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知恵遅れの子

自分を分析することはなんとも難しい
客観的にとか視野を広くとかそんな言葉は私に通用しない
一つ、他人から言われたことから自分の本来の姿が見えてくることがある

『お前は知恵遅れだ』『素直じゃないな』
『冷静になれ』『気分に波があるじゃない?』

これらは周りの人からよく言われてきた言葉だ
確かに私に当てはまっているものだけど
どうしても納得いかない
認めたくない
だが認めないことには前に進めない
一つずつ解釈してみようとする

『お前は知恵遅れだ』
この言葉は義父から長らく言われてきた
養護施設を小学校卒業と同時に退所して家庭へ引き取られた
実母と義父と妹との4人生活がスタートした
なんでも最初は順調だったが1ヶ月もすれば全てが可笑しくなっていった
母のネグレクトに義父の暴言暴力が始まった
容姿を差別や私の尊厳を破壊する暴言をなん度も浴びせてきた
気に食わないことがあれば度々暴力も振るわれた
こんな劣悪な生活の中で『お前は知恵遅れだ』という言葉が私を最も傷つけた
私は施設にいた時に、知能テストと心理テストを受けていた
その時の結果が義父に知らされていたらしく
『幼稚園児レベルの知能しか持ち合わせていない』
『お前の知能レベルは周りの子より劣っている』
ということを憎い顔でなん度も罵ってきた
義父の言っていたこととテストの結果が本当に一致していたかは定かではないが
その事実は私を苦しめた
確かに家庭で生活していた中学時代は成績は散々で人と関係を築くことも難しく
障がい者というレッテルを貼られても可笑しくない子供だった
でもそんなポンコツでも自分なりに精一杯考え悩んで傷つくだけの脳は持ち合わせていた
いつか義父を殺してやろうとそれが生きるモチベーションであった

『素直じゃないな』
この言葉は実母から喧嘩をする度に言われた言葉である
よく些細なことで母とは口喧嘩をしてお互いに傷つけ合った
どちらもどちらの正義で戦っているので話に決着はなく体力が尽きるのを待つのみだった
そして自分は自身を素直だと思っていたので尚更この言葉を聞くと反抗した
母は精神疾患を持っていて家事と育児が全くできなかった
そして起きてくるのは昼を過ぎるのが常だった
私は毎朝7時に起きて学校に行き部活をして帰ってきて
そのうえ家事や育児を私に押し付けてくる母が大嫌いだった
無論、中坊だった私は母の精神疾患を理解していなく母親として当たり前にできるだろうと母親に押し付けていた
トイレに入ったと思えば喫煙しながらスマホを触って何時間も出てこない
バスケットに溜まりに溜まった洗濯物を横目に鏡に向かって化粧をする
ゴミ袋に数十匹の小バエが集っているのに掃除ができない
母が理解できなかったが
今は少し母の脳内に起きていることを理解できる気がする
私はなんとか愚痴を言いつつ家事や育児をしていたが
私もまた振り返ってみると物事の優先事項を考慮することが苦手だった
確かに私は素直ではないがそれは母譲りの不素直さではないか
私たちは他人の欠点にはよく気がつくのだとこの言葉から教えられた

『冷静になれ』
この言葉はたくさんの人から言われてきた
私は衝動的に苛立つことがよくある
苛立つだけでなく、衝動的に逃げてみたり、衝動的に人に好意を寄せたりと
と思ったら、衝動的に何か始めてみたり、衝動的に人を嫌いになったり
何事も継続することが難しい
自分でもそれは社会人として厳禁だと分かっているだけに苦しんでいる
派遣会社で働いていたとき、衝動的に嫌気がさして早退し
二日後にはドイツに飛んでいた
ドレスデンの美しい景色を窓辺にゲストハウスの二段ベッドの上で
泣き叫いた
お金もないし当てもないし言語力もない
どうして渡独したのか今でも分からない
準備万端は私が一番苦手な言葉だ
施設で私の面倒も見てくれていた職員さんに電話で助けを求めて
十日足らずで日本に帰国した
そしてまたこの国で労働を開始するのであった
勿論、上手くいかない
自分が効率よくできないのに他の従業員に苛立ちを覚えることがなん度もあった
働き始めて三日目で上司に指示されたことに対して苛立ち『裏来いよ』と怒鳴り散らかしたこともあった
集団の中で冷静を保つのがなんとも難しい

『気分に波があるじゃない?』
鬱の自分はなんとも認識しやすい
苦しんでいるというのがその証明だ
だがエネルギッシュでなんでもできると感じている時
それを躁と認識するのは難解であった
私は躁の自分が本来の姿だと思っていた
この言葉を施設の職員さんに言われた時
3か月に一回ほどの定期で躁がやってくることに気がついた
寝る間を惜しんで繁華街に繰り出したこと
毎晩ノートにぎゅうぎゅうの文字を羅列したこと
観念奔逸と言わんばかりにアイデアが思いついたこと
これらは躁の自分が行なっていたと思い知らされた
では本来の自分とはなんだろう
勉強ができない自分?
人目を気にして億劫な自分?
過眠気味な自分?
自尊心が低過ぎる自分?
考えれば考えるほど何も分からなくなる
別に不安と恐怖をたくさん抱えて生きていきたいわけではない
別に誰かを傷つけたりそして自分を傷つけたりして生きていきたいわけではない
毎朝『よし今日も頑張るぞ!』って起きて
毎晩『今日もお疲れ様!』って寝たい
桜を見て『美しいなぁ』って感嘆したい
誰かの優しさに触れて『人間って素晴らしいなぁ』って感動したい
自分を制限しているのは私自身って誰よりも分かってるけど
自分の中に不可抗力が存在しているのも私が一番知ってる

私はとても不可解な生物だ
小学校低学年までは誰よりも足が早く、身体能力に優れていた
小学校高学年まで夜尿症で毎晩おねしょしていた
中学校では対人恐怖症になり身体硬直や神経痛に悩まさせれた
高校に上がると底辺校だったこともあるが成績が常に一番になったし
英語や中国語の試験も頑張って合格した

身体障がいは柔道で市総体優勝したことを踏まえたらあり得ないし
知的障がいも高校の成績から考えてあり得ない
では私は精神障がいを患っているのか
私は発達障がい者なのか
それが私の答えなのか
私が長らく抱えてきた社会と乖離したこの脳は
発達の障がいが所以なのか
私が幸せになる唯一の方法は
私が障がい者だということは認めることなのかもしれない
私がもし幸せと感じれることが増えて
それが自分が納得するまで続くようなら
どうかこのポンコツな脳を働かせて
母も真っ先に助けてやりたい
母もまた相当苦しんできたでしょう




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