホールディングがヘディングで競り、逆サイドへ流れたボールをラカゼットが拾って中央へマイナスのパス。これをサカが右足を振り抜き見事にゴール。しかし、ホールディングが競ったタイミングでラカゼットの足がわずかにDFラインから出ていたということで、VARによりオフサイド判定に。残念ながらノーゴールとなった。

■ 前半②:ゾーンディフェンスに対する答え

この試合、4-2-3-1のフォーメーションで挑んだウルヴス。ボール保持では丁寧なビルドアップは行わず、ウィリアン・ジョゼの高さと強さを活かしてロングボールをワントップに当てる。セカンドボールを拾ってから、トラオレのフィジカルやテクニックに優れるポデンセ、ネトといった2列目の個人技を活かした狙いが多かった。

非保持のフェーズでは、ポデンセを前に上げて4-4-2のフォーメーションで守備。アーセナルの深い位置でのビルドアップに対してはGKを含むDF陣へ積極的にプレスを行うものの、ここで上回っていたのはアーセナル。簡単にプレスをはがして前進に成功していた。アーセナルがミドルサードまで前進した場合、ウルヴスは潔く撤退守備へ切り替える。4-4-2の守備体型でゾーンディフェンスに。

このゾーンディフェンスに対して、アーセナルは配置的優位で打開を試みる。ゾーンディフェンスの泣き所でもあるライン間、ハーフスペースに前線の選手が入りボールを引き出す。ボールを受けた後はワンタッチツータッチでサポートに入った選手へ預ける。ウルヴスのパスコースの制限が甘かったこと、ライン間が広かったこともあるが、アーセナルの選手間の距離、各所に三角形を形成するポジショニングをベースにしたパス交換が見事だった。

■ 前半③:待望の先制点と小さくて大きなミス

ウルヴスのゾーンディフェンスに対して、ポジショナルプレーで試合をコントロールしたアーセナル。攻撃だけでなく守備、特にトランジションでの意識は高くウルヴスに自由を与えない。

32分、GKレノからのロングボール。五分五分のボールはウルヴスが拾うが、ペペがすぐさまプレッシング。ボールを奪ってラカゼットへ。ペペはそのまま大外レーンを駆け上がりラカゼットからのリターンを受けてドリブル。ペペはそのままペナルティエリアに侵入。ウルヴスの選手2枚を強引に突破し右足でシュート。これがゴール右隅へ美しい弧を描き吸い込まれ、アーセナルが待望の先制点を挙げる。

ペペのドリブルの強さ、シュート精度の高さも見事だったが、何より良かったのはトランジションでの守備意識の高さ。最近のペペは守備の穴になることがほとんどなく、むしろチームを救う守備が多い。それがこうしてゴールに繋がったのは非常に良かった。

無事に先制点を奪い、前半は終始ゲームをコントロールしたアーセナル。しかし、このまま終了するかと思われたアディショナルタイム、この試合の行方を大きく左右する判定が下される。

GKレノのゴールキックが跳ね返され、ボールはウルヴスのFWウィリアン・ジョゼの元へ。これにダビド・ルイスが反応しヘディングで競りに行くが、ウィリアン・ジョゼが上手くルベン・ネベスにレイオフ。CBのダビド・ルイスが引っ張り出された形に。ウルヴスはそのまま縦へ早く展開。ポストプレーからすぐにCB間へランニングしたウィリアン・ジョゼへポデンセからスルーパス。置き去りにされたダビド・ルイスが一生懸命に追いかけたものの、膝がウィリアン・ジョゼに当たってしまいPKを献上。更に判定は一発レッドの退場に。このPKをあっさりと決められ同点に。

ダビド・ルイスは故意のファールではないように見えたし、レッドカードの判定は非常に厳しいものに感じた。ただ、そこに至るまでのプレーにはミスが絡んでいたように思う。ウィリアン・ジョゼとの競り合いで負けてしまったこと、その後すぐにDFラインへ戻れなかったことは反省すべき点ではないだろうか。

完璧に近いかたちで試合をコントロールしていたアーセナルだったが、前半を終えた時点でスコアは1-1の同点。しかも1人少なくなり、優勢だった状況が一気に劣勢に入れ替わって前半を終えることになった。

■ 後半①:スーパーゴールが生まれた理由

CBの退場によりこのままのメンバーではまともに戦えないアーセナル。アルテタが決断したのは、ラカゼットを下げること。両サイドは勝負出来る場面になれば優位に立てているし、サイドを軸にカウンターから得点を狙うかたちだろう。CBにはマガリャンイスを投入し、4-4-1の布陣で後半スタート。

ブロック守備からカウンター狙いのアーセナルは、当然ながら守備ラインが深くなる。ウルヴスがボールを保持し攻撃の機会を伺う構図に。そんな中、49分にスーパーゴールが生まれる。バイタルエリア手前でパスを受けたウルヴスのMFモウチーニョが右足を一閃。距離のあるミドルシュートだったが、これがゴール左隅ギリギリに決まりウルヴスが逆転に成功する。

シュート自体は非常に素晴らしく、スーパーゴールであることは間違いないものの、アーセナルは退場者がいなければバイタルエリア手前でここまで自由にやらせていなかっただろう。特にラカゼットがいればしっかりとプレスバックにいっていたように思う。タラレバになってしまうが、結果的にアーセナルはラカゼットの不在が響くかたちになった。

■ 後半②:万事休すの2枚目

数的不利な上、スコアでもビハインドとなってしまったアーセナル。焦りからか、ミドルサードからファイナルサードにかけてややパスがちぐはぐに。とはいえ、内容は負けておらず1人少ないことを感じさせない。

何とかカウンターから同点弾を叩き込みたいアーセナルだったが、72分、ウルヴスのDF裏へのロングフィードに対してペナルティエリアから出たGKレノが手を使ってクリア。これが決定起阻止という判定で一発レッドに。珍しく目測を誤ってしまったレノのミス。前半に続き少しのミスが大きな代償さを払うことになってしまったシーンだった。

2人の退場者を出し、万事休すとなったアーセナル。試合はそのまま2-1で終了。ウルヴスは久々の勝利。アーセナルは久々の敗戦となった。

■ 試合結果

Wolverhampton 2 × 1 Arsenal

■ 得点
32分:ペペ(アシスト:ラカゼット)
45+5分:ルベン・ネベス(ペナルティキック)
49分:モウチーニョ(アシスト:ネト)

■ 交代
45+3分:ダビド・ルイス(レッドカード)
45分:ラカゼット → マガリャンイス
61分:ペペ → オーバメヤン
62分:ポデンセ → ヴィティーニャ
72分:レノ(レッドカード)
74分:トーマス → ルナルソン
74分:ルベン・ネベス → デンドンケル
90+1分:ウィリアン・ジョゼ → ファビオ・シルバ

■ 試合ハイライト

■ あとがき

前半、完璧に近い試合を展開したものの、最終的には2人の退場者を出して敗戦。理想的なスタートを切れた試合だっただけに悔しい結末となってしまった。

ただ、前半にアーセナルが見せたポジショナルプレーは、今までの積み上げの成果を感じさせるものだったし、今後に期待を持たせてくれる内容だった。

また、2人も少ない絶望的な状況の中、ピッチ上で決して諦めない姿勢を見せてくれたアーセナル。戦術的な部分だけでなくメンタルの面でも成長を感じさせてくれた。その点はとてもポジティブ。

内容は決して悪くない。怖いのは今の積み上げが消えてしまうこと。今節の前半のようなプレーを継続出来れば、未来はきっと明るい。そう感じさせてくれた試合だった。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista