感覚的に撮った家族写真——阿部裕介写真集『MOMENT WILL FADE』刊行記念インタビュー
世界各国を旅をして撮影を続けるフォトグラファー・阿部裕介。今回、約8年前に撮影した写真をまとめた一冊『MOMENT WILL FADE』をサンエムカラーが印刷を担当することになった。
今までの作品とは違い、撮影を頼まれた海岸での家族写真をまとめたもの。それは本人の写真の価値観を変えた思い入れのある作品だという。
今回、刊行に合わせて展示が行われる神楽坂にあるギャラリー・写場にて、表紙の写真や上製本の表紙素材の選定が行われていた。集まったのは、写場のディレクションを務めるフォトグラファー・長山一樹氏、今回の写真集のブックデザインを担当するデザイナー・清水恵介氏、そして製本を担当する株式会社望月製本所・江本昭司氏。
今までの写真とは違った感覚的な作風となる今回の写真集。その刊行に至るまでの経緯と思いを伺った。(取材日2024年6月)
元はビーチを盛り上げるイベントの記録
阿部:今回の写真集は、2015年〜17年の3年間に伊豆の近くにある今井浜海岸で撮った家族写真です。もともとは今井浜でのイベントを記録するために撮影した写真になります。
今井浜海岸は、白浜と違って砂浜の砂が黒いため、ビーチに人が来なくなっていました。そこで今井浜で宿を経営している方が、ファッション関係の知り合いに声をかけて「みんなでTシャツを1人1枚作って、Tシャツフェアをやろう」ということになり、当日は夏休みもあって家族連れがたくさん集まりました。
僕はイベントの記録のために2週間滞在していて、その家族をただただ撮ってたんですが、ずっと待ち伏せしてるというよりは、ただ一緒に遊んでたら写真が撮れていた。知り合いの家族写真をちゃんと撮ろうっていうことで海をバックに1枚撮った写真を後に現像すると、このシリーズはありかもしれないなと思うようになりました。
——元々はTシャツを目当てに来られたのですね。
阿部:主催は元々は裏原宿のおもちゃ屋さんのバイヤーの方で、横の繋がりがすごいんです。Tシャツを作ったのは、ファッションでは有名なデザイナーさんたち、リップスライムというラップグループの方、役者さんなど、名のある人たちです。今井浜海岸に行かないと買えないので、いろいろな人が家族と一緒に遊びに来て、そのTシャツを着て遊ぶというのがこのイベントの最初の目的でした。
——それが初年度。
阿部:結局3年間行いました。この撮影から、僕の興味が家族写真に入れ替わって、家族写真を撮る仕事が増えていきました。約10年前の写真ですが、今回これを1冊にしてみようと改めて思いました。
約10年前の初期衝動が詰まった作品
——なぜ約10年経って今回作品にしようと思ったのですか。
阿部:写真家は、写真を撮れば撮るほど少しずつ上手くなっていく。でも、僕が大学卒業した直後に撮った写真なので、2個のカメラとレンズも1個ずつしか持ってなかった。フォーマットが違うカメラをただ持って行っただけなので、ただいいなって思ったら撮る。そういった気持ちで写真を撮ることは、当時の自分にしかできなかったことです。
——初期衝動。
阿部:そうですね。しかもフィルムなので、最初の1年目に約1か月間撮影して帰宅して現像してみないと何が写ってるかわからない。上がってみて「わ、こんなの撮れてたんだ!」という驚きがありました。たぶん今の僕や長山さんは、仕上がりを想像しながら写真を撮ってしまうと思います。
長山:だいぶ前からそうなっていますね(笑)。
阿部:すみません、巻き込んで(笑)。自分で得た知識を元に想像しながら作る写真集もあると思いますが、これはあまり知識が乏しい時期に撮った写真だからかなり感覚的です。それを10年経って、写場の素晴らしいメンバーたちと1冊に仕上げたら、かなり価値があるものになるのではと思い、今回引っ張り出してきました。
無意識で撮った感覚的な写真
——今の自分の作品とどう違いますか?
阿部:そうですね。違いといったら、今の自分ではこういう写真を絶対撮れないということ。僕らの仕事は、基本的には作りたい目標を目指してみんなで作るという癖が付いてしまいます。でも、この写真はこういう風に撮りたいと想像して撮っている写真は1枚もないんです。
——意図してない。
阿部:例えば、長山さんがアマゾンの奥地にカメラ1個だけ持って投げ出されたらテンパると思うんですよね。ただ、そういう時に新しい作風の写真ができる可能性がある。だから僕はこの撮影以降、自分が過酷で疲れて意識が朦朧とする時に撮る写真がすごく好きになって、それからプライベートでは山で撮影するようになりました。
——過酷な環境に行って写真を撮る理由は、自分が意図しない作品を撮りたいからですか。
阿部:そうですね。僕の場合は少なからず知識が身についてしまったので、考えて撮るようになりました。だとすると、こういう写真を撮るには自分が辛い環境に身を置かないとできないのかなと。荷物が少なかったり、レンズやフィルムが限られているという制限された環境でしか撮れない写真もあるので。かなり感覚的な作品になります。
——今まで過酷な旅をテーマにした写真を撮られてきて、今回はその家族旅行がテーマとなると、だいぶ感覚が違いますよね。
子供たちがめちゃくちゃ遊び回るんですよ。ピントを合わせるのが難しいハッセルブラッドというカメラをメインにして撮ったので、旅と同じぐらい必死に撮っています(笑)。あと子供たちは意図しない動きをするので、意図しない写真が撮れるんです。
——それが面白いんですね。
阿部:でも当初、ファッションデザイナーの宮下さんから「阿部、ここに行って写真撮れ」と言われて、意味がよくわからなかった。家族が集まる写真を撮って、かっこいい写真になるのかなと思っていました。僕は大学を卒業してから、パリやロンドンのコレクションのバックステージの撮影をする仕事をして、外国人に洋服を着せて作る世界観を撮ってたので、そっちを極めてくのかなと思ってました。
——エッジな表現ですね。
阿部:まさにそういうことです。家族写真は普通だなと思っていたので作品にする考えはゼロでした。ただ、ファッションの人から言われて撮り始めて、現像してみたら「あ、これかも!」となって、どっぷりハマりました。
——「これかも!」と思った瞬間はいつですか?
阿部:まさに今回のテーマとなる家族を撮った写真があります。こちらから構図のために移動して欲しいなど一言も言わずになんとなくパっと撮った1枚の家族写真があって、距離感がちゃんと出ていたんです。下を向いてても寝ててもいいんだとか。ファッションの仕事をしてる時に、ランウェイを撮る場合、足は前じゃないといけない、目をカメラの方をまっすぐ向けるなど、テクニカルな正確さが多かった。
——自然体で撮れた。家族写真は違った面白みというか。
阿部:なんでもありだけど、いい写真になった。それがきっかけです。家族写真はスタジオアリスとかで撮る七五三さんなどの記念写真だと思い込んでいましたが、こういうのでも別に家族写真になりうるなと。
イベントが終わってからの8年間半、この家族写真をまとめて、いつか写真集にしたいなとは思っていました。ただ、一人で作ったとしても自費の写真集ではできることが限られていて、いつかこれをちゃんとしたメンバーで作りたいっていうのはずっと考えていて。そこで長山さんたちから連絡いただいた時はこれだ!と思いました。いつか誰かにこれを託そうと思っていて、約10年かかっちゃいました。
商業写真家の可能性を引き出す場所「写場」
——今回そのタイミングが来たわけですね。どういうスタッフで進めていますか?
長山:それは写場のスタッフの僕らが、阿部さんに声掛けして「写場で展示する=写真集を作る」というセットで参加してもらっています。自分はディレクション、デザインとディレクションで清水恵介さん、製本は望月製本さん、印刷でサンエムカラーさんが参加しています。
阿部:こういうことを言うのは恥ずかしいですが、このメンバー構成はすごくいいと思っています。僕からすると、長山さんは僕がカメラを始める前に見てた雑誌で撮られてた方で、僕らからしたら憧れの存在です。そういう人が、土臭く写真の場所を作っているだけで僕は写真が大好きだから興奮しちゃうんですよ。
敷居が高いというよりは写真というテーマでいろいろな人と交流できる場所を、まさか長山さんが作るとは思いもしなかったですね。どちらかというとアングラ系の人がやるだろうと思っていましたが、そのボーダーがミックスされると思ったんですよね。僕の写真を見てくれる人はこの人たちだけだと今まで決め切ってたんですけど。
——界隈が広がっていく。
阿部:かなり今回は見てくれる人が相当広がると思っていて。メンバー構成はいいなって思っていました。
商業写真家と写真家との境目を自由に
長山:僕は商業写真をがっつり撮っている側なので、写場を始める際に才能のある商業写真家をキャスティングしたかった。ただ、写真業界は、写真家と商業写真家の垣根があって、商業写真家たちが写真家と言い出したら、写真家は尺に思うだろうし。また、商業写真家は写真家の土壌には来れないと思っているだろうし。だけど、どちらも関係ないと思っています。でも、商業写真家の作品はSNSに公開するところ止まりで、そのアウトプットは限られた人しか見られない。それを自信を持って発表できる場所があればと思って始めたのが写場だった。
——商業写真家のプライベートワークというか。きちんと展示できて1冊の本にまとまるっていう可能性があるギャラリーなのですね。
長山:B面と思って撮り溜めてる写真を出して。
——それが実はA面になってしまう可能性はありますね。
阿部:本来、写真は何を撮ろうが自由じゃないですか。僕はそれを昔から考えて撮ってきたので、僕は広告もコマーシャルの仕事もたくさんやっていて、それを恥ずかしいと思ってない。僕は写真だったらなんでも楽しいと思うタイプなので、それが1番本来あるべきだと思っています。それを信念に写真を撮っていて、コマーシャルフォトでも家族写真でも山の写真でも化粧品の写真でも、ベースは全部一緒です。みんなちょっとプライドが高すぎるんで、今回はその垣根をなくそうと思ってます。
例えば、セブンイレブンでバイトしながら作家をしている人もいるだろうし、僕らは自分が撮りたい写真を撮るために食べていくための仕事もしている。そして僕は最近テニスのコーチを始めました。なので、肩書きは気にせず、写真が撮れれば全然別になんでもいいんですよ。僕が媒介者になって、考え方を自由にすることを若い子たちに伝えて自信を持ってもらうのが目的ですね。
長山:阿部くんは作品を展示するペースが早すぎて、もうネタが出尽くして展示する作品がないかなと最初に思っていて。でも家族写真があるとは知らなかった。
阿部:他には、最近作ったインドの写真集と同じタイミングで写真展が始まります。インドに1ヶ月行くので、1人でできることを考えて、電車の中だけでラフに撮った写真集を作りました。それも思い入れはありますが、どちらかというと家族写真の方に思い入れがあります。
長山:ある意味、ゴールを決めて。
阿部:イントの写真集は、仕事で培った能力で作った写真集ですね。僕らは写真の仕事で能力を得て、それでも写真を撮って作品を出していかなきゃいけない。そうなった時に何を撮るのか考えて作ってました。インドは今までに20回は行っていて、自分が持ってる知識で何かを切り取ってみようかな。
江本:仕事以外でずっと撮り溜めている作品は純度がすごい高い。その純度という言葉が正しいかはわからないけど、そういう作品を見るチャンスはなかなかない。そこが1番大事な部分なんじゃないかな。
長山:実は他にも展示をするために何人かに声をかけていて、出すものがない人もいました。やはり本腰でライフワークのように撮ってる人は面白いです。
阿部:作品を本当に作ろうと決めた理由が1個あって。これは裏話なんですけど、1年半前の長山さんの写場での最初の展示「木写」を見た時に「うわ、やっぱり写真うまい」と思ったことです。僕がデビューしてからは長山さんはコマーシャルな写真が多く、その前の長山さんはもうちょっとドキュメンタル寄りでした。作風の変化を感じて、この先どうなるんだろうという期待がありました。
若い人たちは作家についての噂をします。「この人は先生の影響でこういう作風になった」とか。僕らはそういったことを研究して先生に着きます。僕は先生に付いていませんが、僕が見た中では先生に作風が似ています。大体そうなりがちですが、長山さんは全然違うところに向かっていると僕は思いました。それと作風を変えても写真の技術はあまり消えない。ベースの技術は確実にあるから、いろいろな表現ができると思うと勇気が出ました。それで僕も商業写真を続けてもいいのかもと自信が付きました。
僕の高校の同級生が写真新世紀で賞を取りましたが、普段は床屋で5年に1回しか作品を出さない。その人からすると、僕は商業写真も撮っていたので「そういうことやってんだ」という目線で見られていて辛かった時期がありました。そう思っていたところ、長山さんの展示を見て展示をしようと思いました。長山さんは結構振り幅が広くて、色々表現していいんだなと。それが本当のきっかけですね。書かないでいてください(笑)。
——長山さんとしてはその写真集を作られた時にどういった思いがありましたか?
長山:僕は阿部さんのインドの写真集を作るのと同じテンションで作りました。というのは、今までは仕事ばかりしていて、撮りたいものがなかったんです。誰かから声をかけられて、作品を撮るのは多分うまくいかない。そのように頭で判断していて、いつか何かを撮りたくなる衝動が起きた時に撮ればいいと。そこから35歳頃に写真以外の服や物の趣味がだんだん変わってきて、そうすると興味範囲が変わり、自然と撮りたい物が見えてきました。
まず家具から始まり、使用されている木が気になり、木の材料に魅力を持ち始め、木工作家の作品が好きになり、その木を見るために工場まで行くようになりました。そういった興味の延長線上から、ひとつのテーマにして写真を撮りました。それは写場を始める前からもう動いていて、写場の柿落としの展示とタイミングが重なっていました。自分のギャラリーで自分の展示をするのもどうなんだろうと思いつつ、逆に誰かにお願いするのは難しかったので展示しました。
——そうですね。ご自分で展示を始めて、どういうギャラリーなのかが阿部さんにも伝わったのかと思います。
共同作業ならではの面白さ
長山:でも、そもそもこのギャラリーは(清水)恵介さんから、僕にこの場所を何かに使えませんかという相談から始まったので。立ち上げから内装まで一緒に行いました。
江本:当初は本当に倉庫のような状況でした。
——ギャラリーのために作り直して。
江本:僕は製本屋なので本を作ることが本業なのですが、最初に清水さんと長山さんに話を聞いていただいて、ここを写真を介していろいろな人と出会う場所にしたいということになりました。最初に想像はできなかったのですが、作りながらだんだん方向性が決まってきた。展示の回数を重ねるごとに次に展示したい方が出てきたり、広がりが増えています。
阿部:大人の本気という感じがしませんか。若者がInstagramを使って、ネット上で信じられないぐらいお金を稼いでいて、人脈を相当掴んだ人がたくさんいます。要は1人だけで成功してる人たちがいるんです。それとは逆に何人かで、ひたすら写真を選んで、表紙の生地を選んで、本を作って展示するのは、大人の本気感ありませんか。
——そうですね。そのinstagramは1人の作業ですが、やはり1冊の本を作るとなると人数がいないと作れないところが面白いですよね。
阿部:絶対に1人でできないことはあると思います。僕のこの写真集には、自分が絶対選ばない写真がいっぱい入っていて。基本的に自分の写真はどう使われてもいいと思っていて、それは自分が撮った写真ではないように見えた方が僕も楽しめるからです。やはり製本されて展示されて、いろんな人が関わることは楽しいですよね。それだけですよ。まとまっちゃいましたね(笑)。
<書誌情報>
MOMENTS WILL FADE
説明
阿部裕介が『ある家族』として2015年-2017年に今井浜海岸で撮影した作品を、2024年8月「写場」での展示に併せて一つにまとめた作品集。
「撮ろうと思って撮ったわけじゃなかった。家族の写真なんてどうやって撮ったらいいか分からなかったから。ただ夢中でシャッターを切った。そこには自分にはなかった家族の姿があった。撮ることで家族の一員になれた気がした。」
巻末の写真家・浅田政志氏との対談で語られる、この作品たちに込められた想いは写真家・阿部裕介の原点であり、作品づくりの原動力となっている。
これまでも作品集を自身で編集して発表してきた阿部にとって、「写場」に作品を託すことで自身の過去の作品と新鮮な気持ちで向き合うきっかけとなった。
タイトル『MOMENTS WILL FADE』には(その瞬間は色褪せてしまうけれど…)という背反の思いも込められている。
サイズ:250×220mm
ページ:154ページ
製本形式:上製本
表紙:Brillianta4004(オランダ)
本文:ヴァンヌーボホワイト
写真:阿部裕介
対談:浅田政志
文:徳原海
翻訳:リチャード・シャヒ
ブックデザイン:清水恵介
印刷:株式会社サンエムカラー
製本:株式会社望月製本所
プリントディレクション:篠澤篤史(株式会社サンエムカラー)
ギャラリーディレクター:長山一樹
ギャラリーファシリテーター:甲斐聡子
発行者:江本昭司(株式会社望月製本所)
発行所:写場
発行日:2024年8月3日
A collection of works that Abe Yusuke photographed at Imaihama Beach from 2015 to 2017 as "ARUKAZOKU,"collected in conjunction with an exhibition at "SHABA" in August 2024.
"I didn't take it because I wanted to take a family photo.
I didn't know how to take so-called a family photo.
Just I got carried away and pressed the shutter.
There were family photos there that I was never able to experience during my childhood.
I felt like I had become a part of the family by taking the photos.”
The thoughts put into these works are the starting point for photographer Abe Yusuke and are the driving force behind his work.
These feelings are discussed in a conversation with photographer Asada Masashi at the end of the book.
The title "MOMENTS WILL FADE" also contains a contradictory feeling.
Size: 250 x 220 mm
Pages: 154 pages
Binding Style: Hardcover
Cover Material: Brillianta 4004 (Netherlands)
Text Paper: Van Nouveau White
Photographs: Yusuke Abe
Special Thanks: Masashi Asada
Text: Kai Tokuhara
Translation: Richard Shahi
Book Design: Keisuke Shimizu
Printing: SunM Color Co., Ltd.
Binding: Mochizuki Book Binding Works Co., Ltd.
Print Direction: Atsushi Shinozawa (SunM Color Co., Ltd.)
Gallery Director: Kazuki Nagayama
Gallery Facilitator: Satoko Kai
Publisher: Shoji Emoto (Mochizuki Book Binding Works Co., Ltd.)
Publishing House: SHABA
First Edition: August 3, 2024
<展示情報>
開催期間:8月3日(土)-8月31日(土)
時間:13:00-18:00
定休日:日、月、火
8/2(金) 17:00-20:00 レセプション
8/3(土) 18:30- トークセッション 阿部裕介×長山一樹×清水恵介
「撮ろうと思って撮ったわけじゃなかった。家族の写真なんてどうやって撮ったらいいか分からなかったから。ただ夢中でシャッターを切った。そこには自分にはなかった家族の姿があった。撮ることで家族の一員になれた気がした。」
阿部裕介が『ある家族』として2015年-2017年に発表していた作品が、ついに一冊の作品集となる。
「いつか絶対カタチにしたいと思っていたが、大事な作品だからこそ、ここ!という場所でカタチにしたかった。」
阿部はその大事な機会を写場に託してくれた。デザインを担当する清水が表紙に選んだ写真は、阿部が撮った記憶すらない作品だった。写真を始めたばかりの阿部が、ただひたすら切り撮り続けた瞬間の一つ。ギャラリーディレクターの長山も交えた制作過程で、写真家としての二人の意見は、表紙の写真はこれ以外ないと一致した。この瞬間この場所でシャッターを押すことができた、その瞬間の阿部を象徴する作品だった。切り取られることがなければ褪せてしまう瞬間の数々が、あの時阿部が捉えたからこそ約10年という時を超えて甦る。
この作品の背景や想いについては、巻末の写真家・浅田氏との対談で語られているので、是非読んでいただきたい。
「もうこんな写真は撮れないと思う。」
阿部の原点であり、阿部自身も追い求め続けるフレッシュで真っ直ぐな作品たちを是非見にいらしてください。会期中は作品集の販売と併せて作品の展示も行います。
阿部裕介
1989年生まれ。青山学院大卒。大学在学中より、アジア、ヨーロッパを旅し、写真家として活動を開始。写真集『ヨサリコイ』『Relagaadee』&『Shanti Shanti』、そしてこの度、写場より『MOMENTS WILL FADE』を出版。
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